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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
67/127

乙女の恋の行方

 「あの人集りはなんでしょう? 行ってみませんかシアノスさん」


 遠くでたくさんの人が集まっているのを見つけてキラはシアノスの手を引く。近づくにつれて聞いたことのある音楽と声が聞こえる。


「この歌声、ポンさん?」


 その予想は的中した。ステージに立ったポンが歌って盛り上がっていた。初めて公演で歌声を聞いてからキラはポンの歌声の虜になっていた。多分初めて歌声を聞いた時には好きになっていたのかもしれない。つい口ずさんでしまうほど歌を空で歌えるようになっていた。程なくして公演が終わる。大歓声の中、浮き足立っているキラを誘導してシアノスは移動する。その先にはステージから降りたポンの姿があった。


「ポンさんお疲れ様です」

「…………きゃーーキラさん?!?! どうしたんですかその格好!!??」

「おかしいでしょうか?」

「とっっっっても似合ってます!!!」


 キラのドレス姿を見たポンは疲れも忘れて興奮する。シアノスはディルゴの魔力を感じ取って彼の元に向かった。そこはポンの休憩所だった。

 慰国祭ではポンはサーコル五領全てを回り各領地で歌を歌っている。領間の距離が遠くタイトなスケジュールと心配されているが移動はディルゴがいるのでとても早く快適だ。


 少し会話したら移動の時間になってしまったらしくポンは泣く泣く別れることになった。


 ポンと別れた後もキラはお祭りをめいいっぱい堪能してハウンドッグ公爵家に戻った。するとちょうどルーザも帰ってきた。


「ルーザさん今日はありがとうございました。お祭り、とても楽しかったです」

「それは良かったですわ」


 ニコリと笑うルーザに違和感を覚える。元気がないと心配になる。


「ルーザさんはなにかありましたか? もしかして騎士の方に贈り物を渡せなかったのですか?」

「…………っっ聞いてくださいましキラさん!!!」


 感情が爆発したルーザによってキラは連行された。


「話しが長くなりそうですが客室をご用意致しましょうか?」

「後で迎えに来るわ」


 着替えたキラは一人屋敷を出た。




 ルーザの意中の相手はレリオ・サーフェイス。サーフェイス子爵の次男だと言う。婚約相手としては少し爵位が低いがルーザには関係ない。当主になっても、いやなったからこそ好いた人との結婚を強く望んだ。結婚適齢期は過ぎてしまってるしもう今さらだと吹っ切れたともいえる。


 慰国祭では騎士団は見回り警備をしている。見回りルートを知っているルーザは逆順に回って彼を探した。


 仕事中だとしても羽目を外し過ぎない範囲でなら祭りを楽しむのを許されている。だから少し会話をする程度、贈り物をするぐらいは許される。


 お目当ての彼を見つけたルーザは深呼吸をして勇気をかき集める。拳を握って気合を入れて彼に話しかける。


「レリオ・サーフェイス卿、少しお時間よろしいでしょうか」

「は、はいっ、公爵閣下。私にどのようなご用件でしょうか」

「その、先日わたくしを助けていただいたお礼がしたくて、こちらを……」

「そんな、騎士として当然のことをしたまでです」


 レリオはルーザのことを覚えていた。少し雑談をした後、仕事に戻ると言った彼を見送った。物腰が柔らかく誠実な彼にさらに心は惹かれる。



「贈り物喜んで頂けたのですね」


 自分の事のように喜ぶキラだがルーザの顔は暗いままだ。



 プレゼントを喜んでくれたルーザはとても嬉しかった。本音を言えばまだまだ話し足りないが職務の邪魔をするわけにはいかない。自分勝手な行動は人に迷惑をかけることを承知していた彼女は聞き分けが良かった。

 しかし少しだけなら、邪魔にならないようにように気を付ければ大丈夫だと魔が差して彼の後をこっそり追いかけた。幸い人が多い祭りの最中とあって数歩後方にいるルーザは気付かれることはなかった。


