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魔王解任へ

「でも、サヤカがわざわざ魔導機工士の資格を一から取る必要はないわよ」

亜美はパフェのグラスを片付けながら、事も無げに言った。


「えっ、なんで? あたし、資格さえあれば何でもできるタイプなんだけど」


「あなたが一人でなんでもこなしたら 世界は失業者で ゾンビの様に溢れるでしょ?

それに、この街の路地裏に、ちょっと変わった変人が住んでるの。

確か彼は魔導機工士で、名前は……えっと、ドス……そう、ドスコイ・コニチ。そんな感じの名前だった気がするわ。

よくこの店にも来るのよ。……あ、噂をすれば、そろそろ彼が来る頃ね」

亜美の指差す先、店の入り口から

「デュフフ」という独特の笑い声と共に、いかにもヲタ系の雰囲気を漂わせた男がヌッと現れた。

大きな眼鏡に、ポシェットからは魔導パーツがはみ出している。


「えっ、なに亜美ちゃん。ここ、いつの間にかメイド系ならぬ『マオ系』カフェ始めたの? デュフッ、クオリティ高すぎでしょ……」

コニチは、店に入るなりサヤカを見るや否や、懐から年季の入った魔導カメラを取り出した。

そして、サヤカの許可も得ずにシャッターを切る。

「カシャッ! カシャカシャッ!」

「ちょ、待って! 何勝手に撮ってんのよ! 肖像権とかマジ知ってる?」


サヤカがツインテールを振り乱して抗議するが、コニチは夢中でレンズを覗き込んでいる。


「あのねぇ、許可なく撮ったねコニチ。今のデータ、魔王(モデル)に対する不敬罪プラス、肖像権侵害で賠償金請求ね。

マジで高いよ? 払えるの?」


サヤカはドスの利いたギャル声で言い放った。

「えっ……そ、そんな……。僕はただ、あまりの『盛り』の美しさに、工学的好奇心が抑えられなかっただけで……!」

コニチはその場に膝から崩れ落ちた。


「取り下げて欲しいなら、あたしの言う通りに魔導機器を作りなさい。

あんたの技術、あたしがプロデュースしてあげるから」

サヤカは腰に手を当て、地面に伏したコニチを見下ろした。

それから一週間。サヤカの無茶振りと監修(という名のダメ出し)に、コニチは魔導機工士仲間を総動員して応えた。

そしてついに、不眠不休の末にそれは完成した。


「できました……魔王サヤカ様……。魔導フォンの試作一号機です。必要なのは魔力のみ。これ一つで画像の記録、音声の送信、すべてが可能です……」


「でかした、コニチ! あんたマジ天才じゃん!」

サヤカは手渡された薄型の魔導クリスタルデバイスを掲げた。


「まずは、これ! 亜美ちゃんのパフェ、撮るっしょ!」

サヤカが魔導フォンを構え、亜美の新作パフェにレンズを向ける。

「ハイ、チーズ☆」

カシャッという音と共に、亜美のパフェの瑞々しい質感が、完璧なデータとして魔導フォンに記録された。


「やば……これマジ映える。異世界革命始まっちゃったかも!」

試作の成功に、サヤカはテラスで飛び跳ねて喜んでいた。


だが、


その喜びの裏側で——魔王城では、かつてないほど深刻な問題が激化していた。


「……もう限界だ。我々は道具ではない!」

暗黒の玉座の間。そこは今や、バルバトスの手によって半分が「ギャル・ピンク」に塗りたくられた、世にも奇妙な空間と化していた。


『ギャル魔王サヤカ降ろし』

城で働く魔物たちの不満は、もはや臨界点を超えていた。

度重なる突貫工事(ピンク塗装)。

トレンドについていくための休み返上の労働。

挙句の果てに、給料の未払い(サヤカが「魔王の経理」を完全に放置しているため)。

そして極めつけは、肝心の魔王本人が「映え」を求めて城を不在にし続けていることだ。

「……静まれ、皆の者」

殺気立つ魔物たちの前に、四天王の一人、ティン・ガロが静かに進み出た。


「バルバトス殿の忠誠心には敬意を表するが、今の魔王様は……自由が過ぎる。このままでは魔界の経済が破綻し、我々はピンク色の壁に囲まれて野垂れ死ぬことになるだろう」


「ティン・ガロ殿……では、どうするつもりですか?」

バルバトスが青ざめながら問う。

ティン・ガロは冷徹な瞳で、召喚の祭壇を見据えた。


「新しい魔王の擁立……。即ち、新たなる『魔王』の召喚です。

現魔王サヤカ様には引退していただく」


「召喚ですと!? しかし、サヤカ様は『職業通信講座』の正当な合格者……」

「関係ない。我々に必要なのは、ピンクの創造するギャルではなく、世界を統べる覇王だ。……サヤカ降ろしの火は、もう消せぬ」

日に日に増す、ギャル魔王への逆風。

魔物たちの怒号が、ピンク色の廊下に反響する。

もはや彼らを押さえるには、新しい、もっと「魔王らしい」存在を召喚するしかなかった。

何も知らないサヤカは、街でコニチと「魔導フォンを使いながら超ウケる!」とはしゃいでいた。

足元まで迫る、クーデターの影に気づくこともなく——。


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