サヤカ登場
「ふふふふ……。闇の魔王たちも、随分と必死だねぇ……」
スターダストの夜風に吹かれながら、サヤカは遠くアイアン・ハーツの方角を眺めて呟いた。彼女の瞳には、かつてのライバルたちが放つ強大な魔力の衝突が映っている。
「『闇』だしね。必死にもなるだろうさ……」
隣で、紫光のシェリーが心底面倒くさそうに突っ込みを入れる。彼女は爪を研ぎながら、夜空に漂う不穏な気配を鼻で笑った。
「それだけ奴らは……ミレニアムイヤーってやつに、首までどっぷり浸かって必死なのさ」
「でもさぁ……みんな、私より弱い魔王ばっかり狙ってない? それってズルくない?」
サヤカが頬を膨らませて不満を漏らすと、シェリーは呆れたように肩をすくめた。
「あんたのような面倒くさい奴を、わざわざ正面から相手にしたくないんだろうさ。戦いってのは、より確実で、より楽な道を選ぶのが定石なんだよ。特にあのフードの男みたいなタイプはね」
シェリーは少しだけ目を細め、考え込むように首を傾げた。
「でも、闇の魔王を裏で操っている奴……。あいつは一体、何を目的にこんな大掛かりな茶番を仕掛けてるんだろうねぇ。ただの大魔王の座が欲しいだけには見えないけれど……」
「……そいつに、直接聞いてみればいいじゃないか。案外、しょうもない理由かもしれないよ?」
サヤカの軽薄とも取れる提案に、シェリーは一瞬の間を置いて、フッと口角を上げた。
「……そうだね。それが一番手っ取り早いかもしれない」
「だよね! ……でも、私、このスターダストから出ちゃダメなんでしょ? 街が消えちゃうし……」
サヤカがしょんぼりと肩を落とすと、シェリーは意外な言葉を口にした。
「……少しなら、出てもいいのさ」
「えっ、マジ!? 出ていいの!?」
「ああ。ここには元・闇の魔王(蛾次郎)もいるし、私の結界を少し残しておけば、数時間はもつだろう。……それに、まあ、話は後だ。サヤカ、ついておいで。本物の『魔王の距離感』ってやつを教えてやるよ」
「はーーーい! わかりました、師匠!」
サヤカが威勢よく返事をした、その刹那だった。
隣に立っていたシェリーの膨大な魔力が、まるで最初から存在しなかったかのように、この空域から一瞬にして完全に消失した。
「えっ……マジ!? 師匠、どこ行ったの!?」
サヤカは驚愕して周囲を見渡す。気配すら残っていない。隠密術などというレベルではない。世界の断層に滑り込んだような、完璧な「消失」だった。だが、サヤカはすぐさま目を閉じ、記憶の底にあるシェリーの独特な魔力の波長を必死に手繰り寄せる。
「……見つけた。あっちだね!」
サヤカは全魔力を解放し、一点に向けて空間を跳躍した。
キィィィィィィン!!
爆発的な音と共にサヤカがテレポートした先——そこは、魔導都市アイアン・ハーツの最上層テラスだった。
そこには、異様な光景が広がっていた。
最強魔王キーラ、鉄壁のガン・シールダー、そして魔王を喰らったフードの男。
三人の強者が互いに次の一手を放てぬまま、極限の緊張感の中で硬直していた。魔力が絡み合い、誰かが瞬き一つした瞬間に、この街ごと吹き飛ぶような均衡状態。
「……あ、なんか超ピリついてるじゃん。お邪魔虫だったかなー?」
サヤカは、その一触即発の魔圧のド真ん中に、平然とした顔で降り立った。
キーラが目を見開き、フードの男が初めて苦々しく舌打ちする。
「サヤカ……! 貴様、何故ここに……っ!」
「え? だって、みんなの喧嘩の声がうるさくて、寝られなかったんだもん♪
それに…フードあんた……
なぜ 必要以上に 私に対し敵意を見せるのか…あんたの正体わかったもんね 」
サヤカはニヤリと笑った。
最強の三人が均衡して動けないその場所で、最も「自由」な魔王が、戦場のパワーバランスを根底からぶち壊そうとしていた。




