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アルフレッドの心痛

「バルバトス……お前にはわかっているはずだ。この国がいかに誇り高き地であるかを。これまで九人もの『大魔王』を輩出してきた、魔界きっての名門中の名門なのだぞ」

ピンク色に染まりつつある玉座の間で、四天王ティン・ガロは冷徹な声を響かせた。

壁の派手な色とは対照的に、彼の眼光は鋭く、湿った殺気を帯びている。


「今回の選出で大魔王が誕生すれば、全魔未到の十人達成……

まさに最高のミレニアムイヤーだ。

その輝かしい節目を飾るのが、あのアタマの軽そうなギャル魔王だと、お前は本気で思っているのか?」

バルバトスは、手に持ったハケを震わせ、返す言葉が見つからなかった。

彼もまた、サヤカの奔放さに振り回されながらも、どこかで彼女の「新しさ」に毒されていたのかもしれない。

だが、国の総意は残酷だった。


「……やるべきことは、わかっているな。私はこれから、真なる大魔王候補を召喚の準備を進める。

お前は、彼女を消せ。……いいな、バルバトス」

ティン・ガロは、三日月のような不吉な微笑を浮かべた。


その頃、カフェ『昼夜問わず』のテラス席では、そんな暗雲など微塵も感じさせない賑やかな声が上がっていた。

「やばっ、コニチ! この『マジ撮りモード』、肌のツヤが超盛れるんですけど! 修正なしでこれとか神すぎ!」

サヤカは試作一号機の魔導フォンを掲げ、自撮りに夢中になっていた。

横ではドスコイ・コニチが「デュフフ、魔導レンズの屈折率をギャル向けに調整した甲斐がありましたぞ」と鼻の下を伸ばしている。

そこへ、雑踏を割って青いローブを纏ったアルフレッドが姿を現した。


「あっ、あんた確か……魔王の側近の、アル何とかくん!」


「アルフレッドです……」


「そうそう、アルくん! それで、バルおじいは頑張って改修工事してる?

城、ちゃんとキラキラになってるかな?」

サヤカが屈託のない笑顔を向ける。


しかし、アルフレッドの表情は、かつてないほどに沈痛だった。


「ま・魔王サヤカ……。死にたく、なければ……今すぐこの地を去ってください」


「えっ!? ちょっと、何その不穏な空気。マジで空気読めてないんですけど……」


「あなたは、あまりに自由であり過ぎた。……小さな国の魔王なら、それでも許されたでしょう。

だがここは違う。九人もの大魔王を輩出した名門中の名門。

そして、全魔未到の十人目が誕生するミレニアムイヤーに…

あなたはこの国の魔王に相応しくない」

アルフレッドの声が震える。


「……あなたでは大魔王の座は務まらないと、国が判断を下しました」


「それってつまり……クビってこと?

………やったーーー!

資格だけ持っとけばいいんでしょ? これで自由に亜美ちゃんのパフェが食べられるじゃん♪」

サヤカは能天気に両手を上げた。


だが、アルフレッドの瞳にあるのは同情と絶望だった。


「サヤカ様……それは違います。

一国に魔王は一人だけ。

新しい魔王を召喚する場合、前任者は……国を捨てるか、消されるしかないのです」


「……消される?」

サヤカの動きが止まった。


「そして、その刺客がアルフレッド……あなたなの?」


「……そう思うのであれば、私にそうさせないでください。これは、あなたが助かる唯一の方法です。

この国を捨て、今すぐ逃げてください。バルバトス様の……最後の願いでもあります」


「バルおじいが…

で、もし……断ったら?」


「……死ぬまで、狙われ続けます」

重苦しい沈黙がテラスを支配した。横で聞いていた亜美やドスコイ・コニチは、言葉を失って顔を見合わせる。


サヤカはアルフレッドの目をじっと見つめた。

(……どう見ても、アルくんが『エイプリルフールでしたー!』なんて冗談を言うタイプには見えない。マジだ……マジのやつだ、これ)


「わかったわ。あたし、出て行く……」


サヤカは今までのドタバタを思い返し、潔く決断した。資格マニアとして「引き際」の重要性も心得ていたのだ。


「……賢明な判断です。国境まで、私がお送りしましょう」

アルフレッドはそう言うと、震える手でサヤカの手を取った。


「失礼します」


彼がテレポートの魔術を唱えた瞬間、視界が白く塗りつぶされる。

(さらば、王都。……まあ、スマホ(魔導フォン)さえあれば、どこでもやっていけるしね!)

そんな甘い考えは、次の瞬間に打ち砕かれた。

転送が終わった先。そこは荒涼とした岩場だった。

だが、国境の門は何処にも見えない。

代わりにサヤカを待ち受けていたのは、抜身の刃を構えた数十人の黒装束の集団


——魔王直属の暗殺部隊だった。


「……えっ? ここ、どこ? 国境じゃないじゃん!」

サヤカが驚いて隣を見ると、アルフレッドは顔を伏せ、その場に膝をついた。


「……申し訳、ありません。私は……命令には、逆らえなかった……」


「嘘……、アルくん!? あんた、あたしを嵌めたの……!?」


四方を囲む刺客たちが、じりじりと距離を詰めてくる。

サヤカの手元にあるのは、まだ武器にもならない試作機の魔導フォンのみ。

絶体絶命。

ギャル魔王サヤカの「詰み」が、今度こそ現実のものになろうとしていた。

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