圏外!砂漠!
「自由だーーー!!」
なんて叫んでみたのは、ほんの数時間前のこと。
サヤカは広大な砂漠のど真ん中で、手元の魔導フォンを掲げながら、絶望的な声を上げた。
「……はぁ!? マジでありえないんですけど! 圏外って何? 圏外って!」
魔導フォンのクリスタル画面には、無情にも「圏外」の二文字が表示されている。
「おい、届かないってどんだけ遠いんだよ……。これじゃ魔導マップも使えないし、インスタ的なやつにアップもできないんですけど!
コニチ、早くアップデートしてくんないと退屈で死んじゃうよーーーー!」
どこまでも続く砂の海は サヤカの声もかき消した。
見渡す限り、映えそうなスポットはゼロ。
「マジ……ここどこ……!? もう歩くのダル。あたり砂だけで、何にもないんですけど……」
最初は解放感に浸っていたサヤカだったが、数十キロも歩けば足元は砂まみれ、ツインテールには砂塵が混じり、テンションは地の底まで叩きつけられていた。
「亜美ちゃんの特大パフェ食べたい……。もう、誰か…デリバリーしてくんないかなぁ……」
独り言も限界に達した頃、ようやく一本の古びた看板を見つけた。
『スター・ダストまで 残り123キロ』
「…………百、二十、三? 無理ゲーなんですけど。
日没までにスター・ダストに着きたいなー……なんて、やっぱり無理だったか……」
サヤカは力なく肩を落とした。
やがて、太陽が地平線の向こうへと沈んでいく。
砂漠の夜は、容赦なくその牙を剥いた。
「しょうがない。今夜はここで野宿か……。マジ、人生初のキャンプが砂漠でソロとか、笑えないわ」
日が傾くと、気温はぐーーんと下がり、凍えるような寒さが襲いかかる。
だが、サヤカが身震いした瞬間、彼女に宿る「魔王の能力」が自動的に発動した。
サヤカの周囲だけ、まるで透明なドームに包まれたかのように、快適な温度へと調整されていく。
「あー……。あったか。魔王の資格、こういうとこだけは超便利……」
けれど、体温は保てても、心の寒さまではどうにもならない。
漆黒の闇の中、何もない砂漠でポツンと一人。
「……寂しい。寂しすぎるんですけど……」
サヤカは膝を抱え、小さく丸まった。
バルおじいに無理難題を言って困らせたこと。亜美ちゃんとパフェを囲んで笑ったこと。勇者アランをからかって遊んだこと。
「……みんな、何してるかなぁ。バルおじい、城のペンキ塗り終わったかな……」
頬を伝う涙が、砂の中に吸い込まれていく。
見た目は魔王でも サヤカの中身は人間の女性
資格マニアとして常に上を目指してきたサヤカだったが、今はただ、誰かの声が聞きたかった。
サヤカはそのまま、寂しさと疲れに押し潰されるように、深い眠りに落ちていった。
「おい……起きろ。おい、聞こえるか……」
耳元で、誰かの低い声がする。
サヤカは夢の中にいた。
そこには、亜美が微笑みながら運んでくる、輝くようなパフェがあった。
「んむぅ……。亜美ちゃんの作った特大盛り盛りパフェを食べたあとの……
レンジで簡単チョコ餅は……もう食べられないよぉ……」
サヤカは幸せそうな、それでいて少し苦しそうな顔で、ヨダレを垂らしながら寝言をこぼした。
「こいつ……。死にかけているのかと思えば、何を言っているんだ……」
声の主は、呆れたようにため息をついた。
「それに、こんなに寒い夜だというのに、よくこんな……布面積の少ない服装で。正気か?」
男はサヤカの横に膝をつき、彼女の顔を覗き込んだ。
「……とにかく、ここは危険だ。もう時期嵐が来る…その前に安全な場所へ行かなくては…」
男はサヤカの細い体に手をかけ、ひょいと抱え上げた。
「……重い。この、胸の重力はどうなっているんだ? 呪いか?」
サヤカは、そんな男の困惑など知る由もなく、ガッチリとした腕の中で「チョコ餅……マシマシで……」と呟きながら、爆睡を続けていた。
サヤカを抱えた謎の人物は、月明かりの下、砂丘の向こうへと歩き出す。




