闇の暗殺魔王
「ふっ……。陰陽師の魔王誕生は誤算だったが、構わんよ。一人は我が手に堕ち……残り二つの枠も、じきにこの私がいただく……」
暗き地下、螺旋階段のさらに奥底。フードを深く被った男は、手元の水晶に映し出されるメテオの復興風景を眺めながら、不気味に口角を吊り上げた。彼の手のひらの上では、闇の通信講座の受講生たちの命の灯火が、怪しく明滅している。
砂漠の国スターダストを挟み、ムーン・サウンドとは真逆の対角線上に位置する場所。そこには、リュウガの治める国にさえ匹敵する強大な魔導都市があった。
国家の名は、魔導機工都市アイアン・ハーツ。
そこは古の魔法と、最新鋭の魔道機工が完璧な調和を遂げた、金属と歯車の要塞都市である。
その国を支配するのは、魔王キーラ。
小柄な体躯に、和風のゴシック装束。足元には高い花魁下駄を履き、カツン、カツンと乾いた音を響かせて歩く。彼女の華奢な右腕に装着されているのは、純粋な魔力を絶対的な破壊エネルギーへと変換する至高の魔導兵器『魔竜ガントレット』。
彼女は魔導ネットを自在に操り、思考するだけで無数の魔導ビットを同時に操り その精密な「オールレンジ攻撃」は、かつて挑んだ数多の勇者を塵に帰してきた。自他共に認める、現世代「最強魔王」の一角である。
キーラは自室のテラスで、ゆったりとキセルを燻らせていた。
「……ふぅ。ミレニアムイヤーを前に、どこの馬鹿が空をどす黒く汚しているのかと思えば……。不粋だねぇ、全く」
紫煙が空に溶ける。その瞬間、キーラの背後の影が、音もなく不自然に伸びた。
「……死ね、最強の魔王」
影の中から現れたのは、闇の通信講座「影殺術」の皆伝者——闇の暗殺魔王。
存在感も、魔力さえも完全に遮断した、一撃必殺の刃がキーラの項へと迫る。
だが、キーラは振り向きさえしない。
「……魔導ネット、展開。対象……害虫一匹。処理を開始しなよ」
キセルをくゆらせたまま、彼女が静かにつぶやく。
刹那、部屋の全方位に張り巡らされていた不可視の魔力糸が発火した。
「ギ、ア……ッ!?」
空中から、無数の魔導ビットが姿を現し、暗殺魔王の逃げ場を瞬時に塞ぐ。
キーラはゆっくりと立ち上がると、花魁下駄を鳴らして振り返った。その右腕の『魔竜ガントレット』が、獲物を見つけた猛獣のように、低く重厚な駆動音を上げ始める。
「あたしの国に、不法侵入した罰だ。……その闇の奥義とやら、あたしの機巧で粉々に粉砕してやろうじゃないか」
最強魔王キーラの瞳が、魔導通信の青い光を帯びて輝く。
闇の刺客と、機工の女王。もう一つの死闘が、静かに、しかし苛烈に幕を開けた。




