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②殺人輪舞の夢を観る  作者: 邑 紫貴


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第一章:夢

人は亡くなる。もう、存在しない。君は、確かに。ここにいたのに。人の命は尊くて、儚いモノだから。

消えてしまうロウソクのように、一瞬で。燃える炎がある時は、輝いて見えるのに。消えた灯火が、闇を呼ぶように。周りの世界を、一変させる。

闇が怖い?

闇は、美しい。惹きつけて捕らえ、離さない。アナタハ、ソレヲ。観る。


朝。7月半ば。朝日は、照りつけるように注がれる。

梅雨が明け、もう夏だ。寝苦しさに、嫌な目覚めだが。目覚まし無しで起きられるのは、いいことかもしれない。

俺は、松渓まつたに 夢幻むげん神不知火しんしらぬい高等学校。一年生。

多くの所縁が語り継がれる。隔離された村が近くにある。異質な村だと。大人たちは言う。


支度を整え、自分の部屋を出る。

廊下を少し歩いて台所に入る。いつものように母は、朝食を準備し終え、片づけを始めていた。

机には、ホカホカのご飯に味噌汁とおかず。昼食のお弁当も、箸が忘れられずにそえられている。

「いただきます。」

「はい。どうぞ。お父さん、出張で北海道だって。」

いつものように、母との会話を楽しむ。我が家の日課だ。


反抗期は当然あった。が、母には無かった。反抗する理由が無かった。八つ当たりはしたが、常に反省する余裕をくれた。

俺は、幸せな家庭で育ったのだろう。

「ごちそうさまでした」

「はい。じゃ、自分の食べた分は片付けて行ってね!」と、母はパートの仕事の準備を始める。


「母さん、今日ゴミの日!袋は、玄関に無いけど?」

「お父さんが出してくれたの!」


「行ってきま~す。」


車庫から、自転車を押して出る。今日は、車がギリギリに停めてあるから。

近くの交通手段は、電車にバス。空港まで便利な環境だ。

車は、ほこりを被らないようにカバーを掛けてある。傷は付かないだろう。昔。傷をつけ、こっぴどく怒られた記憶がある。

大切に乗っている古い車に、それは今も残っている。

車道で自転車に乗る。勢いよくこぎ始め、太陽を体に浴びて。今日も一日が始まった。

懐かしい記憶の詰まった町。小学校のときは、ここの公園まで。中学生のときは、隣町。高校になって、行動範囲がもっと広がる。

広がる世界。知らない知識。どこまでも続くように感じる。この道。どこまで行けるだろうか。

山の上にある学校。毎日、必死で坂を上る。


「おはよう。」

「おっす!」

「ユメくん、おはよう!」

「はよ」


歩きや自転車通学の子と挨拶を交わし、駐輪場へ向かう。

大木の陰に、誰かを待っている様子の女の子。横を、通り過ぎる。

「あっの!松渓くん、話。が、した。い。ん。」

裏返った声に呼び止められ、自転車を止めて降りる。

だんだん小さくなる声に、うつむいた赤い顔の女の子。まさか。

「何?話って。」

ドキドキする。これって、告白?期待が高まる。

いつも、俺はいい人止まり。まさか、また。間を取り持ってとか?

「あの、私。蝋飴ろうじ えんって。言います。つ、つきあって。下さい!あの、ずっと。好き。だったん。です。」

必死で気持ちを伝えた君の、泣きそうな。可愛い顔は。ずっと、忘れない。



俺に、彼女が出来た!好きだったかと、訊かれたら。違うが、自分を好きだと言ってくれる。

特に、好きな人もいない。女の子と付き合ってみたいお年頃。

艶。エンは、大人しいイメージだった。会話も、最初はぎこちなくて。そんな毎日に、ドキドキした。

君を知るに連れて、君に惹かれ。好きな気持ちは、どこまでも大きくなるんだと。知った。

「エン、。好きだ。」

俺の気持ちに、不安になったエン。涙を流して、『私のこと好き?』と訊いた。

何が、君を不安にさせたのか。そう言えば、まだ。言っていなかった言葉。だった。

君の心が、自分にあるのに満足して。大切な言葉を出さずにいた。

「好きだよ、エン。君だけだ。」

涙を拭う俺の手に、すり寄せる頬が柔らかく。誘われた。

エンは、目を細め。閉じ気味になる。

エンの潤んだ唇に、自分の唇を重ねた。柔らかく、温かい。気持ちいい。初めてのキスに、触れただけで満足した。

「へへっ。」

照れて笑うエン。可愛い君の笑顔が、俺だけに向けられていた。

優しく、抱きしめる。女の子の体が、柔らかく。いい匂いがするんだと知った。貪欲になる自分を、まだ知らない時。



季節は秋へ。

君を自転車の後ろに乗せて走った。しがみつく、小さな手。密着する体に、柔らかい胸が当たる。

俺の彼女、大好きな君。いつも不安になったのは、どうして?

