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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

川の仁義

作者: 使羽

以前、鮎の友釣りを紹介したく書いた短編です。

今回、初めて投稿するにあたりテストを兼ねてUPさせていただきます。

   川の仁義


「のう、隆二よ、わしの荒瀬組もこの辺では一番の縄張りになったのう?」

 荒組組長 忠治の問いかけに若頭筆頭の隆二は答えた

「へい、忠治の親分。これもみんな親分の仁と義に惹かれて集まった者どもです」

「この荒瀬は良い、ここにはこの大石がある。この大石があるかぎりわしらは食える。だが隆二よ、お前もこの大石を独り占めにしたいとは思わんか?」

「いいえ、親分、滅相もありやせん。俺や下の者はみんな親分があってこそです」

 改めて頭を下げる仕草をする隆二に、ニヤリとした笑みを浮かべて忠治は続けた。

「だが、隆二よ。この荒瀬組は下剋上だ、わしに隙があればいつでもかかってくるがいい。見事この大石を奪い取って見よ」

 忠治はそう言うと、全体に聞こえる大きな声で宣言した。

「いいか、皆の者よ。この荒瀬組は力こそが正義だ。隆二や大政、小政にも遠慮はいらん。誰でもいつでもこの忠治に掛かってこい!」

「へい!」

「へい!」

「へい!」

 皆は一斉に返事をした。

 一同の返事を聞くと忠治は満足そうに回りを見渡して言った。

「この荒瀬組は大戸呂組や土茶羅組とは違う。力こそが正義の武闘派の集まりよ」

 その時、縄張りの端の方にいた若い衆の一人の叫び声が聞こえた。

「親分!出入りです。色白のひょろっとした変な奴が一人で突っ込んできやす」

 忠治はその声を聴くや否や外から入り込んできたひょろっとした奴に向かって行った。

「この忠治自らが相手をしてやろう」

 そして猛烈な勢いで侵入者に体当たりを仕掛ける。

『バシッ!』

 体当たりを受けて侵入者は遠くに弾き飛ばされたかに見えたが、次の瞬間に忠治諸共消えた。

「隆二!あとの事は頼んだ」

 どこか上の方からその声だけが聞こえてきた。


 一瞬の出来事に皆は騒然となった。

「みんな、落ち着け、今からこの荒瀬組はこの隆二が組長だ、何者の侵入も許すな!」

「へ、へい!」

 状況を理解できないまま、若い衆はそろって返事をした。しかし、次の瞬間

「隆二の兄貴大変です!さっき消えた組長が外から戻って来やした」

「ああ?今の組長は俺だ。この隆二が組長だ。隆二組長と呼べ!入ってきたのはさっきまでの組長だろうと外から来た奴は皆侵入者だ。この俺が迎え打ってやる」

 現在の荒瀬の状況を理解できないまま忠治は元の大石のところまでよろよろと戻ってきて言った。

「おお、隆二か何があったかわからねえが留守中世話を掛けたな」

「はぁ?「何が世話を掛けたな」だ。今は荒瀬組の組長は、この隆二様だ!思い知れ!」

 そう言うと隆二は忠治に襲い掛かった!

 だが、強烈な隆二のタックルを忠治はどっしりと受け止めた。

「まだまだだのう隆二よ」

 しかし、次の瞬間にまた二人が消えた。

「大政!、用心しろ」

 またも、どこか上の方から声だけが聞こえた。


 一度ならずか二度までも組を仕切っていた幹部が消えた。

「大政の兄い、どうしやしょう?」

 若い衆が一斉に組の三番手の大政に詰め寄る。

「いいか、お前ら、外部からの侵入者には不用意に手えだすんじゃねえぞ!」

「へ、へい」

 武闘派として君臨する荒瀬組でも、幹部が一度に二人も消える異常事態に動揺は隠せない。

 すると縄張りの外周付近にいた若い衆の声する。

「今度は隆二の兄貴だ戻ってきました」

 それを聞くと大政は皆に聞こえる声で叫んだ

「いいか?そいつが誰でも手を出すな!隆二の兄貴でも他の誰かでもだ」

「へい」

 皆はやはり状況は理解できないが大政の指示に従った。

 若い衆の真ん中を突っ切って隆二がさっきまで居た大石のところまで戻ってきて言った。

「急に消えてすまなかったな。今から俺がまた組長としてここを仕切る」

 しかし、聞いていた小政は黙っていない。

「はあ?何が組長だよ。さっき忠治に手も足も出なかったくせに、そんなやつが組長ぶってんじゃねぇ」

 言うが早いか、小政は隆二に襲い掛かった。

 襲い掛かってくる小政に隆二は吹き飛ばされ思わず逃げ出す

「逃がすかよ!俺はもともとあんたが気に食わなかったんだ」

 そう言って縄張りの外にまで逃げた隆二を追いかけては後ろから飛付いた。

 その瞬間、三度二人の姿が消えた。


 いったい何が起きている?

