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魔王出奔

流石に この格好はないわって

おじいに頼んで 違う服を選びに来たわけクローゼットを開けて

今コレ、


「ちょ、ちょっと待って……一回落ち着こう、あたし」

 サヤカは震える手で、重厚な装飾が施されたクローゼットの取っ手に手をかけた。バッと勢いよく開け放つ。


「……っ!」

 コンマ数秒。サヤカは光の速さで扉を叩きつけた。心臓がバクバクと鼓膜まで振動させる。

(見間違い。今の絶対見間違い。あたしの動態視力がギャル盛りされたせいで、変な残像が見えただけ!)

 サヤカは自分にそう言い聞かせ、深呼吸を整え。

そして「再チャレンジ」とばかりに、もう一度クローゼットを全開にした。


だが、現実は無情にも酷なものだった。


「…………これ何?」

 そこには、右から左まで見渡す限りの「黄色と黒のストライプ」。

 布面積が極端に少ないハイレグの戦闘服、羽毛がついたブラトップ、なぜかスタッズが打ち込まれた尻尾付きのミニスカート……そのすべてが、今着ている下着と同じ「虎柄」で統一されていた。


「魔王サヤカ様のお好みに合わせた、特注の御衣裳みいしょうでございます」

 後ろから、さっきの側近のおじい様——バルバトスと名乗った執事のような男が、至極真面目な顔で補足する。


「えっ……何……私の趣味って、狂なの? 露出の狂なの!?

無理無理無理無理………………無理!! 全部虎柄のコスチュームって、いつの時代のラムちゃんよ!?

今は、 令和だよ!?

ないわーーーっ!」


サヤカの叫びが豪華な寝室に響き渡る。

 資格マニアとして数々の難関を突破してきたサヤカだったが、この「超絶ギャル魔王」という資格の副作用——もとい、設定のクセが強すぎて、処理能力が追いつかない。


「あたし、こんな露出狂みたいな格好で魔王なんてやんないから! プライバシーとか尊厳とか、そういうのどこに置いてきたわけ!?」


「しかし、サヤカ様。そのお姿こそが破壊と混沌の象徴。民草は震え上がり、魔族は歓喜に沸くのです」


「民草じゃなくてあたしのメンタルが震えてるんですけど! バカなの? おじいあんた馬鹿なの?」

 サヤカは耐えられず、虎柄のクローゼットから背を向けて走り出した。


何にのよ この露出狂の世界…!!


部屋の出口へ向かって、盛りに盛られたツインテールを激しく揺らしながら。


「サヤカ様! どちらへ行かれるのですか!」

 バルバトスが慌てて後を追う。


「ブティック! どっかにまともな服を売ってる店があるでしょ! こんな、どっかのプロレスラーの様な派手な格好じゃ一歩も外に出られない!」


「ですがサヤカ様、今から地上侵攻に向けた軍事作戦会議が……。四天王様も広間に集結しております!」


「それより今の私の方が死活問題よ! 作戦会議とかマジでどうでもいい! 恥ずかしすぎて死ぬ方が先!」

 サヤカは必死だった。


 とにかく、この「はち切れんばかりの胸」と「ほぼ裸の下半身」を隠せる、トレンドを押さえた服が欲しかった。

今の自分は、盛り髪、デコネイル、虎柄下着という、情報の渋滞を引き起こしているモンスターでしかない。


「あーもう! どっか今のトレンドの店に連れてってよ!」

 半ば自暴自棄になって叫んだ。


 今の流行り、かわいい服、落ち着ける場所——。

 その瞬間、サヤカの視界が歪んだ。


 ぐにゃりと空間がねじ曲がり、足元から重力が消える。


「えっ……?」


 次の瞬間、鼻を突いたのは湿った石造りの城の匂いではなく、焼き立てのパンと、色とりどりの花の香りが混じった、活気ある街の空気だった。


「…………えっ、マジ!? テレポートってマジ!? 神引きならぬ……魔王引きじゃん!」

 サヤカは目を丸くした。


 どうやら「魔王」という資格は、思った場所へ瞬時に移動できるチート能力を完備していたらしい。


「すっご……これ、満員電車乗らなくて済むやつじゃん。通勤ラッシュ無縁じゃん!」


社畜思考発動中!!


 一瞬、資格マニアとしての喜びが勝ったが、すぐにサヤカは「ここがどこか」に気づいて凍りついた。

 

そこは、見上げるほど大きな噴水がある広場の中央だった。


 周りには、中世ヨーロッパを思わせるレンガ造りの建物が並び、多くの人々が行き交っている。


 そして。


 そのすべての視線が、今、自分に集中していた。


「あっ………………」


 サヤカの姿を思い出してほしい。

 天を突くような、盛り盛りのツインテール。

 キラッキラにデコられた長い爪。


 そして、何より、面積が数パーセントしかない

「ド派手な虎柄の下着」姿。


 中世風の清楚なワンピースを着た乙女も、鎧を纏った騎士も、荷車を引くおじさんも、全員が石像のように固まっている。


「お、おい……あれ……」


「なんだ、あの格好……」


「新手の魔物か? それとも、伝説の……虎の精霊か?」

 

ざわざわと広がる囁き声。


 サヤカの脳内アラートが最大音量で鳴り響く。


「ちょっと……やだ……」

 

サヤカは、はち切れんばかりの胸を腕で隠そうとしたが、先程のバルバトスの言葉を思い出す。


『そのお姿こそが破壊と混沌の象徴』。

(混沌どころか、あたしの社会性が破壊されるんですけど!)


「……何よ、見ないでよ! マジ、わけわかんないんですけどー!」

 

サヤカの声は、広場の噴水の音にかき消されそうなほど震えていた。

 

拉致からの魔王就任、そして異世界での全裸同然のデビュー。


 果たしてサヤカは、無事に「まともな服」を手に入れ、元の生活に戻ることができるのか。


「ってか、ここ、どこなのよーーーっ!!」

 サヤカの叫びが、異世界の青空に空虚に響き渡った。

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