『俺は異世界転生チート主人公だ』と言い張る彼氏がマジもんだった件
「ナズナ!だから言っただろ!!!俺は異世界転生チート主人公だって!」
思わずぶん殴りそうになるほど自慢げに、ユウキは言った。
ーー超がつく美少女エルフを、隣に連れて。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ユウキは私、ナズナ・イチカの彼氏である。
もちろん私は異世界人でもないし、ましてやエルフでもない。
純真無垢な日本生まれ日本育ちの高校生だ。
「なあ!? これで信じてくれただろ。俺が本物の異世界転生チート主人公だって」
そしてこんなバカなことを白昼堂々とのたまっているユウキもまた、日本生まれ日本育ちの高校生である、、、はずだ。
ユウキとは幼稚園からの付き合いで、いわゆるお酒馴染みだ。
「そんなの信じられるわけないでしょ。毎日私と一緒に通学もしてるくせに、どうやって異世界に行くのよ」
「でもほら、ここにいるだろ。エルフのエルちゃん!俺がどうしても紹介したい人がいるって言ったら、異世界からこっちまで付いてきてくれたんだ!」
ユウキに紹介された"エルフのエルちゃん"、もといエルちゃんは、恥ずかしそうに指をこねくり回しモジモジしている。
「エルちゃん!ほら紹介したいって言ってたナズナだ!」
ユウキはそんなことお構いなしにエルちゃんの肩をだき、前に突き出す。
エルちゃんは一度うつむくと、決心をした面持ちで私に向き直った。
「……ぴうぴぴうぴぴ!!ぷっぴぴぷぴぴ!!!!」
ん?
えっと……
「……ぴ?」
エルちゃんは言い切ってやった!と言わんばかりの顔で、私の反応を待っている。
いやいや待て待て、無理だって?!全く理解できてないから!!そんなやり切ったみたいな雰囲気出さないで。
「あの…えっと、ユウキ、エルちゃんは何て言ってるの?」
「私はユウキの婚約者です!!お母様よろしくお願いいたします!!!!だって」
「……え?」
はぁぁぁぁぁああああああああああ???????
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「ユウキ、何か言い訳はある?」
「いえ、ないです」
「私に謝ることは?」
「異世界転生で調子に乗って、世界救って、美少女と仲良くなってごめんなさい」
「ぶっ殺すよ?」
「……ごめん、なさい」グスッ
突然のご両親への結婚挨拶(ご両親でもないが)があった直後、我を忘れて暴れ回った私が冷静になるまで1時間かかった。
全部ユウキが悪いのだ。
異世界転生チート主人公になったと意味のわからないことを言うだけでなく、意味不明言語を話す美少女エルフを連れてきて、その上その美少女エルフが結婚の挨拶に来たのだ。彼女である私に!!!!
もういっそ、異世界転生チート主人公だろうがなんだって良い。
私という存在がいながら、他の女にうつつを抜かしていたことが許せない。
「それで?ユウキはエルちゃんと結婚する約束をしているの?」
自分でも驚くほど、冷ややかな声でユウキに問う。
ユウキにさっきまでの威勢はなく、プルプルと涙をこらえている。
「……エルちゃんは俺が救った国の王女様で、パーティーメンバーなんだ」
「それで?結婚は?」
「してない!結婚の話なんて俺は一度も……いちども……」
そういえば、と小さく呟いたユウキの顔に冷や汗が垂れる。
「なに?」
「いや、えっと、そういえば国を救った時に、一つだけ好きなものを与えるとか王様に言われて、俺、すぐにナズナを紹介したくて……」
ユウキは唾を飲み込んだ。
「エルちゃんをくださいって言っちゃった」
「……ユウキのバカぁぁぁあああああああああああッ!!!!!!!!!」
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「エルちゃん、私はユウキのお母さんじゃないの。恋人よ」
「……ぴゅぴ?」
エルちゃんに話しかけてみるが、この通り全く伝わっていない。
「……どうしてユウキは理解できるのよ」
「だって俺は異世界言語習得SSのスキルがあるからな!」
ユウキは鼻を鳴らして、誇らしげに言う。
なんだそのスキル、英語の成績中の下のくせに調子に乗りやがって。
「ならユウキがエルちゃんに通訳してよ」
「おう、任せろ」
「じゃあ、ユウキは私の男だからさっさとお城に帰れ王女様って伝えて」
「……え?」
私は少々きつめの、いや、どストレートに帰れ宣言をする。
ユウキが誤解させる言動を取ったのが悪いのだが、私にとってこのエルフの王女様は、彼氏を寝取りに来た浮気女でしかない。
いくら可愛かろうが、関係ないのだ。
「えっと、その……」
「早く伝えて」
「でも、んー……」
ユウキははっきりとしない調子で、バツが悪そうにエルちゃんに謎言語で話しかける。
エルちゃんはユウキの言葉を聞くと、わなわなと身体を震わせ目尻に涙を浮べる。
あーヤバい、罪悪感ハンパじゃない。可愛すぎるよほんと。
それでも私はユウキの彼女であり、悪役になってでもエルちゃんを引き離す必要があるのだ。
ユウキの話を聞き終えたエルちゃんは、何度か私のことを睨みつけ、逆に私の視線に負けて俯く。
何度も口をぱくぱくさせ、ふと何かを決意したかのように顔を上げた。
そしてゆっくりと私の前にやってくる。
「……ぴゅぴぴ、ぴゅぴ、ぴゅぴぴぴぴぴ!!!!」
「……なんて?」
私はユウキに尋ねる。
「えっと……あなたが正妻なのは分かった。でもエルちゃんは俺のことが好き……え、恥ずかしいな」
「ちゃんと最後まで話しなさい!」
「はい!あなたが正妻なのは分かった。でもエルちゃんは俺のことが好きで諦められない。だから2番目の妻として私を迎え入れて欲しい……って……ぇぇぇええええええ!!!???」
ーー恐るべし異世界の美少女王女様、覚悟が違う。
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それから数年後、エルちゃんは私とユウキと同じ大学に通っている。
日本での生活にも慣れてきたようで、日本語もまだまだカタコトではあるが話せるようになった。
「ナズナ、遅くなったな」
「んーん、私も今来たとこ」
今日は3人とも休日なので一緒に出かける約束をしていた。
駅前の時計台で11時の待ち合わせなのだが、エルちゃんの姿は見えない。
「あ!エルちゃん来たよ」
「……ふぅ、あの、えっと待ち合わせ遅れてゴメンナサイです。道迷っちゃいました」
「大丈夫俺も今来たとこだから!よしそれじゃあ行こうか」
ーー3人で水族館デート!