決着!?
「おっいいねぇーー!ねぇーちゃん格闘技やってんのか!?
いいねぇ……百戦錬磨の喧嘩師に勝てるかな? 上等だよ、掛かってこい! 俺は数々の修羅場をくぐり抜けて来た男だ。お前のその綺麗な拳が、俺に通用するかどうか……試してやるぜ!」
「……そういうの、マジでダルいんですけど」
サヤカは、ブラッディ・ジョーこと蛾次郎が口上を言い終わるのを待たなかった。
格闘家としての礼節よりも、ギャルとしての「効率」と「めんどくささ」が勝ったのだ。彼女は一歩踏み込むと、無造作に正拳突きを放った。
ズドォーーーーーーーーーーン!!
サヤカの拳から放たれた衝撃波とピンクの魔力が、地鳴りを上げてヤンキー魔王を丸ごと飲み込んでいく。
城壁の石材が砕け、空気が爆ぜる。
「……気合いだーーーーっ!!
こんな物、気合いで耐え切ってやるよ……ぉぉぉぉ!!」
砂塵と光の中に消えたはずの蛾次郎だが、その野太い声だけが周囲に響き渡る。
ウオオオオオオオオ………………………トリヤーーーーッ!!!!!!
「こんなもの……根性で、吹き飛ばすッ!!」
凄まじい咆哮とともに、サヤカの放った魔力の奔流が、蛾次郎を中心に霧散した。
なんと彼は、魔法的な防御障壁を張ることもなく、ただの「気合い」と、物理的な「筋肉の踏ん張り」だけで魔王級の一撃を完全に無効化したのだ。
はあッ……はぁッ…………
「やるじゃねぇか……! お前の魂、気合いの入ったその一撃……
ググッ、俺も萌えて来たぞーーーーーっ!」
(……なんで『萌えーー』なのよ。燃えるなら、あんた一人だけで燃えててくれる?)
サヤカは心底嫌そうな顔をしたが、蛾次郎の勢いは止まらない。
「行くぞ……お前の本気はわかった! ならば、男同士の間に 最早言葉など不要! 後は拳だけで語るのみよ!」
(いや、男同士って……。あたし、どこからどう見ても女だし、マオロリ着てるし!)
だが、もはや青春群像劇の真っ只中に入り込んだ蛾次郎に、理屈を説くのは無意味だった。
彼は地面を蹴り、真正面から拳一つで肉薄してくる。魔法の応酬でも、武器の激突でもない。肉体と肉体がぶつかり合う、泥臭い「拳と拳」の殴り合い。
ズドーン!!!
激突の瞬間、凄まじい衝撃波が円形に広がり、城壁の砂埃が舞い上がった。
蛾次郎の渾身の右ストレートが空を切る。サヤカは柳のようにその攻撃をかわすと、ガラ空きになった蛾次郎の眉間へと指を向け……その指を弾いた。
パチンッ!!
スターダストの城内に響き渡る乾いた音
「ぐっ、は……っ!?」
サヤカの渾身のデコピンが、蛾次郎の額にクリティカルヒット。
たかが指一本の衝撃。
しかしそれは、通信講座で鍛え上げた魔力操作の結晶である。
蛾次郎は数メートル後方へと吹っ飛び、背中から地面に叩きつけられた。
「見事だ……サヤカ。
俺の、負けだ……。これが、魔王サヤカの力……か…」
額から血を流しながらも、蛾次郎の顔には晴れやかな笑みが浮かんでいた。
清々しい敗北。彼はサヤカを認め、その名を呼んだ。
「魔王サヤカ…俺の……負……」
敗北を宣言し、清々しく散ろうとした蛾次郎だったが、
その瞬間、
彼の意思とは無関係にどす黒い闇のオーラが、その巨体を包み込んだ。
「あ、が……あぁぁぁぁぁぁっ!?」
蛾次郎の叫びが上がる。
その目は赤く染まり、せっかくの気合いに満ちたオーラが、禍々しい「殺意」へと強制的に書き換えられていく。
「……ちょ、何これ!? あんた、まだやる気?」
サヤカは眉をひそめた。倒れた蛾次郎から立ち昇る闇は、明らかに本人の意志を超えた、上位存在による「強制執行」の気配を纏っていた。
「……殺……ス……。全テ……壊セ……」
理性を失い、怪物へと変貌していく蛾次郎。サヤカは構えを直し、背後のシェリーを見た。
シェリーもまた、影の群れを掃いながら険しい表情を見せる。
「……サヤカ、気をつけな。あの『闇の講座』の主は、合格者に負ける自由さえ与えないみたいだね……!」
シェリーは敵を払いながら言った。