 雑音に紛れて騎士の話し声が聞こえた。


「あの様子じゃお前、狂犬公爵に好かれてるって」

「玉の輿かよ〜羨ましいなぁおい」

「そんなことないって」


 自分の話しをしていることに気付き、はしたない事だと分かっていても聞き耳を立ててしまった。


「で、どーすんだよ」

「はっ、もちろん乗るに決まってんだろ? だって公爵だぜ」

「ヒュー羨ましいぜー! あの女、顔は怖いが胸は大きいもんな」

「なあオレにも流してくれよ」

「オレのお古で良いならな。ハハハハ」


 周りの声が消えて彼らの声だけが鮮明に聞こえた。下卑た笑い声が耳に残る。気持ち悪い。



「ヒドイ……」

「わたくし許せませんの。自分の見る目のなさに腹が立ちましたわ。だから、つい飛び出してしまいましたの」

「え?」



 急に現れたルーザに騎士たちに緊張が走る。さっきの話し聞かれてないよな。この人混みだ、さすがに聞こえてないだろ。そう思いたくても、もしもが頭を過ぎり気が気じゃなかった。


「レリオ様、お願いがありますの」

「な、なんでしょうか公爵閣下」


 引き攣った笑みのレリオにルーザはニコリと笑いかける。


「わたくしと決闘をしてくださいませ」

「へっ? 決闘、ですか」

「はい。わたくし強い殿方が好きですの。旦那様になる方はわたくしより強い方でなくては。ですので、決闘を受けてくださいませんか」

「そういう事でしたら分かりました。その決闘お受けましょう」


 公爵になる道が開いたとレリオは有頂天になって安易に決闘を了承してしまった。

 祭りの催しだと勘違いし一種の見世物になった決闘。多くの観客に見守られながらルーザとレリオは剣を構える。レリオは自信があった。女に負けるはずがないと高慢になっていた。


 結果はルーザの圧勝。レリオは彼女に一太刀も入れることが出来なかった。力の差は歴然だった。


「いいぞー嬢ちゃん」

「すっげーカッケー」

「見ろ騎士が女に負けてるぜ」

「ぷっ、だっせー」


 ボロボロに負けて笑われ侮辱されて恥をかかされ屈辱だった。頭がカッとなって後ろを向いた彼女を襲った。仲間の騎士が止めようとしたがレリオには聞こえなかった。怒りで回りが見えなくなっていた。


 カァンと剣が弾き飛ばされる。喉元に切先を突き付けられる。


「この程度とは興醒めですわ。さようなら、サーフェイス卿」


 ルーザはレリオを冷たく見下して別れを告げた。恐怖で震える彼に対する恋心は粉々に砕け散っていた。


 ルーザは幼少の頃から護身術として剣術、体術、魔術を教わっていた。公爵家の一人娘として盛大に甘やかされて育てられていたが、教育に余念がなかった。ルーザ自身とても覚えが良くてみるみる吸収した。外に洩れていない情報だが公爵家でルーザに勝てる者はいなかった。当時はちょっと疲れていてバランスを崩しただけで、実は騎士団に力を借りなくても余裕で対処出来ていた。

 そんなルーザより強い男性など果たしてその辺に転がっているのだろうか。彼女の理想は自分より強くて愛してくれる人。望むものは一つだが、それが結構難しい。



「ということがありましたの」

「そうだったんですね」

「見事に当たって砕けましたねお嬢様」


 メリーの一言にルーザが泣く。砕けたルーザの心は今とても脆い。ゾルキア以外に恋したことがなかっただけに割と本気でショックを受けていた。

 キラはルーザの横に座り、抱き締めながら頭を撫でる。


「頑張りましたねルーザさん。今は泣いてもいい、誰も見ていません。気の済むまで泣いて、たくさん休んで、元気になったらまた私に笑顔を見せてください。ルーザさんは強くて優しくて可愛らしい魅力的な女性だと私は知っています。メリーさんもアレキシオさんもルーザさんの味方です。大丈夫、あなたを見て知って好きになっている人はいます。あなたの理想の方はちゃんとルーザさんの魅力に気づいてくれます」

「う、うう……お姉さまぁーーーーー」


 ルーザはキラに抱きついて泣く。今までいっぱいいっぱいだったルーザの心の糸はキラの優しさによって切れて、堰き止めていた感情が一気に流れこんでしまった。子供のように大泣きするルーザを優しく抱きしめてあやすキラはまさに天女のようだった。


「恐るべし天使姫」


 ぼそりと呟いたメリーの声はルーザの声でかき消された。




「またいつでもいらしてくださいませお姉さま♡♡♡」


 迎えにきたシアノスはキラに抱きつくルーザを見て色々察した。どうやら彼の毒牙にかかった哀れな被害者が増えたようだった。

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