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その7

 重三の名が出た途端、皆得心してうなずきあった。


「あいつに騙されて借金地獄だぞ」

「貸す時だけ菩薩のような顔してからに」

「町の方の社長とも、えげつない取引してるて言うぞ」


 次々に悪態が口をつく。湯を叩いて大仰に騒ぐものもいる。皆重三に煮え湯をのまされた思いがあるようで、訴えは止まらない。

「隣町の越後屋の悪漢はどうだ」

「薬屋の幸子もしたたかな奴さ」

「俺ぁ三河屋にはひどい目にあわされたんだ」


 貧しさは人の手なるものか。こうして集まった吾郎の仲間たちは、例外一人となく貧乏で、皆誰かしらに貶められていた。つまりは自分たちの代わりに、神様への供物として、腹の立つ連中を差し出そうと言うわけで、名を挙げだすと切がないようであった。東村の三軒商人、村役場で利権をむさぼる代議士、大物政治家の名前まで挙がった次には、隣の女房が挨拶がない、現場の同僚にはめられた、と大小さまざまな理由が飛び交ってとめどない。埒があかぬとようやくそれぞれが一人ずつの代役犠牲者を挙げることでまとまって、


「神様、そういうわけでわしらではなくあの連中を」


 と振り返って仰ぎ見ると、まるで何事もなかったかのように月は煌々と輝いて、空は静か、草木は夜露にぬれ、ただ虫の音が響くばかりであった。狐にでも化かされたように吾郎と仲間たちはしばし唖然と空を見ていた。神様はもう、そこにはいなかった。


「結局、どれだけ綺麗に洗い流しても、墨に浸せば黒く染まるが道理、かの」


 神様は月の裏にある我が家に戻ると、柔らかな布を敷き詰めた長椅子にどう、と身を横たえながら、側近の天使たちに愚痴を言った。

「地上でお疲れになったようですね」

「なかなか。清き魂を、穢れる前に回収しようという作戦であったのが、返って人々の道を誤らせてしまったようじゃ。我が身かわいさに他人を売ろうなどという連中であっては、地獄めぐりのフルコースで清めないことには見込みなし。天国の閑古鳥は当分鳴き止まぬ」


 神様は少し体を震わせて、くしゃみをした。

「銭湯の湯気にあたって、湯冷めしたようじゃ。私も湯に入ってあたたまろう」

 あ、と天使たちが顔を見合わせるのを見て、神様はまたまたため息をついた。


「そうか、今日は月曜、血の池地獄の湯沸しの日か。天国の燃料まで持っていかれてしまうのでは、一体どちらが極楽なことやら」

 気苦労の多い神様のため息は地上へは届かず、湯中りした吾郎たちは上がり場で伸びているのだった。


(おわり)


【物語の終わりに】

 ストーリーにとって大事なのはアイデアとオチと言われるが、残念ながらそれは正しくない。オチに至るのはなんであるか、と頭を巻き戻すと、起承転結と言われるように、筋道があっての「筋」であり、「オチ」である。話途中で退屈のあまりアクビなんかされてしまっては、オチに辿り着く前に居眠りされてしまう。むしろ私なんかは、筋道だけつけてうまいこと読ませてしまえばそれでよし、などと安直に考えて、さしたる計画も為しに語りだしてしまう物語、がある。そんな無計画さも、時に作者さえも知らぬ世界へ連れ立ってくれて心躍らせてくれるものである。 善人悪人入り乱れて、人間は増えていく一方。神様の気苦労にまで思いを馳せる事が出来たのも、そんな無計画の賜物として、今宵はここらで筆をおかせていただきたい。読了、まことにありがとうございました。



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