慰国祭と恋心
「お嬢様、アレキシオ様に相談があるんでしょう?」
「そ、そうでしたわ。忘れてたわけじゃないわよメリー」
「相談、ですか?」
誤解が解けたルーザはキラと打ち解け三人で仲良くお茶をしていた。会話に花を咲かせていたところメリーが切り出す。
「明日は慰国祭の日でしょう。それでちょっと……」
「慰国祭?」
「サーコルが国を上げて催す、モンスターペアレントの追悼と慰労を込めた祭りです。シアノスさんにお願いしてみんなで行きますか?」
「お祭り……」
祭りと聞いてワクワクする。聞いたことあるけど行ったことは無い。ヒイロ曰くとっても楽しい場所らしい。ああでも人が多い場所らしい。シアノスは嫌がるだろうな。
そう思うと少し寂しくなる。出来ればシアノスと一緒に行ってみたい。
「それなら明日は我が家にいらっしゃいな。うんと可愛くおめかし致しますわ」
「そんな、悪いです」
「いいえ、キラさんを見た使用人たちが張り切っていますの。彼女たちに胸を貸して上げてくださると有難いですわ」
「それなら、その時はお願いしてもいいですか」
「もちろんですわ! 公爵家の腕によりをかけて準備致しますので期待しててくださいな」
「お嬢様、話しが脱線しています」
「そ、そうでしたわ。アレキシオ、折り入って相談したいことがありますの。……その、殿方へのプレゼントは、どのような物なら喜ばれますの?」
顔を赤らめるルーザの声はだんだん尻すぼみになっていく。ため息をついたメリーは恥ずかしがるルーザに変わって説明する。
「先日魔物から助けていただいた騎士の一人に惚れたお嬢様はお礼をしてあわよくばお近付きになりたいという魂胆です」
「魔物?! 怪我はしていませんか?」
「ええ、問題ありませんわ。不覚にも泥濘に足を取られてバランスを崩しただけですわ」
領地に出現した魔物の討伐も当主の仕事の一つだ。幸い、腕が立つ彼女は特に危機に瀕することは無かった。その日は前日に雨が降っていて、水を吸った地面で足場が良くなかった。遠征中にたまたま通りかかった騎士団が助力してくれ魔物は無事討伐を終えた。その時助けてくれた騎士団の一人に一目惚れしてしまったというわけだ。
「贈り物ですか……相手の好みの物を渡すのが一番ですが、騎士なら対物の魔道具とかはどうでしょうか」
「確かに危険なお仕事なら身を守る道具がいいわよね。キラさんは、貰って嬉しかった物とかありますの?」
「私は、感謝のお言葉だけでもとても嬉しかったです。お花を頂いたこともあります。ルーザさんがそのお方を想いやって真剣に考えて選んだものなら心は伝わりますよ」
「そ、そうかしらっ?」
教会は厳しく治療をしたらすぐに部屋を出るよう誘導される。一言お礼を言うだけで精一杯だった。感礼品は全て教会が搾取していた。たまに小さな女の子が一輪の花を手渡してくれるぐらいだった。
頬に手を当てるルーザは恋する乙女そのものだった。アレキシオは彼女の恋路が上手くいくようにと心から願った。
夕方、魔女の家に帰ったキラはシアノスを慰国祭に誘った。
「嫌よ! 三人で行けばいいじゃない」
シアノスは断固として拒否した。
「私はシアノスさんと行きたいです。ダメ、ですか」
困り顔の上目遣いでお願いするキラは無意識だ。あざとい仕草だが容姿も相まって破壊力はバツグンだ。しかし、シアノスには効果がなかった。
「キラさんは初めての祭りだそうですし、たまには息抜きも必要ですよ」
「祭りに行く方が疲れるわよ。今日ので疲れたからしばらく出歩かない」
「シアノスって祭り行ったことないよな?」
「だから何よ」
図星だが気にしない。行きたいと思ったこともない。過去は違うもののシアノスとキラは似た者同士だった。ただし感性は異なる。
「シアノスさん……」
しょんぼりと落ち込むキラを見てゾルキアはシアノスに耳打ちする。勢いよく睨みつけてから深く息を吐く。
「飽きたらすぐに帰るから」
「! 良かったですねキラさん」
「はい、お祭り楽しみです」
翌日、四人はまずハウンドッグ家に寄った。準備満々に出迎えた公爵家の使用人によって連行されあれよあれよと着替えさせられた。
最後に出てきたキラは小走りでシアノスの元に向かう。その後ろでは使用人がとても満足げに頷いていた。いい仕事をしたと称え合っていた。
「シアノスさん、お待たせしてしまいましたか?」
「別に、準備出来たのなら行くわよ」
「はいっ! みなさんにおすすめの場所をお教えていただきました。順番に回りませんか?」
横並びでシアノスとキラは歩いていく。いつも通りの二人だ。おかしくない。いや明らかにおかしい!
「キラさんって男性ですのよね?」
髪を結い上げてドレスを着たキラに違和感が全く感じられない。この際何故ドレスを着させたのかは置いておいて。それほどまでにとてもよく似合っていた。どこからどう見ても女性で貴族令嬢だと言われても信じてしまいそうになる見目だった。
男性であると知ってても女性に見えるほどにドレス姿が似合っていた。性別詐称してるんじゃないかと疑いを持ってしまった。
「キラさんとてもよくお似合いでしたね」
「アレクの方が可愛いよ」
「〜〜っもう、私たちも行きますよルキ。ルーザ頑張ってください、応援してます」
「はっ、ありがとうアレキシオ。わたくし当たって砕けますわ!」
砕けたらダメだろうというツッコミは誰も口には出さなかった。なによりやる気があるのはいい事だ。
ラジャ領の街は騒めいていた。
「やべぇあの子めっちゃ可愛くないか」
「オレ話しかけてこようかな」
「ばっかやめろ、お前じゃ釣り合わねえ」
「隣の方もきれい……」
「どこのお姫様かしら」
人混みの中でもとても目立つ人物がいた。
「見てくださいシアノスさん! とっても可愛いですよ」
「お嬢さん見る目あるね! サービスだ持っていき」
「いいんですか? ありがとうございます」
花が咲いたような笑みを真正面から向けられた店主のおじいさんは浄化された。屋台を出している店番がこっちもこっちもとキラを呼び止める。呼び止められる度に足を止めるキラだがそれでもシアノスから一定の距離を開けないように気を付けている。その様子を見た街の人々は『世間知らずの天使姫と懐かれているお付きのクール美女』と呼んだ。
老若男女問わず見惚れられている天使姫ことキラに視線が向かうが実はクール美女ことシアノスにも一定数の支持がある。一応は貴族だったシアノスは顔が整っており美人の部類に入る。両極端な二人では好みがきれいに分かれ、わずか一日足らずで天使姫ファンクラブと冷美女親衛隊の二つが設立されたとか。
もちろんそのことは当人であるシアノスとキラには預かり知らぬことだった。