 大政は考えたが答えは出ない。今言えることと言えば

「いいか、お前ら、兎に角外部からの侵入者には手を出すんじゃねえぞ。ちかくの仲間の顔を覚えろ。違う顔があっても手を出さずに距離を取れ。分かったな」

「へ、へい!」

 若い衆は返事をするが不安な顔はぬぐい切れない。

 そして、またも外周からの声が響く

「忠治の親分が再び戻って来やした」

 忠治の名前を聞くと皆はほっとして忠治に駆け寄ろうとするが忠治はこれを諫めた。

「来るな!ここから消えた者はわしも隆二も小政も外の世界に引き釣り出される。外の世界には巨大な鬼が居てわしらの自由を奪う。鬼がわしらに付ける錨というやつに触ると身体が引っ掛けられちまう。小政は錨が心の臓に付き刺さっちまって死んだ。隆二は虫の息で動けなくなってる」

「それじゃ、俺らは今後どうやって?」

 大政が忠治に問う

「兎に角、暫くの間は外から入ってきたもんには触れるな」

 忠治は大石の前に立つと周りを見渡して言った。

「この荒瀬は良いな。わしの誇りじゃ。わしはこれから大戸呂のところへ向かう。因縁深い奴らと最後にやりおうてみたくてのう」

「それじゃ、ここにいる全員で大土呂のところに殴り込みを掛けます」

「馬鹿を言うな。それじゃ抗争がデカくなりすぎて鬼どもの思うつぼじゃ。わしらは怒りだすと見境がなくなってしまう。誰彼構わず殴りかかってしまう。そうなると鬼どもに全員刈られちまう。皆はここを守ってわしのことを見送ってくれ」

「忠治の親分。。。」

 大政は声を出そうとするが声にならない。

「それじゃ、行ってくる」

 忠治は言い残すとゆっくりと大土呂に向かい出す。


 暫くすると様子を見に行った若い衆が帰ってきて大戸呂の状況を荒瀬組のみんなに伝えた。

「忠治の親分は見事、大戸呂と刺し違え。大戸呂組のやつらは幹部クラスから次々と消えています。おそらく10は越えたかと。。。」

 伝えを聞くと大政は改めて皆に指示を出す

「いいか?お前らしばらくの間は喧嘩はご法度だ!喧嘩をするときは鬼の使うという錨をへし折れるくらい強くなってからだ。分かったな!?」

「へい!」



「師匠!調子はどうですか?」

 大トロで上手に泳がせ釣りをする大岩五郎に近づいてきて弟子の小石翔太が釣果を訪ねた。

「おお、朝は全然調子が悪くて、一か八かで荒瀬に3号のオモリを付けて養殖オトリを沈めたら3匹入れ掛り。3匹目の掛かりが悪くて一匹目のオトリに替えたら、勝手にここの大トロ迄泳いできてそこからまた入れ掛りだ。ここだけで15くらい釣ったかな」

 自慢げに話をする五郎に弟子の翔太が続けた。

「自分は向こうの瀬肩でやったけどポツポツでした。もうお昼ですけど休憩しますか?」

「そうだな、ひとっきり釣ったからお昼にするか」

 そう言うと五郎はオトリを引き戻して鼻カンを外し引き船に入れ竿をたたみ出した。

「午後も釣れると良いですね」

「そうだな」

 二人は引き船を浅瀬に固定して川をあがって行った。



 鮎の友釣りは日本の伝統漁法

 鮎の食性は主に川底の石に付着した藻を食む。

 ゆえに餌で鮎を釣ることは難しい。

 ただし、成長した鮎は川底の藻がたくさんついた石を独り占めしようと縄張りを作り、縄張りに侵入した他の鮎に対しては激しい闘争本能で体当たりをして追い払う。

 この闘争本能を利用して針(錨)を付けた囮鮎を縄張りの中に侵入させて体当たりしてきた縄張り鮎を釣り上げるのが鮎の友釣りである。

 釣り上げた縄張り鮎を今度は囮にして循環する。

 元気な囮には縄張り鮎もすぐに反応するので好循環となり入れ掛りを生む。

 鮎の友釣りが循環の釣りと言われる由縁である。


Fin

自分の趣味である鮎の友釣りを独自の視点から書いてみました。

4000字以内という制約で書いた作品で伝えきれていない思いもありますが、少しでも楽しんでいただけたら、鮎の友釣りに興味を持っていただけたらという想いです。

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