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②殺人輪舞の夢を観る  作者: 邑 紫貴


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第三章:輪舞。壱


林藤さんとの約束。

警戒の解けた時期に、村に潜入する約束をした。その日まで一切接触を持たず。普通の生活を続ける事も約束だった。

エン、君のいない生活が。通常ではないのに。


学校の裏にある神社で待ち合わせ。林藤さんは、先に来ていた。

「入るぞ?」と、神社の方を見る。

「神社にですか?」

「あぁ。夜まで時間を潰す。着替えは?」

「はい。出来るだけ黒と言われたので。中で着替えます。」

着替えが終わり、林藤さんと床に座る。小さな神社に二人で座り、打合せをした。

「一度、山を下りて?」

「いや、この裏に村への抜け道がある。」

ドキドキする。異質な村。未開発な、外部の人間を入れない所。

「本当は、墓を暴きたいんだが。」

「えぇ?!」

「しっ。静かに。」

慌てて、手で口を押える。

「本当に死んだのか、一番手っ取り早い。でも、村の様子が分からない。いいか、ここで今後の予定はすべて決めておく。覚えろ。記録には残すな。」

林藤さんの警戒心が不思議だった。でも、それが正しいのだと知ることになる。

そう、自分たちの命が危険にさらされていたのだから。

日が沈み、闇が来る。

「行くぞ。」

「はい。」

「夢幻、先に言う。逃げるときは、振り返るな。」

どうして。何故、そんなことを言うのか。怖くて訊けなかった。ただ、何かが俺に重く圧し掛かる。

これは現実なのだろうか。まるで夢を。ミテイル。ようだ。

少し震える足。真実を知らないほうが良かった?


静かな村。家族の団らんを楽しむ小さな家がポツポツ。そして、地主の大きな家。

ここは、すべてが謎なのだと。林藤さんは闇に消えそうな声で言う。

俺たちは山に沿い、墓地を捜した。

そして蝋飴家の墓を見つけた。新しい花の多さが、亡くなった事実を告げているように感じ。涙が零れた。

「俺の彼女のときは、これが無かった。」

俺たちは、怖さも感じず。異様なその場所に立つ。

「なぁ、夢幻。お前、彼女のこと。どこまで知っている?」

林藤さんの言葉に、体が硬くなる。

そう、俺は。亡くして気がついた。何も知らないことに。友達のことさえ。

「名前・クラス。誕生日は3月だと。紙に書けない事が殆んど。性格、人柄、体の温もり、匂い。」

「俺もそうだった。何も、知らない。死んで、初めて。この村の子なんだと知った。インターネットで調べた。この村に生れた女の子は、死亡率が高い。その彼氏すべては、俺たちと同じ共通点があった。」

「それは。」

訊こうとした時、ライトが照らされる。

「誰だ!」

村人に見つかった。

打合せ通り、二手に分かれて走る。力の限り走った。息が切れ。重くなる足を必死に動かす。

家に帰るときも、離れた所に一度行き、角を三回曲がった。誰も、ついて来ていないことを確認するため。

家に無事に着いた。

「遅かったのね。」

「あぁ。ちょっと友達と遠出していたんだ。テストも終わったしね。ご飯、残りある?」

いつものように振舞った。


朝。

新聞に。知る名前を見つけ、体が凍るように冷たく固まる。『林藤 樹雄』

「夢幻、あなた大丈夫?顔、真っ青よ?」

「学校、今日休む。」

ふらふらと、自分の部屋に足を向ける。

死んだ?林藤さんが。近くの川で溺死だった。

怖い。恐ろしい。恐怖が俺を襲う。

一体、何が。次は俺なのか?


死を。観た。


数日。俺は悪夢にうなされる。

すべてが嘘なら。夢だ。すべて忘れよう。

忘れられない!忘れることなんて、不可能だ!!エン。林藤さん。

【コンコン】

ノック音に、体が固まる。

「俺だ。花菱。」

「英?入っていいよ。」

心配して来てくれたのだろうか?

