魔王&ロリータ(マオロリ)
ロカ・ビリーは、今日の快晴の太陽の光が、自分のデザインの「黒さ」を少しでも中和してくれればいいのに、などとぼんやり考えていた。
彼の店は、この中世の街並みにおいては異端中の異端。
街ゆく人々が着るフリルやレースのワンピースよりも、彼の生み出す服は奇抜で、時に理解不能とさえ言われた。
彼は「パンク」や「ゴスロリ」といった、まだこの世界に存在しない概念を無意識に体現していた。
もし彼がこの世界で名を馳せるとしたら、それは彼のデザインを常識で測れない存在——それこそ、神か悪魔のような存在が、その価値を認めた時だろう。
そんなことを考えながら、噴水広場の一角でスケッチブックを広げていたロカは、突如として巻き起こった喧騒に顔を上げた。
広場の中央で、虎柄の下着姿で佇む、あまりにも規格外の「何か」に、心を奪われた。
「……見つけた」
ロカの目に、鈍い光が宿った。それは勘ではない。確信だった。
自分のデザインを、この世界に知らしめることができる唯一無二の存在。
彼の才能の爆発を、この退屈な世界にもたらすモデル。
街の騒ぎは瞬く間に大きくなり、やがて広場の端から、数名の衛兵が「不審者、確保!」などと叫びながら駆け寄ってくるのが見えた。
「これは……逃がすものか」
ロカはスケッチブックを放り捨て、市民の間を縫うようにして走り出した。衛兵よりも先に、あの奇抜なギャルの元へ。
「おい、そこの不審者! 動くな!」
衛兵の一人がサヤカに槍を向ける。
その瞬間、ロカは衛兵を横から体当たりで押し飛ばし、サヤカの手を掴んだ。
「おっと、
これは、僕の新作だ。
『ロック・スタイル』
見ろ! この圧倒的な存在感!」
ロカは、呆然とする市民と衛兵に向かって、握ったサヤカの手を高く掲げ、まるでファッションショーのフィナーレを飾るかのように叫んだ。そして、そのままサヤカの手を引き、広場を横切って走り出す。
「ちょ、ちょっとあんた! 今度はどこに拉致するのよ!? いい加減にしなさいよ、もう!」
いきなりの展開に、サヤカは目を白黒させる。
衛兵に確保されるよりはマシかもしれないが、まさかこんなイケメンに手を引かれるとは。
ロカはニヤリと、ロックに笑った。
「拉致る? そんなのはロックじゃない。僕はただのテーラーさ。
君の魅力を最大限に引き出す、天才のね」
そう言って、彼はサヤカを裏路地へと連れ込んだ。
雑多な建物の間にひっそりと佇む、鉄扉に髑髏のマークが描かれた小さな店。
「さあ、着いたよ。これが僕の作品さ」
ロカは店の鉄扉を押し開けた。内部は薄暗く、金属のチェーンやレザー、レース、そして黒い生地の服が所狭しと吊り下げられている。
「これが僕の『ロカ&ロリ』のミューズだ。
そして、君は… 魔王とロリータ、略して『マオロリ』!」
ロカは興奮気味に、店の奥から一枚の服を取り出した。それは、黒を基調としたフリルの多いワンピースだった。だが、ただのロリータ服ではない。肩には鋭角なスタッズが、スカートの裾には破れたようなダメージ加工が施され、どこか退廃的な美しさを湛えている。
「ちょ、ちょっと待って……これ……確かに、この世界では斬新すぎるし、可愛いけど……露出がさ……」
サヤカは困惑の表情で、そのワンピースを見つめる。胸元はまだいいとしても、スカート丈がかなり短い。今の自分の虎柄下着よりは断然マシだが、それでも普段のサヤカからすれば「攻めすぎ」なデザインだ。
「はっ! 君、何を言っているんだい? 君の悪魔的露出に比べれば、布部は遥かに多いさ。
それに、これはただのロリータじゃない。『魔王』たる君の風格と、秘めたる
『可愛さ』を融合させた、まさに僕だけのオリジナル!」
ロカは熱弁を振るう。サヤカの目に映るのは、自分の理想を追い求める、純粋な「狂気」にも似た情熱だった。
「どうだい? 着てみてくれないか。
君は、この服を着るために、この世界に現れたんだ」
ロカの真剣な眼差しに、サヤカは押し切られそうになる。
(いえ…絶対にない…こんな恥ずい格好する為に異世界なんか来ないから…)
「でも、確かに…この虎柄よりは……。いや、でも、「魔王とロリータ」って何!? 魔王なのにロリータ!? 設定の渋滞もいいところだ。
「……えっと、じゃあ、とりあえず、もう少し布が多いやつとか……ないの?」
「駄目だ! 『マオロリ』は、この露出があってこそのバランスなんだ! 君の、その爆発的なプロポーションが、さらにこの服の魅力を引き立てる!」
ロカは、サヤカの胸元を指差しながら熱く語る。サヤカは思わず顔を赤くした。
(この人、自分のデザインのためなら、あたしの体型まで利用する気なの!?)
「まあ、待て。これは僕の最高傑作になるだろう。君を、この世界で一番の『マオロリ』にしてみせる!」
ロカはさらに奥から、黒いレースとレザーで装飾された、コルセットのようなトップスと、さらに短いスカート、そして編み上げのブーツを取り出した。
「これらを組み合わせるんだ。君の、そのプラチナブロンドのツインテールに、この黒いリボンを添えれば完璧だ!」
サヤカは、目の前に広がる「マオロリ」のフルセットに、再び絶望しかけた。
虎柄から解放されるのは嬉しいが、この奇抜な服装で、いったいどこへ行けというのだろう。
「あのさ……あたし、元の世界に帰りたいんだけど……」
サヤカの呟きは、ロカの情熱的なデザイン論の前に、あっけなくかき消された。
彼の瞳には、すでに完成した「マオロリ」のサヤカの姿が映っていた。
「さあ、試着室は奥だ。フィッティングしてみよう!」
半ば強引に、サヤカは試着室へと押し込まれた。
鏡に映る自分は、果たしてどんな姿になるのか。そして、この「マオロリ」を着て、いったい何が始まるというのか。
(もう、どうにでもなれ……!)
諦めにも似た感情で、サヤカは虎柄の下着を脱ぎ捨て、ロカが差し出した「マオロリ」の衣装に袖を通した。
この瞬間、異世界の「ギャル魔王」は、新たなスタイルを手に入れることになる。
「君は、この服を着こなせる唯一の存在だ!」
試着室の外から聞こえるロカの声に、サヤカはため息をついた。
もう、ここまできたら、自分の美的感覚は一度リセットするしかないのかもしれない。
「魔王」という名の、新たなステージが、彼女を待っていた。
「マオロリ」という、異端のファッションと共に。




