僕の1日
どこにでもいる駅の窓口係員
どんなに出勤時刻1時間前には職場に到着している。
真面目でも熱心でもなく、ただ会社のいうことを聞いているだけだった。毎朝5時に起きて6時には家を出る。ロングスリーパーの私には堪える。この会社に勤めて3年は経つのに全く慣れない。
鉄道会社は時間に厳しい。一般企業なら遅刻は怒られて終わりかもしれないが、この業界では丸1日説教されるほど重罪だ。反省文も書かされる。
ついこの間寝坊した同期の事を考えながら、つくづく狂った会社だなと思う。
着替えて仕事の準備をして待機する。あと30分もすれば仕事が始まってしまう。
「連休だからお客様多いねぇ」
先に待機していた先輩が裏から窓口を覗いては溜息を漏らす。
「夜まで列途切れないですね、これは」
「所定で寝れればいいけどさ」
「いやぁ、今日は無理じゃないですか?日付変わるまでに上がれたらいいですね」
10個以上上の先輩だが、あまり気圧されずに会話を続ける。他の職場に比べてかなり風通しがいい職場だ。誰と泊まり仕事になってもそこまで嫌悪感はない。
適当な会話を続けながら、少しでも憂鬱な気持ちを晴らそうと明るく振舞った。
9時ちょうどの点呼を終え、窓口の係員を交代する。
「吉田さん、一徹お疲れ様でした。代わりますよ。」
「ああ、おつかれ。」
朝の4時から働いているから、さすがにくたびれた様子で振り返る。3時間程度の仮眠では疲れが取れるわけもないから仕方ない。
「引き継ぎは特段無しね。指定席は夕方まで埋まってるから。」
とぐろを巻く列を見ながら苦笑いする彼を見てこちらも苦笑いを返す。
「それじゃよろしくね。お疲れ様。」
交代して裏に帰っていく様子を見る間もなくお客様を呼び込む。
「いらっしゃいませ。お待たせ致しました。」
窓口は複数個あるがゆっくり交代する暇はない。
隣の窓口もようやく交代を終えたようで、今日の出番のメンバー全員が仕事を始めた。
会社の方針で顔から笑顔を剥がさないが、誰一人として目の奥に光がない。機械の一部になったような気分で接客を続けている。貼り付けた笑顔のせいで頬が引き攣る。
「ありがとうございましたー。」接客を終えて一礼。
お客様は私たちを人間だと思っていないので、お礼も会釈もなく切符を受け取ってそのまま乗車していく。
自分が人間じゃなくなったのか、相手か人間じゃないのか分からなくなる。心を無にして列に並ぶお客様を捌いていった。