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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
64/127

緑の魔女VS複合の魔女

 シアノスは深く深呼吸をする。目を閉じて意識を集中させる。感覚を研ぎ澄ましていつもより深く魔力を流す。


 瞼を開けて一気に植物を操作する。目の前の男、ゾルキアに向かって全方位から先端を尖らせた幹を伸ばす。ゾルキアは抜刀し、一瞬で全ての幹が斬る。硬い惑いの森の木に魔力を覆ってさらに強度を上げているというのに軽々と斬られる。


 落ちる幹の合間で目が合う。蔓を足に絡めて吊り上げる。宙ぶらりにして二本の木を左右から挟むように投げる。


 蔓を斬って拘束を解き、木を足場にして急接近する。迎え撃つように茨を伸ばす。弾かれた茨を操作して背後から襲う。近距離での追進撃を空中で器用に体勢を変えて今度は斬った。


 着地したゾルキアの剣には魔力を纏っていた。


 「デタラメな」

 「そっくりそのまま返すよ」


 次はゾルキアから仕掛ける。多種多様の魔術陣を一気に展開させる。それは数はゆうに十を超える。同時に発動された魔術の集中砲火にシアノスは急いで避ける。着弾点では地が抉られ砂煙が舞う。視界が悪い煙の中を突っ込んで近付き剣を振るう。しかしその剣はシアノスには届かず受け止められる。


 「へえなにそれ」

 「樹木人形(トレント)騎士(ナイト)ー」


 惑いの森の木を複数合わせて作った木の人形。剣の部分はさらに多くの数の木を凝縮させていた。


 トレントナイトを操りながら他の植物も操る。足止め拘束目隠しと妨害行為に余念が無い。けれど的確に対処されてあまり効果をなさない。


 トレントナイトが真正面から斬りかかる。剣と剣が触れる瞬間、人形を分解する。複数の剣に変換して一気に飛ばす。

 後方に飛び退きながら二本目を抜刀し弾き返す。自由に空中を舞う樹剣は、しかし一撃は重く鋭い。時間差で攻撃しながら死角も狙う。斬り合いを繰り返すうちに樹剣の耐久が乏しくなり斬られる。


 熾烈な攻防戦は続いた。真上にあった太陽は傾き、空は橙色に染まっていた。


 「…………っもう、十分、でしょ!」


 息を切らしシアノスが叫ぶ。膝に手をつけて息を整えていた。


 「……そうだね、ありがとうシアノス」


 空を見上げて時間を確認したゾルキアは剣を鞘に収める。シアノスとは違い、彼は少し汗をかいているが息は乱れていない。


 「腕を上げたね。何度か危なかったよ」

 「余裕でいなしておきながら嫌味?」

 「まさか、惑いの森にいるシアノス以上に厄介な相手はいないよ。それより解毒薬くれない? 手が痺れてツライんだけど」


 ぷらぷらと手を振る彼に解毒薬を投げ渡す。

シアノスは自分が浴びても支障がない程度の麻痺毒――普通の人なら指先一本すら動かせなくなる程度には強い――を開始から散布していた。


シアノスには遠く劣るもののゾルキアも毒耐性はある。動けない程ではないが平時より動かすのに抵抗が生じていた。

 激しく動けばその分、毒が全身に回るのも早くなる。微弱でも浴び続ければ蓄積して症状は重くなる。それでも最後まで痺れる程度で終わった。


 「ズル(ハンデ)があっても傷一つなしか」


 シアノスはため息をつくがかくいう彼女自身も傷はない。お互い本気は出していない。だが模擬戦と銘打っても殺すつもりで攻撃していた。急所や死角、ズルは殺し合いの定石だ。なんでもありの死合。そこにルールは一切ない。なにをしてでも生き残った者が勝ち。

死なない程度の怪我なら目を瞑る。それが暗黙のルールだった。


 「さて、二人もそろそろ帰ってくる頃かな。俺たちも戻ろうか」

 「例の物はちゃんと渡しなさいよ」

 「もちろん。約束は守るさ」


 二人が模擬戦していたのはゾルキアたっての願いだ。もちろんシアノスは嫌々付き合わされている。最初は当然断った。何が楽しくて魔力体力気力を無駄に浪費させなければならないのか。


 最初っから断られることが目に見えていたゾルキアは無策ではない。そしてシアノスは見事策に釣られたわけだ。

目の前に並べられた貴重な薬草の数々。どれも高難度の迷宮でしか採取できないものばかりだ。市場にだって回ることは無い。喉から手が出るほど欲しい。熟考の末、渋々模擬戦を了承した。


 「わたしは戦闘職じゃないってのに……」

 「いやいや十分センスがあるよ。攻撃の種類も豊富でタイミングも完璧だ」

 「ねちっこく陰険な攻撃で悪かったわね」

 「そこまでは言ってない。防衛手段は多いに越したことはない。まあでも、ここ以外でも戦える手段は揃えた方がいいよ」

 「言われなくても分かってるわよ」


 古代魔法は自然を操る。シアノスは特に植物との相性は最高だ。しかしそれを除けば攻撃手段は極端に減る。フーコとの戦闘でもそれは痛いほど実感していた。干渉できないほど森を壊されたら操作は出来ない。他の自然、風土水などは操れはするがやはり殺傷能力は劣る。

 調合した猛毒や殺人級の飛び道具(植物)は強力ではあるが扱いに難がある。


 特に迷宮では用無しだ。地上とは異なる造りの迷宮では古代魔法が扱えない。迷宮内ではシアノスはただ体力がない女性になってしまう。

 正直、墓地迷宮だってキラがいなければ行こうともしなかった。以前ならギルドに依頼を出していた。


 「他の攻撃手段ねぇ」


 それはつくづく考えていた。シアノスの能力は極端に局地的だ。万能とはお世辞にも言えない。

使役している魔物だって戦闘向きと言えるのはラウネくらいだ。それでも獅子狼のように実力がある相手なら厳しい。ロサに頼るのは……まあ、うん。


 「戦わないことが一番だわ」

 「それはそう」


 そこは強く同意する。備えあれば憂いなしだが一番はその状況に遭遇しないこと。ゾルキアだって好き好んで血を求めるほど落ちぶれ(狂っ)てはいない。


 二人は夕焼けの空の下でのんびりと帰路に着いた。家の前でちょうど帰ってきたキラとアレキシオと鉢合わせた。

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