表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/51

勇者と魔王

「ちょ、ちょっと待って……なにこれ。嘘でしょ?」

ロカの店、薄暗い試着室の鏡の前。

そこに立っていたのは、虎柄の下着姿でパニくっていた「普通のサヤカ」じゃなかった。

黒いレース、重厚なレザー、そして計算し尽くされた絶対領域。


魔王の威厳とロリータの可愛さが、ギャルのマインドで煮詰められた究極の戦闘服(?)、それが『マオロリ』。


その瞬間だった。


サヤカの脳内で、閃光が走った。


それは資格マニアとして手に入れた『魔王』の自覚か、それともこの服に宿るロカの「目立ちたい」という執念か。


「……あー、マジ最高。これ、ウケるんですけど。てか、あたし超絶可愛くない? 異世界、優勝確定じゃん」

(えっ!? 待って、あたし今なんて言った!? 口が、口が勝手にギャル語を喋ってる!?)

心の中のサヤカは絶叫しているのに、口から出るのは弾けに弾けたギャル語。

それだけじゃない。震えていた足は、今や堂々としたモデル歩きを刻もうとしている。


「行くよ、ロカ。


この『マオロリ』、王都の連中に拝ませてあげなきゃ、マジ罪だし」


「……ああ。行っておいで、僕のミューズ。世界を君の色に染めるんだ」


ロカは サヤカに人差し指を差し、不敵な笑みを浮かべ 彼女を送り出すと サヤカは店を飛び出した。

いや、飛び出したというよりは、そこはもうランウェイだった。

サヤカの映る世界そのものが、ランウェイだ。

カツン、カツンと編み上げブーツが石畳を叩く。

噴水広場に戻ったサヤカは、先程まで不審者を見るようだった周囲の視線を、今度は「圧倒的なカリスマ」として一身に浴びていた。


「見せたい……。この完璧なあたしを、世界中に見せつけたい……」

(やだ! 見せないで! 誰もあたしを見ないで! 穴があったら入りたいのに!)


「もっと私を見て。跪いて、あたしのファンになりなよ。拒否権とか、マジでないから」

(違うの! 誰も見ないで! 本当は恥ずかしくて死にそうなの!)

サヤカの口と心は、完全に別々の方向へ暴走していた。

魔王の魔力。それは彼女の羞恥心を、強制的に「尊大さ」と「露出狂一歩手前の自己顕示欲」へと変換してしまう。


サヤカは腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべて王都のメインストリートを闊歩する。

「あーーぁ、なんか退屈。いっそこの空から、血の雨とか降らせちゃおうかなー、みたいな? 映えそうじゃん?」

(降らせたくないし! 怖いし! 何言ってんのあたし!? 血の雨って、不謹慎にもほどがあるでしょ!)


だが、その魔王然とした不遜な態度は、街の空気を一変させた。

人々が恐怖と羨望で道を開ける中、その「道」の先を塞ぐように、一人の男が立ちはだかった。


「今の……聞いたぞ。

血の雨を降らせると言ったな、魔王」

低く、通る声。


そこにいたのは、使い古された銀の鎧を纏い、背中には身の丈ほどもある大剣を背負った男だった。その瞳には、一切の迷いがない「正義」が宿っている。


「誰? 逆ナン? 悪いけど、あたし今、世界征服で忙しいんだけど」

(逃げて! お兄さん逃げて! あたし今、自分でも制御不能なヤバい奴になってるから!)


男は静かに、背中の大剣の柄に手をかけた。その動き一つで、周囲の空気がピリリと張り詰める。

「とうとう本音を漏らしたな…

俺はアラン。……『異世界職業通信講座』にて、勇者の資格を有する男だ」


「は……? 通信講座……?」

サヤカの動きが、一瞬だけ止まった。聞き覚えがありすぎるフレーズ。


「貴様が『魔王』の講座を受講したという情報は、運営(ギルド)から聞いている。

……資格マニアの端くれとして、その『マオロリ』というふざけた正装を見過ごすわけにはいかん」

アランは静かに大剣を引き抜いた。


「俺は……最短半年で『勇者』の資格を修得した。理論と実践、そして何より『正義』の単位はすべてS評価だ。魔王サヤカ……貴様のその不謹慎な露出、俺が更生させてやる!」


「はぁ!? 最短半年? あたしは『魔王』、最短3ヶ月の超短期集中コースなんですけど! 効率の良さじゃあたしの勝ちだし! 単位とかマジ受ける、勇者って案外真面目系なわけ?」

(やめてー! 資格のスペックでマウント取らないで! 同じ通信講座仲間なら、もっと仲良くしようよー!)


アランの剣先が、サヤカに向けられる。

「問答無用! 勇者として、その『マオロリ』という公序良俗に反する存在を討つ!」


「あー、もう、うっさいな! せっかくロカが作ってくれた新作にケチつけるとか、マジでセンスないし。

勇者アラン……あんた、あたしの『盛り』に耐えられるかな!?」

(もう詰んだ……。これ、絶対に戦わなきゃいけないやつじゃん!)

王都のど真ん中。

『魔王(最短3ヶ月)』VS『勇者(最短半年)』。

通信講座出身者同士の、世界一レベルの低い、それでいて世界を揺るがす戦いの火蓋が切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