サヤカの秘策
「お嬢さん……。その心意気、進言や提案は嬉しいが、一つだけ根本的なことが抜けているんだ」
男は焚き火の火を見つめながら、重く、そして静かに語り出した。
「それは……ミレニアムイヤーに参加するには、『魔王』がこの国に存在していることが必須条件なんだよ」
「魔王……?」
サヤカは思わず首を傾げた。
さっきまで、自分がその『魔王』として名門国をクビになってきたばかりだという事実に、頭が追いついていない。
「そう。魔王がいなければ、どんなに優秀な者がいようと、魔王の資格がなければ大魔王には選ばれない。
それどころか、予選の参加資格すら与えられないんだ……。
魔王はこの世界のシステムの根幹、いわば国の『顔』であり『エンジン』なのだからな」
男は、サヤカが着ている『マオロリ』の奇抜な衣装を、単なる異国の奇妙な服だとでも思っているのか、ため息を交えて続ける。
「そして……我々スター・ダストは、ここ五回の開催の間、一度も出場さえ叶わなかった。……理由は単純だ。この国には、魔王がいなかったからだ」
「五回も……? それって五千年も欠場してるってこと!?」
「ああ。魔王不在のまま、国力は衰え、ついにはこのミレニアムイヤーをもって消滅が決まった。
今回もまた、我が国には魔王がいない。参加もできず、ただ滅びを待つのみ……。もはや、運命はほぼ確定しているのさ」
男は立ち上がると、外の様子を伺った。先ほどまで猛威を振るっていた砂の嵐が、嘘のように引いている。月明かりが砂丘を静かに照らし出していた。
「……砂漠の主も、ようやく落ち着いたようだな。嵐は去った」
男は肩に掛けていた布を直し、サヤカを振り返った。
「お嬢さんも……とりあえず、我が国へ行くかい? 滅びる直前ではあるが、一晩くらいはもてなせるだろう。そこから先は、君が別の国へ行くための準備を整えるといい」
(……ちょっと待って。これって、あたしにとって超絶神展開じゃない!?)
サヤカの脳内では、資格マニア特有の「逆転の計算式」が急速に組み立てられていた。
名門国から「要らない」と言われ、刺客まで送られて死んだことにされている自分。
一方、実力はあるのに「魔王」がいないせいで滅びかけている最下位の国。
(あたし、魔王の資格、持ってるじゃん。しかも最短3ヶ月の短期集中とはいえ、正真正銘の合格者だし!)
「ねえ、オッサン。……その話、マジでワンチャンあるかもよ」
「……?」
サヤカは不敵な笑みを浮かべ、腰に手を当てて胸を張った。はち切れんばかりの胸が、マオロリの衣装を押し上げる。
「あたしを連れて行きなよ、スター・ダストに。その『万年欠場』の歴史、あたしがギャル盛りで上書きしてあげるから!」
「お嬢さん……何を言って……」
「いいから! あたし、こう見えても意外と『資格』にはうるさいんだから! 行こう、オッサンの国へ! 逆転劇の始まりって、だいたいこういうボロい場所からって決まってんのよ!」
「逆転劇…?ボロイ?」
「なんでもない…なんでも…」
サヤカは高速で首を振る。
サヤカのギャル特有のポジティブさと、魔王の威厳が混ざり合った不思議な迫力に、男は一瞬圧倒されたように目を丸くした。
「……君は、本当に不思議な娘だな。
いいだろう。そこまで言うなら、案内しよう」
「決まり! あ、あたしのことはサヤカって呼んでいいよ。……世界一ハデな大魔王候補、降臨しちゃうから!」
サヤカは魔導フォンをポケットにねじ込み、砂漠の月夜の下、力強く一歩を踏み出した。
スター・ダスト。星屑の名を持つ消えかけの国に、今、一筋の閃光——もとい、ド派手なギャル魔王が舞い降りようとしていた。




