第二章:殺人
警察。
俺の頭は、真っ白だった。
「え?何?言っている意味が。」
エンが、亡くなった。と。
「君が、最期の目撃者。君と別れた数時間後、行方不明の届けが出たんだ。3日後、遺体が見つかった。話は。」
話をしていた警察の人は、口を閉ざした。そして呟く。
「ここでは、まずいか。」
エンが、どこにも。イナイ?
判ったことは、ただ。エンが死んだ。ということ。俺と、別れた後に。
「大丈夫。じゃないな。送るよ。」
汚いゴミだらけの車で、タバコ臭い匂い。助手席に、女性を乗せるなんて。想像も出来ない。
【バサッ。ドンッ】
一体、何を載せていたのか。助手席の荷物を、すべて無造作に後部席へ投げた。
「よっし!乗ってくれっ!!」
車の窓からの景色を見ていた。流れる景色。建物も、通り過ぎていく。
時間も、思い出も。同じように通り過ぎるだろうか。
涙が、自然に頬を伝う。
「……っ……ぅ。」
警察のおじさんは、黙って運転を続けていた。
「おい、降りないか?」
「?」
どれくらいの時間が経ったのか。いつの間にか寝ていた。
「海?」
「気分を変えよう。」と、唇に人差し指を当てる。
真剣な目差しに、俺は黙ってうなずいた。
車から離れ、砂浜を急ぎ足で歩く。
「大事な話があるんだ。いいか、慎重に行動しろ?お前を信用して、訊きたいことがある。俺の名前は、林藤 樹雄これでも、28だ。」
おじさん。
「こほっ。夢幻。蝋飴さんの村は、知っているか?」
「ジンオン村。」
変な名前だった。
「昔は漢字で。神隠し。と書いた。」
カミカクシ?
「林藤さん。それって。」
「俺は、夢幻を信じると言った。お前の信頼が、俺の命に係わるかもしれない。お前を本当に、信じていいか?」
真剣な目。
信じていい。なんて、簡単に言えるだろうか?
「判らない。俺は、林藤さんを信じる。」
俺の本当に知りたい真実に、一番近い人だろう。
「ありがとう。時間が惜しい。話を始めるぞ。いいか、今から話す事は誰にも言うな。絶対だ。」
「わかりました。」
砂浜に座り、林藤さんはあの日の話を始めた。エンとの、最期の日。
「不思議なんだ。常に、君には時間がついてまわった。アリバイのように。待ち合わせの場所、駅、喫茶店、映画館、レストラン、公園、ホテル、電車、駅。別れたコンビニ。すべて、君と彼女が防犯カメラで確認できた。駅で、彼女が小銭を落とし。たくさんの人が覚えていた。コンビニで、火災報知機の誤作動。コンビニの防犯カメラで、君は彼女と別れ。別方向に。商店街を通ったね?普段も通っている所だ。」
「はい。何人かに、冷やかされたのを覚えています。その後、家に着いたら。出張中の父が怪我をしたと、北海道に。」
そう、忙しくて。
「メールしたけど、エンからの返事はなかった。気を遣っているんだと。思っていた。まさか。こんなことになっていたなんて。」
もっと連絡を取っていたら。いや、あの日。出かけなければ。
「携帯が、見つかっていないんだ」
犯人が持っている?
「辿れるのは、その日。君からの通信履歴だけだった。電源が切られ、君の存在を知っているかもしれない。」
俺の存在。知って、どうするんだ?
「夢幻、これは。ただの殺人じゃ……あ。」
サツジン。
「夢幻、気持ちは。汲んでやれない。事態は深刻なんだ」
目が。視界が遠くなるのを感じた。
「夢幻、真実を一緒に探してくれ!俺も、お前と同じなんだ。」
俺と、同じ?
「俺も、あの村の女の子と付き合っていた。消えた。同じように。死んだと。」
林藤さんの目から、涙が零れる。
「同じだ。警察は、踏み込めない。誰も、教えてはくれなかった。真実を。……知りたい。夢幻、お前も。」
「あぁ。真実を知りたい。」
「村は、何かを隠している。行方不明の届けを知り、村に行ったが、村長に話を聞くことも彼女の親に会うことも、出来ない。上は、まともに取り合ってはくれない。何のために、この仕事に就いたのか。三日後、村から遺体が見つかり葬儀をしたと。村人以外は遺体を見ていない。」
異質な村。
頭がついていかない。駄目だ。期待するな!!こんなことを聞いたら。エンが、生きているんじゃないかと。
「俺は、死んだなんて思っていないぞ!君の彼女も、俺の愛した女だって!これは俺の考え方だ。ただアイツが死んだと思ったら、俺が。殺したことにならないだろうか?心の中から、人を消すのだから。」
三学期。君のいない学校生活が始まった。
君が亡くなったと、連絡があったのは。君のクラスだけだった。
エン、君は。本当に死んでしまったのか?生きていると信じたい。いや、死んだことが信じられない。
『俺が殺したことにならないだろうか?心の中から、人を消すのだから。』
俺の中から、君は。消えない。殺したりはしない。
「ね、夢幻くん。彼女、亡くなったって。本当?」
「ごめん。その会話。したくないんだ。」
川口 五月。同じクラスで、顔が可愛いと人気のある子だ。
「ごめんなさい。」
控え目な印象を受けた。丁寧に謝って、静かに離れる。
可愛い顔した女の子は、どこか明るい活発なイメージを持っていた。
何故、俺なんかに声を?そっとしておけばいい。面倒なだけなのに。
実際、仲良くしていた奴でも。どう接していいのか悩んでいる。いいんだ、それだけで。
癒される。人の温かさに、気づいているなら。まだ、俺は大丈夫だ。
「夢幻。次、移動だぞ?」
普通に接してくれる奴もいる。
花菱 英男だが。帰国子女だ。生れたのは、日本。アメリカ人とのハーフで、良い所取り。
羨ましいとは、あまり思わないが。背は高いほうが良かったかな。
エン。君は、俺のどこが良かったのかな?
