自由なギャル魔王
「新人ギャル魔王相手に、数十人掛かりって……。
マジ、どんだけビビってんのよ」
サヤカは俯き、静かに拳を握りしめた。
その肩は小刻みに震えている。
刺客たちはそれを「恐怖による震え」だと確信し、冷酷な笑みを浮かべた。
「光栄に思うんだな……。腐っても魔王だ。確実に仕留めるために、これだけの精鋭を用意させてもらった。……死ね、ギャル魔王!」
「いけぇーっ!」という怒号と共に、刺客たちが八方から一斉に襲いかかる。剣、槍、暗器。あらゆる凶器がサヤカの細い体に突き立てられようとした、その瞬間。
「……ないよ。それじゃあ……全然足りない
ナイワー!?マジ、ナイワー
魔王相手に その数の少なさ…
馬鹿なの……」
サヤカは深くて長い呼吸を吐き出した。
全身の無駄な力が抜け、逆に内側から膨大な魔力が脈動を始める。
可動部が、まるで計算し尽くされた精密機械のようにしなやかに動いた。
彼女は右拳を腰辺りで溜め、剥き出しの魔力を上乗せする。
「通信空手の『力』は、伊達じゃないしー!!」
サヤカは 気合いを込め正拳突きを放った。
ズドオオオオオオオオ………………ン!!!!!!
空気が爆ぜ、大地が悲鳴を上げた。
拳から放たれた衝撃波は、文字通り地面を抉り取り、砂塵を巻き上げながら地平線の彼方まで一直線に伸びていった。
正面にいた刺客たちは、何が起きたのか理解する暇もなく、後方の岩山ごと吹き飛ばされる。
「まだ、終わらないよ!」
着地した瞬間に八方から迫る残りの敵。サヤカは軸足をコマのように回転させ、超高速の旋回式のまわし蹴りを叩き込んだ。
ガキィィン!!
硬質な音が響く。サヤカの足が、刺客たちの鋼鉄の武器をごと両断し、その勢いのまま全員を彼方へと蹴り飛ばした。
サヤカが着地すると、彼女の拳からは白く熱い魔力の残滓が陽炎のように揺らめいて上がっていた。
「押っす……。通信空手講座(黒帯・段位取得コース)は、伊達じゃないしーって、言ったっしょ
By 黒帯サヤカ。
わずか五秒。数十人の精鋭が、一人のギャルの拳によって文字通り「掃除」された。
「魔王、サヤカ……」
唯一生き残った、いや、サヤカがわざと残したアルフレッドが、震える手で剣を抜いた。
「バルバトス様……私たちは、魔王サヤカの力を 完全に見誤っていたのかもしれません。
……これほどの武を隠し持っていたとは」
アルフレッドは悲痛な面持ちで天を仰いだ。裏切り、嵌め、それでもなお目の前の魔王は無傷で自分を見つめている。
「主への忠義を果たせぬ不覚……。この命、死を以て償わせていただきます!」
アルフレッドが覚悟を決め、剣を自らの首筋に当てた、その時。
「おっと、そーいうの、一番『萎え』だから」
サヤカが指をパチンと鳴らす。
「物品引き寄せ(アポーツ)」の魔力が働き、アルフレッドの手から剣が消え
サヤカの手の中に握られる。
「約束通り、あたしはこの国を出て行く。……
いい? 『魔王サヤカは死んだ。二度とこの地には戻らない』……そう、あんたに命を下した奴に伝えなさい」
「サヤカ様……。それではティン・ガロには通用しません…
何か…証拠が…必要です…」
「証拠? あー、これなら文句ないでしょ」
サヤカは無造作に、最初に着ていた例の「ド派手な虎柄のセパレート」をアルフレッドに放り投げた。
「これを渡せば信じるでしょ。魔王の死体は、魔力の暴走でチリ一つ残さず消滅。
残ったのはこのお気に入りの勝負下着だけ……ってね。あたしの生存、隠蔽しなさい。それがあんたができる最後の忠義よ」
サヤカはそう言い切ると、まだ手に持っていた試作機の魔導フォンを確認し、適当な遠い場所を思い浮かべた。
「じゃあね、アルくん。……次は、もっと自分の意志で仕事選びなよ」
サヤカがテレポートの魔力を発動する。光が消えた後、そこにはアルフレッドと、手向けのように残された虎柄の下着、そして無惨に抉られた大地だけが残されていた。
数時間後。魔王城。
「……報告します。魔王サヤカ、暗殺完了。 暗殺集団を道連れに自爆
塵となりました……
……現場に残されたのは、この遺品のみにございます」
アルフレッドが差し出した虎柄の下着を、バルバトスは震える手で受け取った。
その背後で、四天王ティン・ガロが満足げに頷く。
「……ふん、所詮は偽りの魔王。ミレニアムイヤーの犠牲となったことを誇るがいい。
さて、バルバトス。
すぐに次の魔王召喚の儀式に取り掛かるぞ。
ピンク色の壁は……まあ、新しい魔王への塗り替えの土台とでもしておくがいい」
バルバトスは何も言わず、ただサヤカの衣装を強く握りしめていた。
一方、当のサヤカは——国境を越え、名門魔王国家の支配を逃れ、新たな土地で「マオロリ」のスカートをなびかせていた。
「自由だーーー!!
さて、今度はどんな映えとスイーツが 私を満たすか、チョーたのしみーっ」
ギャル魔王サヤカ。彼女の「本当の」自由な冒険が、ここから始まろうとしていた。




