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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
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望まない遭遇

 キラが目を覚ましたのはあれから二日後の朝だった。一日中眠っていたとは知らないキラはいつも通りに戻っていた。彼が眠っている間に森の調査を終えたシアノスはキラを連れて街に出た。


 その日はちょうど春渡しの日と呼ばれる日だったらしい。街中には至る所に花が飾られていた。待ち行く人々も花を身に付けていた。


 春渡しの日では男が女に花を渡し、女がお返しに身に付けている花を男に渡したら永遠に結ばれるというまじないがある。今では挨拶で花を配ると言うような行事になっている。


 そして今、キラは身動きが取れなくなっていた。


「愛しき人よ、どうか私の花を受け取ってください」

「俺の情熱をこの赤いバラに乗せてあなたに捧げます」

「いーやこの黄色い花こそ彼女にふさわしい」


 街の男たちがこぞってキラに花を渡そうとしていた。四方八方を塞ぎ、互いに牽制しながら我先にと花を差し出す。人の波に押されてキラと分断させられたシアノスはその様子を冷ややかに見ていた。キラは焦り戸惑う。優しい彼は彼らの思いを無下にすることはできない。強く出ることもできず拮抗状態になっていた。


 細い路地からしばらく見ていたものの埒が明かないようなので救出することにした。動き出そうとしたタイミングで一人の男が路地に入ってきた。


「おお、なんと素晴らしい……!」


 立ち塞がった男がシアノスを見て歓喜に打ち震えていた。膝を地面についてうっとりとした瞳で見上げている。まるで神に出会った信者のような反応だった。

 シアノスは無言で一歩距離を取る。


 引いてるシアノスに気付いていないのか男が距離を詰める。シアノスの手を取り両手で包むように握る。


「なんと美しい。これぞ私の思い描いていた姿。私の理想の存在。ああ、こんなところで出会えるとはなんて幸せなのでしょう。どうかもっとよく見せて、深く、隅々まで。余すことなくあなたを感じさせてください」


 熱烈な愛の告白とも取れる言葉にシアノスの視線は一層冷たさを増す。極寒の吹雪のようだ。しかし言葉とは裏腹にその手は強く握られていた。逃がさないというようにしっかりと力強く拘束する。手を振り払おうにも解くことが出来ない。熱に浮かされたような視線の中に暗い影が潜む。嫌悪感を露わにするシアノスに、だけど男は恍惚な表情を浮かべる。


 するりと肌を撫でる感触に一気に寒気を覚えた。


「っこの!」


 反射的に手が出た。風をぶつけて路地の奥に吹き飛ばす。吹き飛ばされた男は壁に激突した。けれど男は何事もなかったように立ち上がり埃を払う。睨みつけるシアノスに流れる動作で近付いて手にした花を髪に挿す。


「またお会いしましょう、私の姫(マイスウィート)


 耳元で囁かれて距離を取る。すぐに振り向いたシアノスの視界にはどこにも男の姿がなかった。雑踏に紛れて姿を消した。髪に挿された花を引き抜き握り潰す。吐き気がした。不快だった。絡みつくようなねっとりとした感覚に今も残っている気がして気持ち悪かった。


「最悪」


 吐き捨てた声は、震えていた。




 その夜シアノスはバーンを連れてとある貴族の邸宅に向かった。着飾ったシアノスは門番に招待状を渡すと仮面を渡され中に通された。気付いたらシアノスの懐に手紙が入っていた。十中八九あの胸糞男だろうと全くいい気がしなかった。手紙の中には招待状と印がつけられた地図が入っていた。

 二人は渡された仮面をつけると同じく仮面をつけている使用人に案内される。照明は燈されておらず灯りは使用人が持っているランタンの灯りだけ。カーテンも張られ、外からの明かりも一切入ってはこなかった。地下に降り、案内されたそこはホールのような部屋だった。中には何人もの人が仮面をつけ、座っていた。


 シアノスとバーンも案内された席に着く。辺りを窺っているとステージの中央が照らされた。


「お集まりの皆々様、大変長らくお待たせいたしました。ただいまよりオークションを始めさせていただきます」


 司会者の挨拶に会場内は一気に盛り上がりを見せる。どうやら闇オークションと呼ばれるものだった。非合法な取引。醜悪な金持ちの秘密の遊戯。

 ステージに商品が並んでいく。説明を読み上げ、開始の合図が鳴る。札が上がり、数字が飛び交う。希少価値のあるモノが並べられ買われていく。危険な魔道具から生きた魔物、果ては獣人族やエルフ族まで、見ていて気持ちのいいものではなかった。


「それでは、本日の目玉商品です。かのお方が長年の研究の末、辿り着いた英知の結晶。一度は誰しも願ったことでしょう。いつまでも美しくありたいと。老いも死にもしない永遠の命を。その願いは実現される。そう、この不老不死の薬があれば!」


 一番の歓声が上がる。さきほどとは比べ物にならないほどの莫大な金が動く。シアノスとバーンを顔を合わせ頷いた。


 大盛況でオークションは幕を閉じた。そして、シアノスとバーンはそれぞれ行動を開始した。

 シアノスは開催者側全員に印をつけ背後の人物を探った。早速司会者がマントを纏った怪しい人物と接触した。その一部始終を陰から映像魔道具で記録する。怪しい人物の後をつけたシアノスはうっかり声が漏れそうになった。その人物が乗った馬車にはイーシス国の王族の紋章が付いていた。


 バーンは不老不死の薬の購入者の後を追う。その男は颯爽と帰宅し、家に着くとすぐに自室に向かった。そして躊躇うことなく薬を飲んだ。

 ごとりと薬瓶が床に落ちる。首を押さえて苦悶の表情に歪める。目は上を剥き口から泡を出して絶命した。動かなくなった男に近づいて確認すると、心臓が停止していた。バーンが帰ろうとしたその後だった。絶命していたはずの男が起き上がった。何事もなかったように動き出した。


 確かに死んでいた。バーンはすぐさま男の胸を突き破った。心臓を狙った一刺し。だと言うのに男は倒れない。


「なんだ貴様っ!?」


 どれだけ攻撃しても一向に動きが止まらない。刺したところから血が流れているのに痛がるそぶりがない。斬った腕が生えていく。まさに不死だった。

 バーンはシアノスからもらった液体を男に振りかけた。液体が掛かった瞬間、大きく声を上げる。苦しみのたうち回り、やがて体が朽ちて跡形もなくなった。


 それは一昨日見た映像と似ていた。シュツから共有した映像と殆ど同じ光景だった。

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