都に着いた!?
長い旅を経て、タケルと澤北はついに首都にたどり着いた。大都市の賑わいと喧騒に圧倒されつつも、二人は田舎の村を救うための任務を胸に進んでいく。
「すごいな、澤北!こんなに人がいるなんて!」とタケルは目を輝かせた。
「うん、でも気を引き締めて。ここでは誰もが銅銭を狙っているんだから」と澤北は警戒を解かなかった。
二人は早速、市場で最初の商人に出会った。見た目は普通の商人だが、目がキラキラと輝いていた。
「お兄さんたち、何かお探しですか?新鮮な野菜や魚、それに上質な布地も揃えてますよ」と商人が声をかけてきた。
「村の皆に食べ物や必要な物を買いたいんだけど」とタケルが答えると、商人はニヤリと笑った。
「それなら、この野菜と魚のセットをどうですか?特別に銀銭五枚でお譲りしますよ」
「銀銭五枚!?そんな高いのか?」とタケルは驚いた。
「まあまあ、これでもかなりの値下げですから。お兄さんたち、いい買い物をしたって喜びますよ」と商人は手を擦りながら言った。
澤北は怪しいと思い、「少し考えさせてくれ」と商人を引き離した。
「澤北、村には何が必要なんだ?」とタケルが尋ねた。
「まずは種だな。村の畑は作物を育てるための種が不足している。あとは医薬品もいる。子どもたちが風邪をひきやすいし、怪我をしたときのために薬が必要だ。それと、丈夫な布地。みんなの服が擦り切れているからな」と澤北は具体的に説明した。
「それと、畑仕事に必要な工具や度量衡もいる。正確な計量ができないと、収穫した作物の取引で不利になるからな。それに、村で牛や馬がいなくなってしまったから、運搬や耕作に使うための家畜も必要だ」と澤北は続けた。
「なるほど、それなら市場で探そう」とタケルは元気よく答えた。
次に二人は、おにぎり屋の老婆に声をかけられた。老婆は優しそうな顔をしていたが、そのおにぎりの値段には驚かされた。
「おにぎり一個、銀銭一枚だよ。特別においしい具が入ってるんだ」と老婆が言った。
「銀銭一枚!?それはちょっと高すぎるよ」とタケルが言うと、老婆は顔をしかめた。
「じゃあ、特別に銅銭三枚にしてあげるよ。でも、おにぎりの中身は秘密だよ」と老婆は言った。
「秘密って、何が入ってるんだ?」とタケルが尋ねたが、老婆はただ笑うだけだった。
澤北はまたもや怪しいと思い、「それならいらない」と断った。
次に二人は、道端で噂話をしている行商人に出会った。
「お兄さんたち、首都に来たばかりだろ?最近、幕府の政策がひどくて、みんな不満を持ってるんだ」と行商人が言い出した。
「幕府の政策って、どんなことがあったんだ?」と澤北が尋ねると、行商人は小声で答えた。
「物価がどんどん上がって、銀銭や銅銭の価値が下がってるんだ。だからみんな生活に困ってるんだよ」
「それでみんな、物を売るのに必死なんだな」とタケルは納得した。
「お兄さんたちも気をつけな。ここでは誰もが騙そうと狙ってるから」と行商人は忠告した。
道中、ふとしたことから澤北の評判が話題になった。ある商人が声をかけてきた。
「おや、お前さんたちは田舎から来たんだろ?田舎で頭が切れる若者がいるって噂を聞いたよ。どうやら、村を救うために色々と工夫してるらしい」
「本当に?どんなことをしてるんだ?」とタケルが興味津々で尋ねた。
「例えば、村の皆に効率よく作物を育てる方法を教えたり、病気の予防法を広めたりしてるらしい。それに、村人たちの信頼も厚いらしいぞ」と商人は答えた。
タケルはにやりと笑い、「それなら俺の友達と似てるな。確かに頼りになるやつだ」と言った。
