絶望!!活路のない戦い
「ぐうあああぁ……ッ!! おのれ、おのれぇぇぇ!!」
不浄魔王へと成り果てたメテ王の咆哮が、地下迷宮の空気を一瞬にして変質させた。
壁や床が、まるでどす黒いヘドロのようなメテ王の悪意に塗りつぶされていく。侵食される空間。清兵衛は即座に術式を編み、双子を背負うようにして結界を敷いた。
「真雄くん、桜花ちゃん、私の後ろから離れないでください!」
結界の外側では、不浄の闇が牙を剥き、五色の光壁をガリガリと削り取っていく。清兵衛は歯を食いしばる。これが単なる時間稼ぎにしかならないことは、彼自身が誰よりも分かっていた。
「清兵衛よ……。その出来損ない共をこちらへ渡せ。さすれば、お前にも私がこれから見る『大魔王の景色』を拝ませてやろう。悪い話ではなかろう?」
メテ王の歪んだ声が、四方八方の壁から響く。
「……断る、と言ったら?」
「ならば、この不浄の海に沈み、永遠に私の糧となるがいい!」
最初から勝てる戦いではない。清兵衛は冷徹に現状を分析していた。格上の魔王、それも怨嗟を吸収し続ける怪物相手に、一陰陽師が勝てる道理はない。
だからこそ、清兵衛は「勝つ」ことではなく、「繋ぐ」ことに全てを賭けた。
「ニャーま神! ニャ王ま神! 来なさいッ!!」
「あいよッ!」「呼んだわね、清兵衛!」
二体の式神が召喚される。清兵衛は自らの全霊力を、これまで温存していた最後の手札へと注ぎ込んだ。
「奥義・式神憑依……! 二人共、あとは任せますよ!!」
清兵衛の命を受け、二体の式神が双子の魔王、真雄と桜花の体へと溶け込むように憑依した。幼い彼らの瞳に、式神の鋭い光が宿る。
「……なっ、貴様……何を……!?」
メテ王が策に気づいた時には、すでに遅かった。式神を依代とした双子の潜在的な「魔王の力」が活性化し、彼らの周囲に不可侵の領域が形成される。
「ふんがあぁっ!! 舐めるなよ、虫ケラがぁぁっ!!」
逆上したメテ王の不浄の一撃が、清兵衛の結界を粉々に打ち砕いた。
衝撃に吹き飛ばされそうになりながらも、清兵衛は宙で形代を取り出し、無数に放り投げる。
「急々如律令! 万象影武者・連鎖展開ッ!!」
空に舞った形代が、数え切れないほどの陰陽師の姿となり、メテ王を包囲する。それぞれが同時に印を結び、一斉に浄化の術を放った。
「喰らいなさい! 『五行封魔陣』!!」
激しい閃光がメテ王を焼き、その表面を削り取る。だが、魔王の身体は瞬時に不浄の闇を継ぎ足し、自己修復していく。
「清兵衛……。遊びは終わりだ。貴様から順に、絶望の深淵へ突き落としてくれる」
メテ王が腕を振るった。ただそれだけの衝撃波で、清兵衛が展開した影武者たちは霧散し、本物の清兵衛だけが壁に叩きつけられる。
不浄魔王の手の中に、黒紫色の炎が凝縮された。その炎の中には、無数の亡者たちが苦悶の声を上げ、蠢いている。
「これこそが、メテオの闇。受けるがいい!」
死者の怨嗟を纏った魔弾が、清兵衛に向けて放たれた。
清兵衛は震える手を前に翳し、最後の抵抗を試みる。
「……テミス殿。あとは、頼みましたよ……ッ!!」
ドォォォォォォォォォンッ!!
魔力と術が激突するが、勢いは絶望的にメテ王に傾いていた。不浄の怨嗟が、清兵衛の光を飲み込み、その身体を黒い炎の中に連れ去っていく。
「清兵衛さま……ッ!!」
真雄と桜花の叫びが、闇に閉ざされた地下通路に虚しく響き渡った。