「大丈夫か?これ、ノート」

「あぁ、悪い。」

沈黙。

「そう言えば、進学クラスの。」

「あぁ。岸谷さん?」

「今日、来ていたよ?心配してる。クラスのみんなも。」

そうだった。エンが亡くなって、見守ってくれた友達。

今は何も考えず学校へ行こう。でないと、みんなの負担になる。

「英、ありがとうな。俺、明日から学校に行くよ。」と、微笑んでみる。

「無理すんなよ?」



朝。

「おはよう。」

いつものような朝が、また繰り返される。それでいい。今は。

「おはよう。早く食べなさい!」

温かいご飯。優しい家族。

「行ってきます!」

自転車に乗り、漕ぎ出す。

休んでいたからか、体が重い。坂はきつく。自分の苦しみが、生きていることを実感させる。

「はよ。」

「ユメ!大丈夫か~?」

「おう。教室でな!」

温かい世界にいる。

「夢幻、おはよう。大丈夫か?」

「英、昨日はありがとうな。もう、大丈夫だから!」と、無理して笑ってみせる。

そんな俺に、苦笑いで。「無理するな!少しずつでいい。」と。

安心。心地よい空間。それに、俺は甘えてはいけなかったのかもしれない。

後悔は、すべて真実を知ったときに味わうものだから。


消えていく命は。儚い。

日常が繰り返され。日々は続き。流れていく。

心の片隅に、黒く渦巻く消えない存在。クルクルと、その周りを回り。踊っているようだ。

ただ、楽しくもない。死の輪舞。俺は踊る側なのか。観ている側なのか。

ただ、それが自然死なら。

これは殺人?夢なら覚めてくれ。覚めることのない夢に。俺の心は現実逃避する。


そして、また一つの灯火が消えた。君は、そこに。いたのに。

俺に係わる人は死んでしまうのか?人と係わらないなんて無理だ。

泣き崩れ。息継ぎも苦しい。

誰か。俺を、ここから。この悪夢のような現実から。助けて。入って抜けない。死の輪舞。

彼女も。殺された?殺人。なのか?

「夢幻。偶然だ、気にするな?」

英が俺に近づく。

ビクッ。体が硬くなり、動かない。自由が制限されたように。

「悪い。しばらく、一人にしてくれ。」

英まで巻き込みたくない。

何故だ?関係ない。彼女は、エンと。いや、エンのことを調べようとしたのか?なら、巻き込んだのは俺?何故、俺なんかに。


岸谷きしたに 陽香ようこ

君は、進学クラス。夜遅く、塾に通っていた。いつもは友達と帰るか。家族の誰かが迎えに来ていた。

その日に限って、一人で帰るなんて。

不思議なことに、君は夜の公園を通った。近道に考えられないことはないが、そこを通らなくても変わらない距離。

その池で、君は見つかった。

そして、細い首に。男の。手で絞めた痕。服に乱れはなく、金銭に手もつけていなかった。

君に私怨?想像ができない。綺麗な子だった。嫌味のない明るい笑顔。元気一杯の声。

まるで、闇にいる俺をも照らす太陽。心を軽くした一人。


俺は一応、エンのこともあって警察に呼ばれた。ここに林藤さんはイナイ。

警察は知っている。その林藤さんも、俺とかかわりがあったと。接触があったのか訊かれたが、黙っていた。

俺が殺したんじゃない。俺に?エンに。いや、あの村に係わったから。亡くなる?

知ってはいけない。けど、知らなければ進めない。止まったまま。林藤さんのように生きる?

「外の空気吸おうか?」

年配の刑事が言う。


警察署の屋上。風は少なく、春はまだ遠いのに。穏やかな天気。

「林藤は、俺の部下だった。」と、俺を見つめる。長年の経験を積んだのだろう。俺の目で、何かを読んだ。

「これは、大きな独り言だ。気にするな?」

タバコに火を点け、吸い。煙を吐く。

「新人だったアイツは、睡眠もそこそこに。ナニかを調べていた。神隠村だ」

知っている人がいた。林藤さんは28。長い間、調べたが今まで生きていた。これは。

「確かに、異質だ。だがな。アイツの彼女も。君の彼女も。遺体を俺が視た。」

死。んでいた。

「悪いな。アイツが、期待させたのか。すまない。アイツに何度も言ったんだ。信じなかった。可哀相な奴だ。」

俺の頬を、涙が伝う。

「あ。れ?」

止まらない。溢れるというより流れ続ける涙。自分が泣いている感覚のない。流れる水。

「泣け。止めるな。止めたら、一生泣けなくなる。アイツのように。止まるな、進め。まだ、お前には未来がある。」

「はい。……あの、林藤さんの死因は何ですか?」

新聞は見れなかった。名前を見つけただけで怖くて。視界が暗く、闇に覆われた。

「自殺。か、殺人か。」

「え、自殺はありません!!」

つい、大きな声を出してしまった。

「あぁ。けど、幸せそうに。笑ってた。」

殺されながらも。本当は、死を。

「お前は選ぶな。現実は厳しい。受け止めろ。そして、生きてくれ。橋から飛び降りたか。突き飛ばされたのか。君の彼女も。死因は水。そして岸谷 陽香も。」

俺は、血の気が引くのを感じた。

「刑事さん。犯人は、俺の。身近な人?」

声が震える。

「多分。しばらく君の身辺を調べ、警護する。水には近づくな。味方を準備した。囮にもなってもらう。そいつは。」



数日後。

「英、悪い!先、行ってて。」

次の時間は、移動教室。

俺の周りは、女の子が近づかなくなった。それでいい。英は相変わらず近くにいた。

しかし信じられないな。刑事さんの深読みかもしれないし。

悪いことが重なった。そんな簡単な言葉で片付けられない。人の命が。どれほど儚いのか。

「ね、まだ?」

「委員長、勘弁してよ。」

「ダメよ!先生に怒られるのは、私なんだから。」

可愛い顔が台無しで、怖い顔。

「私の名前は、川口!委員長じゃありません。」

距離をおきたいんだ。また、誰かを失うのが怖いから。

「出来た!」

休んでいた間に学んだところが、抜き打ちテスト。惨敗に、プリント提出が期限を超え。こんなことに。

「じゃ!」

出来立てのプリントを奪い、委員長は職員室に走った。

悪い事したな。次の移動、間に合うだろうか?

