-interlude- お金持ちのボンボンなのでは
シルヴァとルチアーナが透流を連れて店を出てから数時間後。
カフェ・グランデは閉店間近で、店内の客もまばらだった。
「ねぇ、トールくんのことだけど」
ラストオーダーのグラスワインをカウンターに置いたアンナが、オネストとバルドに話しかけた。
「硬貨の価値を正確に知らなかったのよね」
「えっ」
「いくら国外から来たとしても、おかしいと思わない?」
オネストは、ワインをひと口味わってから探偵よろしく余裕ある表情をつくる。
「ボクは『金持ちのボンボン説』を推しますね。商家とかの」
顎に手を当てて、自身ありげに推理を披露する。しかしアンナは身を乗り出して首を振った。
「商家だったら流石にお金の種類くらい把握してると思うの。だからね、私の予想は『お忍びで街に下りてきた貴族』かしら」
「ありえる」
プライドも何もなく前言撤回のオネスト。アンナの予想にうんうんと頷いている。
「雰囲気的には中流貴族の三男てところだな」
さらにはバルドが話の流れに乗っかった。
「貴族は買い物もまとめて親が後払いするし、紙幣くらいしか数えないのかもな」
「実際そんなことある?」
「並の貴族で後継ぎじゃなければ案外そんなもんだぞ」
「でもボクは女の子に貢いでもらう気持ちが理解できません!」
謎の対抗意識を燃やしたオネストが、一気飲みしてグラスを置いた。目が座っている。
「オネストは貢ぐ側だからな」
「でもトールくん、顔は良かったわよね」
「アンナさん……!? まさか……」
揶揄うモードに入った二人に弄ばれるマフィアの図。わいわい盛り上がる彼らの話を、数席離れたカウンターの端でフードを被った人物だけが聴いていた。