嵐の中で
「うーーん……」
サヤカは重い瞼を持ち上げ、ゆっくりと上半身を起こした。視界がぼやける中で大きく伸びをすると、肩からふわりと何かが滑り落ちる。
「あれ、ここ……どこ? それに、これ……」
自分の体に掛けられていたのは、使い古されてはいるが、驚くほど手触りが良く暖かい厚手の布だった。
あたりを見回すと、そこは洞窟のようでもあり、質素な石造りの建物のようでもある。
「ようやく目を覚ましたか……」
部屋の隅、サヤカに背を向けたまま窓の外の砂嵐を見つめている男がいた。
「……オッサン。誰……
あんた、あたしが眠ってる間に何か変なことした?」
サヤカは警戒して『マオロリ』の衣装を整えながら、少し尖った声を出した。
男は振り返りもせず、呆れたような溜息を吐く。
「……死ぬほど寝言を聞かされただけだ。特大盛り盛りパフェのあとの、レンジで簡単チョコ餅を食べれないのにマシマシにした……そんな贅沢な悩みを抱えたお前さんを、安全な場所に運んだだけだ」
「安全な場所? ……っていうか、レンジ簡単チョコ餅マシマシって、あたしそんなこと言ってた? マジで? 超恥ずかしいんですけど!」
サヤカは顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。
「そうだ。お前は最も危険な日に、最も危険な砂漠で寝ていたからな。
特にこの砂漠の主は『召喚者』の魔力に敏感だ。召喚者がこの地に現れると、共鳴するように砂漠も荒れる……」
男は窓の外、激しく吹き荒れる砂の渦を指差した。
「だから、俺が助けに来た。……だが、今回のこの荒れようは普通ではない。
これほどまでに砂漠が怒り狂っているのは初めてだ……」
男の声には、深い困惑が混じっていた。
「お前が何を依代にしてここに来たのかは知らん。だが、この嵐が収まったら、すぐに他の国へ行くことだ」
「……何それ。あんたの国は人を選ぶわけ? あのムーン・サウンド(サヤカがいた名門国)みたいに、『ギャルはお断り』って感じ?」
「ムーン・サウンド……? ふっ……そうではない」
男は自嘲気味に笑い、ようやくサヤカの方へ向き直った。
その瞳には、深い諦念と悲しみが宿っていた。
「この国は、もう時期終わりを迎える……。あの『ミレニアムイヤー』によってな」
「ミレニアムイヤー……。千年に一度、大魔王を選ぶ儀式。……それが、なんでこの国と関係あるのよ?」
サヤカが問い返すと、男は重い口を開いた。
「この国……スター・ダストは、万年最下位の弱小国だ。今回負ければ、国としての存在を失い、他国に吸収されることが決まっている。だから、召喚者が来たとしても、誰も寄り付こうとはせん。皆、即座に出て行く……。ここは、世界に見捨てられた国なのだ」
男は一度言葉を切ると、サヤカを真っ直ぐに見つめた。
「ミレニアムイヤーが始まるまでは、ここにいてもいい。……だが、戦火に巻き込まれる前に、他の国へ行くことを勧めるよ。お前のような若い娘が、国と共に滅びる必要はない」
「……あんたは?」
「俺はこの国と運命を共にする。……それだけが、俺に残された誇りだ」
男の言葉には、揺るぎない覚悟があった。
国を愛しながらも、その終わりを受け入れている。その切なさが、サヤカの胸にズキンと響く。
(……何よ、それ。超バッドエンドじゃん。あたしの『マオロリ』のセンスより、この世界のシステムの方がよっぽど狂ってるわ)
サヤカは膝を抱え、窓の外の猛烈な砂嵐を見つめた。
名門国をクビになり、死にかけた自分を拾ってくれたのは、滅びゆく国の男だった。
「ねえ、オッサン。……あたし、資格マニアなんだけどさ。
その『ミレニアムイヤー』で逆転する資格とか、そういうのはないわけ?」
「……勝てる資格?そんなものはない…
ただ…お前さんが 魔王だったなら、その逆転もあったかもな…」
男は寂しげに笑ったが、サヤカの瞳には、かつて通信講座の山を攻略した時のような、負けん気の強い光が灯っていた。
「ふーん……。万年最下位ねぇ。……それって、伸び代しかないってことじゃん?」
ギャル魔王サヤカはニヤリと微笑んだ。




