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下克上

「冗談じゃねぇ……あんな化け物、勝てるわけがねぇだろうが……ッ!!」

暗殺魔王は、抉られた右肩から闇の魔力を滴らせながら、アイアン・ハーツの複雑な歯車と蒸気の路地を必死に逃走していた。最強魔王キーラの放った一撃は、彼の自信と肉体を等しく粉砕していた。

だが、入り組んだ路地の先、街灯の光さえ届かない場所で、一人の男が立ち塞がった。

「何者だ……!? 貴様、そこをどけ……っ!」

「……君のような者には、その力は宝の持ち腐れでしたね。その能力、私が引き継ぎますよ」

フードの男は、感情の読み取れない静かな声で告げた。その言葉を聞いた暗殺魔王は、一瞬呆然とした後、血の混じった笑い声を上げた。

「お前ごときが……この私に勝てるとでも? ただの召喚者が、図に乗るなよ……ッ!?」

暗殺魔王が印を結ぼうとした瞬間、男の手から放たれた不可視の衝撃が彼の胸を貫いた。

ズギユーン!!!!!

「グッ……、あがっ……!? 貴様、この魔力は……!」

「確かに……今の私は、お前たち十人衆よりは弱い。だが、手負いの君一人を食らう程度なら、今の私でも十分だ」

男の手のひらに、暗殺魔王の身体から溢れ出た闇の粒子が吸い込まれていく。男は獲物の味を確かめるように、冷たく微笑んだ。

「さすがですね、腐っても魔王。一回では吸収しきれませんか。なら、次ならどうです?」

「ふざけるな……! 『忍法・影光残えいこうざん』!!」

暗殺魔王が最後の力を振り絞り、強烈な閃光を放つ。視神経を焼き切るほどの光の飛沫。これで奴の目は眩んだはずだ、その隙に——。

「残念ですね。私は、既にあなたの後ろですよ」

背後に冷気が走った。暗殺魔王の動きが、凍りついたように止まる。

「ま、さか……。俺の、忍法を……待て、待てッ! 私は、私は大魔王になるために……ッ!」

「いいえ。君は、私の大魔王への『糧』となりなさい」

男の手が、暗殺魔王の頭部を鷲掴みにした。

絶叫。しかし、それは周囲の機械の駆動音にかき消され、誰に届くこともなかった。影を操る魔王の存在そのものが、霧散するようにフードの男の中へと溶け込み、消えていく。

男の背中から、今までとは質の違う、より鋭く、より深い「闇」のオーラが立ち昇った。

「……なるほど。これが魔王の力か。……悪くないですね」

闇の暗殺魔王を完全に吸収した召喚師は、自らの手を見つめ、静かに悦に浸る。一方、その頭上、アイアン・ハーツのテラスでは、キーラとガン・シールダーの火花散る激突が続いていた。

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