誰もいない教室。静かな時間。

エン。君は、まだ心にいる。君の温もりが。今も、よみがえる。エン。俺の喪失感は何かで埋まるだろうか?

君の代わりなんて、いない。心が。寒い。開いた穴に風が通る。


「きゃぁ~~」

叫び声。

川口の声!俺は急いで、声のしたほうに走る。職員室への道。多分、階段?

叫び声に、生徒が集まっている。その人垣をかき分け、近づこうとしたが。動く人波に、動きを止められる。

先生が、頭を打っているから動かすな。と。

人のざわめきが消える。

立ち尽くす。赤い血が広がって。目の前が暗くなった。

俺は、その場を離れる。刑事さんに電話を。携帯を持つ手、指が震える。

「っ。」

声を押し殺し、泣いた。廊下の、冷たい壁に体重をかけ。そのまま。床に崩れる。

【携帯のコール音】刑事さんだった。

身辺を警護している。俺の様子を、どこかで見ていた。なんとか通話ボタンを押す。

「はい。」

「彼女の命に別状は無い。大丈夫だ!」

その内容もそうだが、優しい落ち着いた声が、俺を安心させる。

「そうですか。わかりました。今日。ですね。はい、お願いします。」

通話を切り、携帯をズボンのポケットに入れる。

目は真っ直ぐに。俺に迷いは無かった。

真実を目前に。刑事さんとの打ち合わせ通り。今日、君と話す。


エンとの思い出の川沿い。エンを思い出す。

夕日を並んで見た、静かな時間。隣に座ったエンが俺にもたれ、熱が伝わる。キスをした。幸せを感じた。

草の上に君を寝かせ、息の切れた色っぽい顔。

「誰のことを考えてるの?」

後ろから、予想していた声がする。

「君が奪った、大切な人だよ。英。」

スラリとした長身に、立っているだけでモデルのような雰囲気。

「何故?どうして俺から親しい人を奪う?」

「何故?酷いんだね。僕の気持ちを察してよ」

分からない。俺は、友達だと思っていた。

英はもてるし、女の子が放っておかない。俺なんかに固執する意味が分からない。

「ごめん。理由が分からない。俺を、怨んでるの?」

「覚えていない?ここで転校当初。日本に馴染めない俺に、君が声をかけてくれた。特別だった。君は本当に優しくて。他に特別な人がいなかった。女の子と付き合うのも、我慢した。好きじゃなく、好奇心から付き合い始めたと僕に教えてくれたから。勘違いしちゃいけないと。艶ちゃんに何度も教えてあげたんだよ?」

英が。

エンの涙の理由。どうして俺を信じなかったのか。

自分の軽い言葉が、エンを傷つけた。知っていれば、言ってくれたら。今更遅い。エン、信じて欲しい。

「最初はそうだった。でも、エンを知るうちに。本当に好きになってた。」

「知ってる。だから、あの日。二人を朝。駅で見つけたときに。殺意がどれほど沸いたか。」

英は、俺の首を絞め。川岸に押していく。

「英。俺、お前のこと。大切な友達。だと。」

英の手の力が、弱まり。解放される。

【サイレンの音】

周りに警官が押し寄せた。英の取り押さえられる風景が、スローモーションのようで。

俺は、夢を。観ているようだった。

「英、嘘じゃない。」

「ありがとう。」


川岸に立ち尽くす。

「ご苦労様!」

元気な姿の。

「委員長、大丈夫なのか?血が出てたけど。」

「あぁ、血糊だから。私、将来スタントマン目指して、弟子入りしてるの。」

意外な将来。

「父、年いってるように見えるけど。夢幻君のところと変わらないのよ?」

ビックリしすぎて、声が出ない。

「刑事さんの言った通り。英が君を突き飛ばすのを見たって。」


殺人。何が、それを引き起こすのか。

一つの殺人が、周りを踊るように。夢のような出来事。

自分が招いた?自分がきっかけになってしまった?

大切なものは、一つではなく。同じ基準でもなく。みんなと同じでもない。

俺は、エンの命が消え。消え続ける連鎖のような。踊りを眺めるような。観客。

観ているだけだった。夢幻。




人は亡くなる。もう、存在しない。君は、確かに。ここにいたのに。

人の命は尊くて、儚いモノだから。

消えてしまうロウソクのように、一瞬で。燃える炎がある時は、輝いて見えるのに。

消えた灯火が、闇を呼ぶように。周りの世界を一変させる。


闇が怖い?

闇は、美しい。惹きつけて捕らえ、離さない。

アナタハ、ソレヲ。観る。



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