市場調査を終え、疲れ果てたタケルと澤北は宿屋を探し始めた。しかし、どこも値段が高く、手持ちの銀銭では足りそうになかった。
「どうする、澤北?どこも高すぎるよ」とタケルが困り果てたとき、ふと近くの長屋から笑い声が聞こえてきた。
長屋には、数人の若者が囲炉裏を囲んで酒盛りをしていた。楽しそうな様子に、タケルは自然とその輪に引き込まれていったが、澤北は少し距離を置いていた。
「お兄さんたち、何か困ってるのかい?」と一人の若者が声をかけてきた。
「実は、泊まるところがなくて困ってるんだ。どこも高くて…」とタケルが事情を話すと、若者はにやりと笑った。
「それなら俺たちと一緒に泊まらないか?ここは長屋で、みんなで分け合って住んでるんだ。宿代はかからないから安心しな」
「本当か!?助かるよ!」とタケルは喜んだ。
一方、澤北は少し離れたところで、不安そうに周囲を見回していた。タケルが振り返って、「澤北、ここなら大丈夫だよ!」と声をかけたが、澤北はあまり乗り気ではなかった。
「でも、何か手伝うことがあるなら言ってくれ。俺たちも何かお返しをしたいから」と澤北が小声で言うと、若者たちは感心したように頷いた。
「ちょうどいいところだった。今夜はおにぎりを作って宴会をするんだ。手伝ってくれる?」と若者の一人が言った。
「宴会?」とタケルは目を輝かせた。
「そうさ。みんなでおにぎりを作って、食べて、歌って、踊るんだよ。でも、手が足りなくてさ。助けてくれると助かるよ」と若者は笑った。
タケルと澤北は、その夜の手伝いを引き受けることにした。囲炉裏の周りに座り、おにぎりを握り始めたが、タケルはすぐに皆と打ち解けた一方、澤北は端っこで黙々とおにぎりを作っていた。
「タケル、そのおにぎり、形が変だぞ!」と若者の一人が笑いながら言うと、タケルは恥ずかしそうに「あれ?どうしてこうなっちゃうんだ?」と首をかしげた。
「いいんだよ。おにぎりの形なんてどうでもいい。大事なのは心さ!」と若者たちは励ましの声を上げた。
一方、澤北はおにぎりの形には自信があったが、話しかけられると顔を赤くして「う、うん」と小さく答えるだけだった。
おにぎりを作り終えると、若者たちは突然歌い始めた。賑やかな歌声が長屋中に響き渡り、タケルはすぐに歌に加わったが、澤北は端っこでじっとしていた。
「澤北、一緒に歌おうよ!」とタケルが誘ったが、澤北は「いや、俺はいいよ」と言って首を振った。
歌が終わると、今度は踊りが始まった。しかし、狭い長屋で踊り始めると、あちこちでぶつかり合う。
「おっと、ごめん!」「足踏んじゃった!」と騒ぎながらも、みんな笑顔だった。
タケルが勢い余って後ろに倒れると、そのまま布団に転がり込み、澤北もその横に倒れた。
「これ、楽しいけど危ないな!」とタケルが笑いながら起き上がると、若者の一人が「気にするな、これが長屋の宴会さ!」と笑い飛ばした。
澤北はそんな様子を遠巻きに見つめ、「早く寝たいな」とぼそっと呟いた。
その夜、二人は若者たちと一緒に長屋で眠ることにした。布団を分け合いながら、タケルは新たな仲間と共に心地よい眠りについたが、澤北はなかなか眠れず、窓の外を見つめていた。
「タケル、ここに来て良かったな」とタケルが言うと、澤北は「うん…まあ、助かったよ」と言って薄く笑った。
市場調査で得た情報を元に、翌日から本格的な取引に臨む準備を整えながら、タケルは新たな仲間と共に心地よい眠りにつき、澤北は心の中で静かに次の日の計画を練っていた。