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見送りと予言

 支度といっても、俺には何もない。

 こっちの世界へ飛ばされた時のまんまのパーカーに、武器として使えるひのきの棒を持っているだけだ。

 こんな武器に鞘も紐もついてやしないから、握ったまま歩くという何とも滑稽な状態になっているわけだが。


「さぁ出掛けるか」


 意気揚々とアドルフも玄関の扉を押し開ける。

 彼もかなりの軽装。

 村長から貰ったのか、不思議な紋章のついた額当てに、青いマントのような物を羽織っている。

 ん、まて、その色はお前の布団カバーだろ!

 マントが無かったのか、マントをカバーに使ってたかしらんが、適当だなおい!


 ただ、腰元にはこの家に古くから伝わる破邪の剣を帯刀しており、その一点を置いては、勇者としてのステータスは保持している。

 彼の戦闘力はひのきの棒とは比べ物にならないだろう。


 まぁこれは元々あった設定で。

 魔物がこの剣を恐れて破壊しようと押し寄せてきて、父親は戦いに破れ死んだ。

 破邪の剣はアドルフと一緒に、戦の渦中から逃れたのだった。


 って事にしてある。


 もちろん、詳しいことはアドルフは未だ知らないので、黙っておくが。



「あら、お二人さん。やる気満々ね!」


 朝日よりも輝かしい笑顔で、挨拶がてら俺をハートブレイクしたのはローラレイだ。


「おう、この日のために俺は成人までの10年間を、この剣と共にひたすら修行に明け暮れて来たんだからな!」


「そうね、この村ではもう大人でもアドルフに敵うものは居ないわね」


「そういうローラレイも魔法で右に出るものは居ないじゃないか、ハッハッハ」


 アドルフ達はそう説明口調で会話をする。

 なんかちょっと違和感があるよな……モノローグっていうか。感情こもって無いっていうか。

 ロボットが口パクで説明してくれているような?

 外国人がやってる通販みたいな?

 設定の垂れ流しって、リアルに聞くと気持ち悪いもんだな。


 朝から少し辟易して来た俺は、先を促す。

「しゃべってる間に日が沈むよ」


 村から出れば否応なしにモンスターとエンカウントするだろうし、倒して強くなっていけば話も進んでくれるだろう。


「予言者が仕切るなよ」

 歩きだした俺を追い抜いて、前に陣取る勇者。


「カッコつけんなって、隣町にも行ったこと無いくせに」

 考えれば成人になるまで隣町に行ったこと無いないヤツなんて居るのか?

 などと考えながら、勇者の横に小走りで追い付いた。


 しかし勇者はその俺の前にまた陣取る。


 あ、そっか、縦一列に並ばなきゃ気が済まない子かぁ。


 っていうか、俺がそういうイメージで小説書いちゃったんだな。

 アホみたいだからあとで書き直しておこう。



 村を出るとき、村人が全員でアドルフを送り出してくれたのはちょっと感動だった。


 昨晩の改編で、この村の人数は50人くらいだと設定したし。

 彼らは生前のアドルフの父親に世話になった人達だと書いたからだろうか、何人かは別れを惜しんで泣いている者までいた。


 いや、ここまでするつもりじゃなかったんだけど。

 泣きじゃくっている女の子を見付けて、勇者はその小さな肩を撫でて優しく声を掛けていた。


「俺は強くなって世界を救ってくれるからな、絶対戻ってくるから泣かないで待ってるんだぞ!」


 本物の勇者のようだ、やだちょっと格好良いじゃん!

 少し見直したわけだが、俺は女の子の呟きを聞いてしまった。


「怖いお姉ちゃん居なくなる怖いお姉ちゃん居なくなる怖いお姉ちゃん……」


 ごめん。

 ローラレイがこの村で起こしたおっちょこちょいが、この子のトラウマになってるだけでした。


 なんだろう。

 魔獣召喚事件か、ファイアーボール全焼事件か、山ゴーレム雪崩事件か、水龍温泉堀当て事件か……

 名前だけ考えたけど、内容はまだ考えてなかったな。


 とにかくこの村にとってローラレイは天災みたいな扱いにされてる気がしてきた。

 俺だったら可愛いから全部許せるんだけど。

 みんなは違うのか。



 とまぁ。

 盛大に盛り上がって、お涙頂戴して村を出た俺たちは、わかりやすく森の中を突っ切る街道を進んでいく。


 土がむき出しの地面は、幅5m程度でまっすぐ延びており。

 左右には木が覆い繁っているが、道との境目には腰丈のなんだかモワモワっとした低木が生えている。


 もしモンスターが現れるなら、このもわっとした茂みからだろう。

 何とも、わかりやすい状況ではある。


────ガサガサ。


 茂みから青くて丸い生き物が飛び出てきた。


「スライムか」


 スライムだった。

 何の捻りもない。


「フミアキ。お前倒してこいよ」


 言われるがままに一歩前に出た俺は、何の躊躇いもなくひのきの棒を振った。

 避ける仕草もしないままスライムは攻撃をその体で受け止め、消えた。


 そしてその足元には、なぜか2ゴールドと、青いビー玉みたいなものが転がっていた。


 その一連の流れに俺は頭を抱えるのだった。


 何だよあれは!

 死ぬと消えて、モンスター自身が絶対使わないであろうゴールドを落とすってどういう仕組み?

 あと、あの青い玉は何なんだよ!

 体のどの部分だよあれは!


 っていうか書いたの俺じゃねぇか!!


 と、脳内で叫んでからおもむろにメモ帳を取り出した。


「スライム倒したと思ったら、頭抱えて……今度はなにを書いてんだ?」


 完全に頭がオカシイ扱いしながらも、興味深そうにメモ帳を覗き込もうとするアドルフを手で追い払う。


「いや、モンスターの生態とかをな。ほら、記録しておこうと思ったのじゃ」


「うわまた、のじゃとか言い出した、なんか誤魔化してんなお前?」


 くそ。意外と頭がキレるって設定ぶっこ抜いてやろうか。


「気にするでないのじゃ」

 俺はメモ帳に、走り書きをした。

 スライムとはいえ、やはり生き物だろう。

 意思があって飛び出した筈なのに、攻撃は避けないのもおかしいだろうし。


 取り合えず思い付くまま設定を決めてみた。


「おし、あとは不思議な力で反映されれば、説得力のある世界に一歩近づくだろう」


 急に頭を抱えて、急に何かを書いたかと思えば、一仕事終えた清々しい顔になった俺を、勇者がジト目で見てくるが。

 これが本来の俺の仕事なんだから。

 胸を張って陰険な眼差しを無視してやった。

 

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