強くたって 当たらなきゃ たいした事ないわ!
「……ガハッ!!」
サヤカの背中が、石造りの太い支柱に激しく叩きつけられた。
肺の中の空気が無理やり押し出され、視界がチカチカと火花を散らす。
(……マジ? いま、何が起きたの……!?)
サヤカはシェリーを甘く見ていた。
魔力の絶対量だけを見れば、通信講座上がりとはいえ「魔王」の資格を持つサヤカの方が上だ。
だが、シェリーが四天王の座に君臨しているのは、単なるパワーの多寡ではない。彼女は数多の戦場を血で染め、死線を越えてきた「戦闘のプロフェッショナル」なのだ。
「道化師……。魔力が高いイコール強い、なんてのは昔の古い考えだよ」
シェリーは紫の魔槍を軽やかに回し、冷徹な瞳でサヤカを射抜く。
「場数を踏んだ者の強み……その身でしっかり味わいなさい。
戦いは、チェスのようなもの。
一手先を読んだ者が勝つのよ」
シェリーの突きが放たれた。サヤカはそれを「単純な物理攻撃」と侮り、魔力を乗せた手で受け流そうとした。
しかし——。
「甘い!!」
シェリーは突き出した槍を、当たる寸前で超高速で引き戻した。
サヤカの防御が空を切った刹那、シェリーは サヤカの懐に入ると 左手にはすでに禍々しく脈動する魔弾が握られていた。
「零距離で喰らいなさい!!」
「っ……嘘…!?」
ドォォォォォォン!!
サヤカの胸元で魔弾が炸裂した。衝撃と爆風に呑まれ、サヤカはなす術もなく後方の柱へと激突したのだ。
(くっ……
あぶな……。マジで危なかった……。
懐に入れてたこの『魔力付与お手玉』がクッションになってなきゃ、今ので胸板消し飛んでたんですけど……)
サヤカは激痛に顔を歪めながら立ち上がろうとした。
だが。
「はっ……!? シェリーが、いない……!?」
視界から敵の姿が消えていた。
直後、サヤカの背後から、空気を鋭く切り裂く嫌な音が連続して響く。
「逃がさないと言ったはずよ! 『千紫万紅・魔槍雨』!!」
振り向いたサヤカの瞳に映ったのは、無数に増殖した紫の槍の穂先だった。死の雨が、退路を断つようにサヤカを襲う。
(間に合わない……っ!)
思考が加速する。恐怖、焦燥。
その果てに、サヤカの中で眠っていた「魔王」としての防衛本能が、理屈を飛び越えて爆発した。サヤカは無意識に、迫りくる槍の群れを押し留めるように両手を前に出した。
その瞬間。
サヤカの前方の空間が、飴細工のようにぐにゃりと歪んだ。
ズ、ズズ……ッ!!
凄まじい音を立てて、シェリーの放った魔槍の雨が、その「歪み」の中に吸い込まれるように消えていく。空間そのものがサヤカを守る盾となり、攻撃を異次元へと放逐したのだ。
「……なっ!? 貴様……何を……!?」
シェリーは攻撃の手を止め、大きく跳んで間を置いた。その顔には、隠しきれない驚愕と動揺が張り付いている。
「空間を歪ませ、私の必殺の槍を飲み込んだ……?
貴様、何者だ……。こんな芸当ができるのは、最高位の魔導に通じた上位能力者のみのはず……」
シェリーの脳裏に、ある最悪の仮説が浮かび上がる。
「……まさか。ありえん……。お前、お前は……本物の『魔王』なのか……!?
まさか…… ムーン・サウンドで討たれたはずの、あの小娘だと……!?」
!
「……っはぁ、はぁ……。あー……マジで死ぬかと思った。四天王のおばさん、性格だけじゃなくて、腕も相当エグいじゃん……」
サヤカは肩で息をしながら、ピエロの仮面を脱ぎ捨てた。
もはや、道化を演じている余裕はない。隠しきれない魔力の波動が、彼女の周囲の空気をピリピリと震わせる。
シェリーは呼吸を整え、冷静に目の前の少女を見据えた。
「見た目で判断するのは、もうやめるわ。……貴様が何者であれ、このまま生かしておいては、ティン・ガロとの計画に障る」
シェリーは魔槍を水平に構え、その全身から紫のオーラを立ち昇らせた。
「次は本気よ。空間ごと、貴様を細切れにしてあげる」
「……いいよ。あたしも、さっきの借りは倍返しにしないと、ギャルのプライドが許さないし」
サヤカは通信空手で学んだ構えをとり、鋭い眼光をシェリーに向けた。
一瞬の静寂。
次に動いた瞬間、スターダストの城は跡形もなく消し飛ぶかもしれない——そんな緊張感が、謁見の間を支配した。




