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陰陽師 雨乃 清兵衛

国境越え、スターダストに一歩足を踏み入れた瞬間、陰陽師・雨乃清兵衛の顔色は一変した。

当初は王命に従い、枯れ果てた「星屑」の国を冷やかし半分で偵察するつもりだったが、その考えは瞬時に、根本から改められた。

清兵衛は深く笠を被り直し、その眼光を鋭く光らせる。


「……これは単なる『偵察』では済まぬな。外交……いや、死を覚悟せねばならん」

彼の足元から広がる石畳、目に飛び込む街並み。

それらは単なる魔力で幻影を上書きしたレベルとは次元が違っていた。

(……彼が知る限り、一夜にしてこれほどの『創造』を成し遂げる魔王は、歴史上でも指で数える程度だ。

そして、この独特の華やかさ……いわゆる『盛り方』。心当たりが一人だけいる。

……魔王サヤカ。


だが、彼女は…ムーン・サウンドを追放され、刺客の手によって討たれたと聞き及んでいるが……)

清兵衛は不敵に笑い、歩みを早めた。


「ですが、案ずるより産むが易し。

全ては、その『魔王』と名乗る者にまみえればわかる事です」


その時だった。


ポン、と軽い音を立てて、清兵衛の頭に何かが当たった。

それはコロコロと足元に転がり、地面で止まる。

「……? これは……お手玉……ですか……?」

色とりどりの布で縫われた、何の変哲もない玩具。

清兵衛がそれを拾い上げようと指先で触れた、その瞬間だった。


スドーーーーーーーン!!!!!


「ぐっ………………あ……!?」


凄まじい衝撃。いや、それは衝撃というよりは圧倒的な「重圧」だった。

お手玉に触れた指先を起点に、物理法則を無視した重力が清兵衛の全身を襲う。

(なんだ……この凄まじい魔力は…………!?

重い……。体が……魂ごと地面に引き裂かれる……! ぐっ……!!)

清兵衛は奥歯を噛み締め、必死に身体を動かそうとした。だが、まるで見えない巨大な杭で地面に縫い付けられたかのように、指一本、まつ毛一つ動かせない。肺が圧迫され、呼吸すらままならない絶望的なプレッシャー。

そして、どこからともなく、低く、冷たく、そして抗いようのない「声」が頭の芯に響いた。

「お前が……何者だろうが、関係ない

このまま帰るなら……命は助けてやる。だが、邪魔をするなら……容赦はしない。それでも来ると言うなら……

次は容赦なくなく、お前を引き裂く」

心臓を直接握られたような感覚。

直後、スッと気配が消えた。

それと同時に、清兵衛の体を縛っていた凄まじい重力は霧散し、自由を取り戻した。

「はぁっ……はぁっ……!! 今のは……っ」

清兵衛は地面に手をつき、荒い息を吐いた。額からは大粒の汗が滴り落ちる。

(……なんて……プレッシャーだ。

殺意というより、圧倒的な『格』の違いを見せつけられた。もし今のが警告でなく本気であったなら、私は今頃肉塊にすら残っていなかっただろう……)

清兵衛は、再び足元に転がっている普通のお手玉を見つめた。


「これが…魔王の力……」


だが、彼は雨乃家の名を背負い、王命を受けている身。

「……ここで逃げ帰っては、陰陽師の名が廃る。それに、興味が湧きましたよ。……この『盛り』の真実、この目で確かめさせていただく」

清兵衛は震える足を叱咤し、立ち上がった。

警告を無視し、死地へ向かうその背中を、屋根の上からピエロの仮面を被ったサヤカが冷ややかに見下ろしていた。

「……マジ、帰ればいいのに。イケメン台無しにする気かな?」

サヤカはそう呟くと、再び一瞬で気配を消した。

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