謎の超越者 盲目のシノン
「そんなことで、納得がいくわけないだろう……! シェリー……ッ!」
壁のクレーターに埋まりながらも、ティン・ガロは執念深く顔を上げ、シェリーを睨みつけた。
「せっかく、せっかく魔王の力を手に入れたんだ……! 私はもう、お前の風下に立つ四天王ではないのだぞ!」
「残念だがね、ティン・ガロ。お前がどんなに水面で大きく跳ねようとも、大海ではその飛沫すら見えやしない。それが今の、お前の限界だ」
シェリーが冷たく突き放した、その瞬間だった。
グラーーーーンッ!!
世界が、まるで巨大な船のように大きく揺らいだ。
「なっ……!? 何これ、時がズレるみたいな……気持ち悪い感覚……っ!」
サヤカが頭を押さえてよろめく。キーラやガン・シールダーも、足元の感覚が消失したかのような眩暈に顔を歪めた。
唯一、シェリーだけが、何かが来るのを察知していたかのように、不機嫌そうな顔で虚空を睨みつける。
「よろしいではないですか、シェリーさん。この方たち闇の者を、正式な選出に参加させても……」
バリバリ……ッ!!
雷鳴のような音が空間を裂いた。そこから、当たり前のように一人の女性が歩み出てくる。
長い髪をなびかせ、その両目は漆黒の布で固く目隠しされている。怪しくも、神々しいほどの圧を放つその姿に、場が凍りついた。
「何しに来たんだい。……盲目のシノン」
シェリーの声に、隠しきれない苛立ちが混じる。
「ふふ……。せっかくこの方が、何千年という時をかけて準備をしてきたのです。ここらで少しは報いてあげませんと。あまりに不憫ではありませんか?」
シノンと呼ばれた女性は、袖で口元を覆い、くすくすと上品に笑う。
「……だからって、古の法を曲げるっていうのかい? 秩序を司るあんたが、随分な言い草だね」
「それなら、彼に期待を持たせずに……なぜ今まで放置したのです? その責任は、あなたにもありますよ、シェリーさん」
シノンの言葉に、シェリーが微かに眉を寄せる。シノンはさらに、盲目のはずの瞳を魔王たちの方へ向けた。
「それに……大魔王様の選び方も、そろそろ変えた方が良いと思っていたところですから。時代は常に、混沌を求めているのです」
目隠しの奥から、射抜くような視線を感じ、サヤカはゴクリと唾を呑み込んだ。この場にいる誰よりも、このシノンという女性の言葉には「逆らえない重み」があった。