俺はもてない、いい人止まり。君だけが、俺を選んでくれた。その気持ちに、応えているつもりだった。

君が望むなら、他の女の子と親しくしない。感情は、君だけに反応するんだ。

「エン、しっかりつかまっていろ!」

立ち漕ぎで、自転車のスピードを上げる。

「きゃっ、速いよ~!」

無邪気に笑うエンに、嬉しくなる。

川辺に、自転車を停め。夕日を並んで見る。静かな時間。隣にエンがもたれ、熱が伝わる。

君は、確かにここにいた。

「エン、キス。してもいい?」

「訊かないで。」と、目を閉じる。

何度か重ねた唇。

「ん。」

君の反応に、我慢が出来なくて。息の切れたエンの、少し開いた唇に。舌を入れた。ビックリした目に、赤くなった頬。

でも、君は受け入れてくれた。

「ん。んんっ。はぁ。はっ」

可愛い声。

「エン、愛してる。」

「嬉しい。夢幻。好き、大好き。」

草の上、君を寝かせた。息の切れた、色っぽい顔。服の上から、胸に触れた。柔らかい。

エンは赤い顔で、恥ずかしそうに俺を見上げる。少し震えた手で、胸に触る俺の手に触れていた。

【ワンワン。】

【ビクッ!!】

遠くで吠える、犬の鳴き声に。二人はぎこちなく姿勢を正す。

「ふふっ。」

「ははっ。」

ここが、外だと忘れ。2人の世界にいたんだと。恥ずかしさと、幸せに。二人で、照れ笑いをしたよね?エン。



冬。クリスマス。

二人で、夜にライトアップされる公園でデートした。ロマンチックにも、雪が降って。ホワイト・クリスマスだった。

ふと気がつくと辺り一面の雪景色。雪の降る静かな音だけが。二人に響く。

「帰りのバス、止まってる。」

「エン、電車もダメだって。」

二人で必死に、泊まる所を探した。ただその時は、寒さを凌ぐ事だけを考えて。

母に、連絡を入れる。

『あら~。随分、遠出したのね。お父さんの出張で、よく利用するホテルがあるわ。ちょっと、確認するから待ってなさい。』

母は、誰と一緒にいるか訊かなかった。

『もしもし?近くに、○ビジネスホテルがあるわ。部屋、一つ準備してもらったから。夢幻、責任ある行動をしなさいよ?』

静かに電話が切れる。公園のすぐ横だった。

エンの、折りたたみの傘に二人で身を寄せ。ホテルの入り口に着く。

「松渓様、どうぞ。お部屋にご案内します。いつもお父様にはご利用頂き、誠にありがとうございます」

なんだか落ち着かない二人を、自然と案内してくれた。

部屋に入り、温もりにホッとした。

「エン、体温めなきゃ!お風呂、先に入って!」

「でも、夢幻だって。」

時間が止まる。俺たちは、ここで一夜を共にする。

「行って。くる。ね。」

「う。ん。」

君は、お風呂の中。何を考えた?俺を意識してくれただろうか?

俺は、友人から貰ったモノを。握り締める。まだ、俺たちは。そんな仲じゃないと。必死で受け取らなかった。

俺の財布に、隠されていた。電車の切符を買うときに見つけて、どれほど焦ったか。

エン。俺は、責任を取れるわけじゃない。まだ学生。君を養うことも出来ない。養われる側の人間だ。

でも、この気持ちは本気なんだ。君は、俺を受け止めてくれる?

俺の気持ちだけを、押し付けるわけにはいかないから。

「出たよ?」

【ビクッ】

「あぁ。俺も、温まるよ。」

「うん。」

緊張した空気から、逃げる。

湯船には、新しいお湯を入れている最中だった。でも、狭い浴室には。ここに設置されているシャンプーの香りが充満している。

やばい。理性が保てなくなる。換気扇をオンにして、お湯に浸かり。何度も、顔を洗った。

すっきりしない頭に、お風呂上がりのエンの姿。のぼせそうになり、この浴室から出ないといけなくなる。

「っ!!」

ドアを開けた!

今でも、あれが夢だったのではないかと。思う。

あの幸せな時間。ぎこちなく、寄り添い。ベッドに二人並んで。キスをした。抱きしめる君が、少し震えていた。

「エン。やっぱり。ん。」

やめようと、言うつもりだった俺の唇に君からのキス。必死で、俺の口に舌を入れてきた。

「いいよ?」

泣きそうな、でも。可愛い笑顔に嬉しくなった。

初めてで、必死で。君に、優しく出来ただろうか?理性が残っていなかった俺に、記憶のほとんど無いのがどれほど悔しいか。

エン。俺を見つめ、言ってくれた。

「夢幻。好きよ。愛しているわ。」

「あぁ。俺も愛している。」

簡単に出た言葉。

本気だ。愛している。こんなに心を支配するのは、君だけだ。

ずっと。ずっと。





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