ミレニアムイヤー前の静けさ……
スターダストの空は、かつてのようなどんよりとした砂色の闇ではなく、サヤカの魔力とネオンが彩る「ナイト・パーティ」のような煌めきに包まれていた。
結局、サヤカは自ら魔王の座に座ることはしなかった。
「あたし、裏でプロデュースしてる方が性に合ってるし。それに道化師の方が、どこでもつまみ食いできるから自由でしょ?」
そう言ってサヤカは、ギャル化した四天王・シェリーを「代理魔王」として玉座に据えた。
「ちょっと、サヤカ! この玉座、もっとクッション盛ってくんないと、マジでお尻痛くなるんですけどー! あと、テミスくーん、今日のご飯、糖質制限メニューにしてね!」
「御意に、シェリー様。……というか、魔王様。この新作のレオタード風コスチュームの可動域、ちょっと狭すぎませんか? 弓が引きにくいのですが」
「あー、それね! デザイン重視だから! テミスくん、足が長いんだから、もっと露出して『ファンサ』していかないと、ミレニアムイヤーの投票で負けちゃうよ?」
かつて冷徹な殺戮兵器だったテミスも、今やサヤカの指導のもと、「魅せる射手」へとジョブチェンジしていた。
シェリーとテミスは、戦場を「ランウェイ」と勘違いし始めており、スキルの全てを「いかにオシャレに敵を倒すか」に注ぎ込んでいる。
一方、国境付近の宿場町。
荷物を抱えて、トボトボと歩く一人の男がいた。陰陽師、雨乃清兵衛である。
「……あんな熱い戦い、あんな妖艶な矢……。忘れられるはずがない。メテオの外交官なんて、お堅い仕事はもう御免だ!」
清兵衛は職を辞し、家出同然でスターダストへと移住してきた。
目的はもちろん、テミスとの「再戦(という名のファン活)」である。彼はさっそく、サヤカから購入した『魔導フォン』で、テミスの「本日の練習風景」の投稿にハートを連打していた。
「よし、今日もテミス殿の矢はキレキレだな……。コメント欄に『尊い』と書き込んでおこう」
その魔導フォンには、時折、懐かしい名前からの通知も飛んでくる。
『サヤカ様! 城が全部ピンクになって、バルバトス様が毎日泣きながらデコパージュしてます! 助けて!』——アルフレッド
『サヤカ、新作パフェの試作できたわよ。こっちでも魔導フォンがバズって、行列が止まらないわ!』——亜美
サヤカは画面をスワイプして笑う。
「あはは! バルおじい、マジお疲れ。亜美ちゃんのパフェは、落ち着いたらテレポートで食べに行こーっと」
世界は今、サヤカがばら撒いた「魔導フォン」というインフラによって、かつてないスピードで繋がり始めていた。
スターダストはもはや「見捨てられた国」ではなく、世界最先端の「バズり国家」として、独立への道を突き進んでいた。
しかし。
平穏な時は、音もなく幕を閉じようとしている。
「サヤカ、遊んでる暇はなさそうよ……」
ギャル化したとはいえ、本能的な危機察知能力を残しているシェリーが、窓の外の月を見上げて言った。
「わかってるって。……いよいよ来るんでしょ。ムーン・サウンドの四天王たちが、本気で攻めてくる『あの祭典』が」
空の彼方、魔力の渦が巨大な目蓋のように開こうとしていた。
千年に一度、大魔王を選ぶ血塗られた儀式。
『ミレニアムイヤー』。
「最下位からの逆転劇。……世界一『映える』魔王が誰なのか、あいつらに教えてあげなきゃね」
サヤカは不敵に微笑むと、魔導フォンのカメラを自分に向け、ピースサインを作った。




