異色のコンビ結成
驚くサヤカをよそに、清兵衛は真剣な面持ちで、自分がメテオの外交官を辞し、スターダストへと移住したことを告げる。
「どうして……移住なんて? あんなに立派な国にいたのに」
サヤカの問いに、清兵衛は寂しげに目を伏せた。
「私は、初めて他国を知り……このスターダストに触れて、メテオという国の異常さに違和感を抱いたのです。
この国は、どんなに小さく貧しくとも、人々の目は生きる希望に満ち溢れている。
ですが……我が母国メテオは、絶対王メテ王の独裁によってのみ、歪に成り立っているのです」
「メテオにも魔王がいるんじゃなかったのかい?」
腕を組み、話を聞いていたシェリーが鋭い口調で割り込む。
「えぇ……いるには、いるのですが。彼らは……」
清兵衛は、何かを恐れるように言葉を噤んだ。
「彼ら……? 複数いるのかい?」
「はい。双子の幼い子供たちです。ですが、彼らには魔王としての魔力が……ほとんど備わっていない。それゆえに『無能』と蔑まれ、王城の奥深くに監禁されているのです」
サヤカは絶句した。
魔力が低いというだけで、子供を閉じ込める。そんな国の在り方は、彼女の「映え」や「自由」の美学から最も遠いものだった。
「師匠……! それなら、早く行かないと! メテオは今、闇の魔王に襲われてるんでしょ!?」
駆け出そうとするサヤカ。
だが、シェリーの放った一言が、冷たく彼女の足を止めた。
「待ちな。サヤカ、メテオへ行くのは構わないが……お前は、送り届けたらすぐに戻っておいで」
「……えっ? どういうことですか、師匠」
「お前はメテオの魔王じゃない。そこまで首を突っ込む義理はないのさ。この清兵衛とテミスを送ったら、一秒でも早くここへ帰ってきな」
「えっ……私とテミス殿ですか……?」
背後で驚くテミスを無視し、サヤカは食ってかかった。
「ですが師匠! 魔王級の『闇の魔王』相手に、魔王抜きでやり合うなんて無謀すぎます!」
「サヤカ……言ったはずだよ。メテオはお前の国じゃない。お前の守るべき場所は、ここだ」
シェリーの瞳には、一切の妥協がなかった。
「だからって……見捨てろって言うんですか!?」
「口答えするんじゃないよ! ……忘れたのかい? このスターダストから、お前という『魔王』がいなくなったらどうなるかを」
シェリーの言葉に、サヤカの身体が凍りついた。
そうだ。このスターダストの街並み、人々の生活……。そのすべては、魔王サヤカの魔力が「上書き」し、維持している奇跡なのだ。
あなたがこの国を離れ、その魔力が途絶えれば——。
「……スターダストが、元の不毛な砂漠に戻っちゃう」
「それだけじゃない。まだ闇の魔王は他にも残っているんだよ。主のいない家を狙う賊のようにね。お前が家を空ければ、この国は内側からも外側からも崩壊する。それが『一国の魔王』になるという責任の重さだよ」
愕然とするサヤカ。救いたい命と、守らなければならない責任。その板挟みに震える彼女に、清兵衛が静かに歩み寄った。
「サヤカさん……。あなたはどうか、スターダストに残ってください。私はメテオに戻り、死力を尽くして闇の魔王と対峙します。……それが、故郷を捨てた私の、せめてもの贖罪です」
「……清兵衛くん……」
サヤカは唇を噛み締め、覚悟を決めた。
「……わかった。清兵衛くん、テミス。二人をメテオの城下まで飛ばすよ。それが、今のあたしにできる限界……!」
サヤカは全魔力を集中させ、転移の術式を展開した。
光の粒子が清兵衛とテミスを包み込む。
「サヤカ様……ありがとうございます。あなたは、一刻も早くお戻りを。
闇の魔王たちは、あなたの『座』を虎視眈々と狙っています……!」
テミスは頭を下げると、二人はメテオの王都に向け走り出した。
「……すまない。だけど……清兵衛くん、テミス……あとは、任せたよ……!!」
サヤカは祈るような思いで二人を送り出すと、すぐさまスターダストの防衛のため、テレポートで帰還した。
メテオ、王城下。
転移した清兵衛とテミスの目に飛び込んできたのは、黒い炎に包まれ、阿鼻叫喚の地獄と化した故郷の姿だった。
「……それではテミス殿。私たちは、私たちの戦場へ向かいましょうか」
清兵衛の肌を、禍々しい闇の魔力がチリチリと焼き焦がす。
目の前に立ち塞がるのは、監禁された双子の魔王を喰らおうとする、闇の魔王の巨大な影。
「ええ。サヤカ様に『良い報告』を持ち帰らねばなりませんからね」
二人の英雄は、圧倒的な絶望が渦巻く死地へと、迷うことなく足を踏み入れた。