「夢幻。考え事しながら歩くと、危ないよ?」
肩に手を置かれ、歩行を止められる。目の前には、壁があった。
「悪ぃ。」
「ふふっ」
自然に微笑む。王子様のスマイルだ。
音楽室で、鑑賞。曲は、流れる。躍動感。臨場感。人の心に響く。曲名は、分からない。
夢を見ているみたいだ。いや、観ているのか?
自分の関与しない。現実。夢のように捉え、観賞しているんだ。
エン。君は、夢?違う、絶対に。違う!
君は、ここにいた。俺の手の中に。エン、君の温もり。吐息。俺の中にあった。
音が止まり、静かな時が流れる。終焉。を観た。
「はい!各自、感想を書いてください。チャイムが鳴ったら、提出して。~」
日常に戻り、観ていた世界が消えた。俺が見ている。この現実は。
「夢なら。良かったのに。」
俺は、天井を見つめる。
「夢幻。名には意味がある。名は、体を表す。ってね?」
俺の名?
君の名は。艶。自然の風物について。情趣(しみじみとした味わい)があるさま。
うん。そうだね。君にぴったりだ。君は、そんな存在だった。エン。愛しい。この喪失感。どうしたら良い?
林藤さんは、この気持ちと。一人で戦ってきたんだ。俺には、林藤さんがいる。真実に、一番近い人。
真実を知るまで、君を。殺さない!
「ユメ、女の子が呼んでいるぞ?綺麗な子。誰?」
確かに、教室の入り口には綺麗な子が立っている。知らない子だ。もしかして、エンの友達かな?
そういえば、俺。エンの友達って。知らない?
俺は、入り口に急いだ。
「はじめまして。岸谷 陽香です。付き合ってください!」
見た目は、凄く大人しそうなのに。口を開いたら元気一杯の声。まるで、太陽のような子。
組み章は1-A。進学クラスだった。知らないはずだ。
「ごめん。」
「じゃ、お友達?」
一気に、元気を失って。小さい声で訊いた。
「ごめん。」
そんな気分じゃなかった。
「また。話しかけてもいい?」
泣きそうな顔に、つい「あぁ」と。
パッと明るい笑顔に変わる。
「じゃ!!」
気分が、少し軽くなるのを感じた。
【キーンコーン~】始業のチャイムが響く。
誰も、何も聞かなかった。俺は、大切な人を失ったばかりだったから。
あの子は、知らないんだ。しょうがない。けど、俺なんかに。どうして告白したんだ?
「優しいよね。はっきり言えばいいのに、話しかけられても困るって。」
英は言う。冷血な王子だ。
「言うのが辛い。」
そう、今。言葉を出すのも。考えるのも。辛い。
「そっか。」
英は、それ以上は話さなかった。そして、静かに。俺のそばにいた。癒される空間を守るように。
心地いい時間に、心は微妙な揺れがある。浮き。沈み。思い出に浸り。いないことに淋しさを募らせた。
実際は、沈んでいるんだ。きっと暗闇に。
「ごめんなさい。」
ある朝。教室に入ろうとしていた俺に、後ろから声がした。
「岸谷さん?」
どうやら、エンのことを聞いたようだ。目がはれ、赤くなっている。そこに、大粒の涙。
「いいよ。知らなかったんだろ?」
微笑んでみる。久々に、動かす筋肉は上手く動かなかった。そんな俺に、綺麗に微笑んで。
「はい。」
最高の笑顔。
「これ、甘いものなんです。良かったら。」と、紙袋を手渡し。真っ赤な顔でうつむいた。
「ありがとう。」
嬉しそうな照れた仕草。顔は、うつむいたまま。目を合わさず「じゃ。」と、走っていった。
しまった。つい、受け取ってしまった。
あの子の笑顔に、エンの存在が。消さない。俺は、エンを。記憶から。殺さない!!
テスト期間。学校が、早く終わって。俺は足早に帰り支度をしていた。
「夢幻。どこに行くんだ?」
英が驚いた顔で、俺を見る。
「ちょっと、な。何か、用事か?」
「いや、予定があるならいい。なければ、女の子が誘ってくれたカラオケにどうかと。」
気を遣ってくれてるんだな。
「またな!英、サンキュ。」
俺は、教室を出た。ある所に向かって。
消えたエン。
君は、確かに。ここにいた。
これから、いくつかの結末に皆様をご案内致します。
そう。殺人の周りを輪になって舞っていただくのです。
夢のような物語を観る。観客。
あなたの望み、予測。期待は叶うでしょうか?
解決の糸口がつかめず、観客をはらはらさせる緊張感。不安を高め、どんでん返し!!
サスペンスの世界へ、ようこそ。
人の命は尊くて、儚いモノだから。
消えてしまうロウソクのように一瞬で。燃える炎がある時は、輝いて見えるのに。
消えた灯火が、闇を呼ぶように。周りの世界を一変させる。
闇が怖いですか?
いいえ。闇は美しい。惹きつけて捕らえ、離さない。
アナタハ、ソレヲ。観るでしょう。




