一触即発
「フーン。それで、あんた、いつ異世界来たわけ?」
サヤカは腰に手を当て、盛り盛りのツインテールを揺らしながら、勇者アランを上から下まで値踏みするように眺めた。
「いつ来たのかだと……? 貴様のような魔の者に教える義理などない。それが貴様に関係あるのか?」
アランは剣の柄を握りしめ、まるで不浄なモノを見るような、冷徹な視線をサヤカにぶつけてくる。
(うわぁ、引くわー……。この人、あたしのことを完全に『倒すべき悪』としてしか見てないし。話なんて聞くつもり、ミリもなさそうなんだけど!)
心の中では冷や汗ダラダラのサヤカだったが、魔王のガワと『マオロリ』の呪縛が、彼女の口をさらに不遜に動かしていく。
「あんたバカなの? あのね、魔王と言ったらゲームでも現実でもラスボなわけ。ラ・ス・ボ!
レベル1のペーペー勇者が、このダイナマイト盛りのラスボに勝てるわけないじゃん。
マジ、身の程知らずもいいとこだし」
(やめて! なんでこんな上から目線なの!? これ以上煽ったら、執念深くストーキングされるでしょ!? 謝って、今すぐ謝ってあたし!)
だが、その言葉は意外にもアランに深く刺さった。
彼は図星を突かれたように、眉間に深い皺を寄せて沈黙する。
(……確かに。俺としたことが、冷静さを欠いていた。最短半年で資格を取ったとはいえ、今の俺はレベル1。
いきなりラスボに挑むのは……まずい、非常にまずい。どう切り抜けるべきだ……?)
アランの額に、うっすらと汗が浮かぶ。
そんな彼の内心を見透かすように、サヤカは一歩踏み出した。
「それで……どうするの? 逃げる? それとも、ーーーーここであたしと戦う?」
「魔王サヤカ……!!」
アランは顔を真っ赤にして叫んだ。
「……運が良かったな! ここが聖なる加護を受けた王都じゃなかったら、今頃お前を聖なる炎が 貴様の不浄な身体を焼き尽くしていたところだぞ!」
(ヒィィィィィ! やめて! 燃やさないで! 熱いのマジ無理だから! 虎柄もマオロリも燃えやすい素材っぽいし!!)
サヤカの悲鳴は、喉の奥で虚しくかき消される。アランはこれ幸いとばかりに、大剣を鞘に納めた。
「だが、俺は今から朝食の時間だ。貴様のような邪悪な存在と遊んでいる暇はない……。命拾いしたな、さっさと行け!」
「はぁ? ダル……。マジでめんどいんですけどー。あーあ、興醒め。てか、あたしもお腹減ってるし。あたしも朝ごはん食べよーっと」
アランを鼻で笑い、サヤカは踵を返した。
(よかったぁ……。なんとか戦闘回避できた……。でも朝食って、勇者も人間なんだね。とりあえずあたしも、この世界の映えるパンケーキとか探そうかな)
ホッと胸を撫で下ろした、その瞬間だった。
「魔王様」
涼やかで、どこか浮世離れした声がサヤカを呼び止めた。
「もう、今度はなに!?
あたしは今、お腹が空いてて機嫌悪いんだけど!」
イライラ全開でサヤカが振り向くと、そこには澄んだ青色のローブを纏った、シュッとしたイケメンが立っていた。
ロカとはまた違う、知的なオーラを放つ若い男だ。
「あんた、誰? 逆ナンなら後にしてもらえる?」
「私は、貴方様の側近、アルフレッドと申します」
アルフレッドは優雅に一礼した。その仕草一つとっても、育ちの良さが滲み出ている。
「バルバトス様がお呼びです。至急、城へお戻りください」
「バル……なに? それ、新しいプロテインの名前かなんか?」
「……バルバトス様です。貴方様を補佐する、筆頭執事の」
「あーーっ! あのおじいのことね♪」
サヤカはポンと手を叩いた。バルバトスの渋い顔を思い出し、即座に顔をしかめる。
「無理無理、あたし今、超絶お腹空いてるから。また後ね。ってか、あんなカビ臭くて薄暗いお城とかマジ勘弁なんですけど。テンション下がるし」
「しかし、魔王様。政務が山積みでして……」
「帰ってきて欲しかったら、あのお城をあたし好みの『マオロリ仕様』にリフォームしといてよね! 絨毯はピンクで、壁はキラキラのデコで、シャンデリアはミラーボール! オッケー? じゃあ、バルおじいによろしこ!」
「あ、お待ちください! 魔王様!」
サヤカはアルフレッドの制止を軽やかに無視し、ひらひらと手を振りながら、活気に満ちた繁華街の雑踏へと消えていった。
(おじい、リフォーム頑張ってねー! あたしはこれから異世界グルメ、食べ歩きまくるから!)
胃袋の要求に従い、ギャル魔王は王都の平和(?)をこれ以上ないほどにかき乱しながら、自由奔放な一歩を踏み出すのだった。




