十連魔王召喚
カツ、コツ、カツ、コツ……。
硬い石造りの床を、冷徹な足音が等間隔で叩く。
古びたランタンの微かな灯りを頼りに、男は気の遠くなるような長さの螺旋階段を、深く、どこまでも深く地下へと降りていく。
そこは、サヤカが作り上げた地上の狂騒も、夜空に輝く月光さえも届かぬ深淵。
時間をかけ、ようやく最下層に辿り着くと、そこには巨大な、そして悍ましい威圧感を放つ黒鉄の門扉が姿を現した。
男がその扉にそっと手を触れると、闇の魔力が共鳴し、重苦しい音を立てて自動的に扉が開く。
奥へと進んだ先に広がっていたのは、床一面に禍々しく描き込まれた、見たこともないほど巨大な魔法陣であった。
「世界を混沌へ……。ククッ、ようやくこの時が来たか」
男の口から、憎悪の入り混じった独り言が漏れる。
「私は、あんなギャル魔王などより遥かに優れている……。学も、知略も、魔力もだ! それなのに、ただ『魔王の資格』がないというだけで大魔王になれない。……この世界のシステムは、なんと理不尽なことか」
男は魔法陣の中央に立ち、天を仰いで両手を広げた。その瞳には、狂信的な野望が宿っている。
「壊してやる……。私が、そのシステムごと根底から叩き壊してやる。
そのために、何千年も掛けて用意してきたのだ。……かつて、初代の異世界転入者が後世のために残したという、あの忌々しくも便利な『異世界職業通信講座』。……それを徹底的に模倣し、闇の魔力で歪めて作り上げた、究極の呪物……」
男は懐から、禍々しいオーラを放つ黒い封筒を取り出した。
「これこそが『闇の異世界職業通信講座』だ。受講料は魂。得られるのは、道徳を捨て去った破壊の力……。さあ、始めよう。予定より少し早いが、前夜祭としては最高だろう?」
男は魔法陣に膨大な魔力を注ぎ込み、呪文を詠唱し始めた。
「理を歪め、法を塗り替えよ! 我が魂の嘆きに応え、地獄の特待生たちをここに喚べ! ——十連魔王召喚ッ!!」
ドッ、ゴォォォォォォォォォォンッ!!
魔法陣が血のような赤黒い光を放ち、地響きとともに十本の巨大な光柱が立ち昇った。
空間が悲鳴を上げ、異次元の扉が無理やり抉り開かれる。
やがて光が収まった場所には、それぞれ異様な雰囲気を纏った十人の影が立っていた。
ある者は、闇の暗殺術通信講座を修了した『絶命の魔王』。
ある者は、外道錬金術通信講座の最優秀受講生『腐食の魔王』。
彼らはいずれも、男がばら撒いた「闇の講座」をコンプリートし、既存の魔王の定義を塗り替えるべく生み出された「闇の卒業生」たちであった。
「……素晴らしい。この十人の魔王が、ミレニアムイヤーの前にムーン・サウンド、そしてこの世界全土に降り立つ。
サヤカよ……お前の『正拳突き』が、この絶望に届くかな?」
男は、自分の傑作たちを見渡して冷酷に笑った。
「さあ、行きなさい。まずは挨拶代わりだ。この世界の『常識』を、その闇の資格で塗り潰してくるがいい」
十人の闇魔王たちが、一斉に姿を消す。
ミレニアムイヤーを目前に控え、世界はかつてない未曾有の危機——「闇の資格競争」へと叩き落とされようとしていた。




