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ギャル魔王の野望

その頃、魔王の城——


通称『暗黒の玉座』では、


築数千年年の歴史を完膚なきまでに破壊する大掛かりな改修工事が、突貫作業で行われていた。


「バルバトス様……! バルバトス様、いらっしゃいますか!」


廊下に響き渡る 若い側近のアルフレッドの切実な叫び。

それに応えるように、部屋の奥からヌッと現れたのは、いつもの厳格な黒い燕尾服を……あろうことか「フリル付きのエプロン」で覆ったバルバトスだった。

「どうした、アルフレッド……見ての通り、忙しいのじゃが」

バルバトスの手には、巨大なハケと、禍々しいほどに鮮やかなピンクのペンキ缶が握られていた。


「バルバトス様……そのお姿は一体……」


「魔王サヤカ様のご命令じゃ。城を『マオロリ仕様』にせよとな。この漆黒の壁をすべて、この『ギャル・ピンク』に塗り替えるのよ。

……うむ、意外と発色が良いな」


「バルバトス様……取り乱している場合ではありません!」

アルフレッドは青ざめた顔でバルバトスに歩み寄った。


「それで……なんの用じゃ。今まさに、ミラーボールを天井に埋め込む算段をつけておったところを」

「実は……。先程、スパイからの報告が入りました」

アルフレッドがバルバトスの耳元で、深刻な顔をして囁く。


その内容を聞いた瞬間、バルバトスのハケを持つ手が止まり、目は限界まで大きく見開かれた。


「……なんじゃと!? それは……本当か!」


「間違いありません。すでに動き出しているとのことです」


「それはならん……! 直ぐにでもあの方に会わなければ! ギャル・ピンクを塗っている場合ではないぞ、これは一大事じゃ!」

バルバトスはペンキ缶を床に投げ出す(床がピンクに染まったが気にしなかった)と、エプロンを脱ぐのを忘れ 、城の奥へと走り出した。

アルフレッドもその後を必死に追う。

魔界を揺るがす、事件の目がうぶき始めた。


一方その頃、

王都の城下町ではーーー

サヤカは、亜美が夜のオーナーと共同経営しているというカフェ『昼夜問わず』のテラス席で、テーブルの上にぐったりと突っ伏していた。


「あー……。暇。マジで、死ぬほど暇なんですけど……」

異世界に召喚されて、まだ二日目。

魔王という肩書きは手に入れたし、服も『マオロリ』という唯一無二のスタイルを確立した。

……だが。


「何もない! 映えもない! 暇な時にポチったりするスマホもない!

SNSの通知も来ない! この世界、娯楽の偏差値低すぎでしょ……!」

サヤカはテーブルを指先でトントンと叩きながら、虚空を見つめた。


「暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇……暇ーーーーーっ!!」

意味もなく、途方もない絶叫がテラスに響き渡る。

通りすがりの市民たちが


「またあの✞✞露出狂✞✞が叫んでるぞ」という目で見ていくが、今のサヤカにはそんな視線すらどうでもよかった。


「はいはい、サヤカさん。

そんなに叫ぶと、せっかくの可愛さが台無しよ」

そこへ、亜美が新作の特大パフェを運んできた。今度はアランに邪魔されない、サヤカのためだけの「超・特盛り盛り」だ。


「亜美ちゃーん……。あたし、もうダメ。この世界、Wi-Fi飛んでないし、詰んでるわ……」


「まあまあ、美味しいものでも食べて元気出しなさい。これ、新作の『ギャル・パッション・フルーツ添え』よ」

サヤカは愚痴をこぼしながらも、スプーンを掴んでパフェを口に運ぶ。


「んむ……。……美味しいーーーーっ!!」

一瞬で表情がとろける。糖分が脳に染み渡り、沈んでいたテンションがわずかに上向く。


「やっぱり亜美ちゃんのパフェは神だわ。これ、マジで映えの対象なのよね……。もしスマホがあったら、即ストーリー確定なのに……。あっ!?」

その時。

サヤカの脳裏に、ピカーンと眩い閃光が走った。

(ちょっと待って……。確か……異世界職業通信講座のパンフレットに……!)

サヤカの脳内で、あの時読み飛ばした膨大な職業欄が、高速でスクロールされる。資格マニアとして培った驚異的な記憶力が、一箇所で停止した。


「これだ……!! 『魔導機工士アーティファクト・エンジニア』!」

サヤカはスプーンを握ったまま、ガタッと椅子を蹴って立ち上がった。


「サヤカさん? 急にどうしたの?」


「亜美ちゃん、あたし分かっちゃった! この世界に足りないのは、インフラよ! インフラと、最新デバイス!

支配するのは世界だけじゃない……トレンドも支配しなきゃダメなのよ!」

サヤカの中で、ある壮大な構想が広がっていた。

魔力(電力)を動力源にし、魔導回路(基板)を組み込み、クリスタル(液晶)で表示する。


「スマホがないなら、あたしが作ればいいじゃん! 魔法で動く『魔導フォン』! これがあれば、魔王軍(みんな)と情報共有も秒だし、何より……魔王城(いえ)から全世界に生配信できる!」

サヤカはキラキラと目を輝かせ、驚く亜美の手を握った。


「決まり! あたし、魔王(モデル)兼、異世界初の企業CEOになるわ! 会社名は『サヤカ・オンライン』! 略してサヤオン!」

(……まって、あたしって今、魔王(モデル)だよね? でも魔導機工士の資格も併用すれば……いける! これぞ資格の掛け合わせ(マルチハブ)戦略!)

サヤカの暴走は、もはや魔王の枠すら超えようとしていた。


バルバトスが城をピンクに塗っている間に、サヤカは異世界の文明そのものを「ギャル化」させるための第一歩を踏み出そうとしていたのだ。


「とりあえず、まずは魔石と基板になる金属板……。


あと、


デコるためのラインストーンを大量に発注しなきゃ!」


「サヤカ……。あなた、本当になんでもアリなのね……」

呆れる亜美をよそに、サヤカは空になったパフェのグラスを掲げ、高らかに宣言した。

「見てなさい世界! あたしがこの異世界を、最高に『映える』世界にアップデートしてあげるから!」

サヤカは ニンマリと笑った。

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