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凶刀に倒る!!

ムーン・サウンドの夜は、かつての静寂を忘れ、ネオンと喧騒に包まれていた。


亜美が営むスイーツ・ダイナー「昼夜問わず」の店内では、魔王リュウガが貸し切りでミレニアムイヤーに向けた決起集会を執り行っていた。


「さあ、諸君。俺様の美学がこの世界を席巻する日が近づいている。祝杯を挙げようじゃないか」

リュウガが、亜美の力作である巨大な「リュウガ専用・特製パフェタワー」に、最高級のシャンパンを注ごうとボトルを傾けた、その瞬間だった。


ザシュッ!!!


ドガシャァァァァァン!!!


「……っ!?」

店内の空気が一瞬で凍りついた。漆黒の炎を纏った大剣が虚空から現れ、芸術的なパフェタワーを無残にも両断したのだ。飛び散るクリームとフルーツ。リュウガの手元にあったシャンパンボトルも一文字に裂け、琥珀色の液体が虚しく床を濡らす。

パフェタワーがあった場所には、煤けた黒い鎧を纏った一人の騎士が、深く膝をついていた。


「……フッ。君をこの宴に招待したつもりはないのだが。一体誰の紹介かな? それとも、俺様のサインでも欲しくて、派手な演出で登場したのかい?」

リュウガは優しい、どこか甘い口調で問いかける。しかし、その瞳は冷徹な青い光を宿し、黒い騎士を射抜いていた。

リュウガの真の能力が静かに胎動を始める。

それは「鏡像変容」。対峙する相手の力、格、そして殺意に合わせて、自身の姿を最適な形態へと進化させる能力だ。相手が強ければ強いほど、リュウガの姿からは人間味が消え、禍々しい悪魔の要素が強くなっていく。

バキバキと音を立てて、リュウガの背中から漆黒の翼が生え、額には天を突く角が隆起する。その変貌の激しさは、目の前の騎士が「規格外」であることを示していた。

「その禍々しい魔力……。そうか。突如としてこの地に現れた、あの『十人』のうちの一人ですね……」

黒い悪意を放つ騎士が、ゆっくりと、呪われた機械のような動作で立ち上がる。


「俺は……全ての魔王を……斬る、者なり……」

「そうですか。それは奇遇ですね♪ 私も、あなたのような無粋で、パフェの味も解らぬ者が、死ぬほど嫌いなのですよ……!」

魔王リュウガの魔力が一気に臨界点へと達する。黄金の輝きと、どす黒い負のエネルギーが渦を巻き、店内のガラスが全て粉砕された。

「いけません! リュウガ様、止まってください! ここでその巨大な魔力を使われては、ムーン・サウンド全体が消失してしまいます!」

店外(カフェテラス)で見守っていたバルバトスが悲鳴のような叫びを上げた。


(それはつまり…俺様のパフェが……)


その一言に、リュウガの理性が一瞬だけ反応する。

その、わずか一刹那の躊躇。

漆黒の騎士は、その隙を見逃さなかった。


ザシュッ!!!!!


「ぐ、あ……っ!?」


黒い大剣が閃光となり、リュウガの左肩から右脇腹へと袈裟斬りに振り下ろされた。

魔王の強固な肉体が裂け、鮮血が舞う。リュウガの巨体が膝から崩れ落ちた。


「リュウガ様ぁぁぁ!!!」

バルバトスが叫びながら駆け寄ろうとする。

リュウガは薄れゆく意識を死に物狂いで繋ぎ止め、地面に手をついて踏ん張った。

「私を……傷つけて、ただで済むと思わないことですよ……下衆が……ッ!」

リュウガは残った全ての魔力を右手に凝縮し、暗黒騎士の胸板へ突き出した。

「消えなさい……俺様の視界から!」


ドォォォォォン!!


ズギューーーン!!!


暗黒騎士の体に衝撃波が駆け巡る。しかしそれは単なる破壊ではない。排水口に水が渦を巻いて吸い込まれるように、暗黒騎士の周囲の空間が歪み、彼自身の存在を飲み込み始めた。リュウガの執念が、強制的に異次元へと追放する「空間剥離」を引き起こしたのだ。

暗黒騎士は無言のまま、闇の渦へと消えていった。


「……はぁ、はぁ……。全く……、高いシャンパンだったのに……」

リュウガは、そのまま力尽きたように床に膝をついた。左肩からの傷は深く、魔力が霧散していく。


「リュウガ様! 申し訳ございません……私が、私があのような余計なことを申したばかりに、お怪我を……!」

バルバトスが涙ながらにリュウガの体を支える。

「……案ずるな。そなたのせいではない。……俺様も、あのギャル魔王が創り上げたこの街が、少しばかり……気に入っていただけだ……」


「リュウガ様……! それ以上は、それ以上はお言葉を控えてください! すぐに手当てを!」

バルバトスは必死に止めるが、リュウガの瞳には、もはや店内の光景は映っていなかった。


意識が遠のき、真っ白な景色の中に、キラキラと光る、どこか見覚えのある騒がしい人影が揺れている。

(……サヤカ。君の後に座るのも、案外悪くなかった……よ……)

リュウガの瞳がゆっくりと閉じられた。ムーン・サウンドの守護者が倒れ、事態は最悪の局面を迎えようとしていた。

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