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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
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魔境と寒波

 惑いの森に雪が降る。それは通常ならあり得ないことだ。魔境であるそこは高濃度の魔力によって一年を通てた気候が変化しない。

 魔境には必ずその元となった元凶が存在する。魔境のヌシ。一帯を満たすほど濃い魔力を有する魔物、Sランクの魔物が住み着くことでそこは魔境となる。そこに生息していた魔物はヌシの魔力の影響を受けてさらに凶暴に変貌する。


 迷宮の最下層にある迷宮を構成する核とそれを守護する迷宮のボスがいる。魔境のヌシとはそれがセットになったものと考えていい。ボスを倒しても核さえ無事なら際限なく出現する迷宮とは違い魔境はヌシが倒されれば充満する魔力は消滅する。そうすれば魔境は元の環境に戻る。


 昔、とある冒険者が魔境のヌシを討伐してしまったことがあった。その時起きたのがモンスターペアレント、魔物の暴走だ。それによって現在の連邦国家サーコルが出来ることになった。


 ここ惑いの森のヌシは氷薔薇ノ王だ。魔境の異変はヌシの異変。つまりかの魔物が不安定という状態を意味する。



「ママ―見てみてお城作ったの!」

「薪と毛布を調達して来たぞ。村のみんなに配るの手伝ってくれ」


 魔境の影響は近辺にも影響を及ぼしていた。季節外れの寒波によって気温は下がり雪が降り続く。道には雪が積もり水は凍り少なくない被害を出している。それはキラがお世話になっている村とて同じことだった。


「キラちゃん暖は足りているかい? ほらこれも持っていきな、たんと食べるんだよ」

「いつもありがとうございます」


 村に来ていたキラはすでにお節介で頂いたものでいっぱいになった袋を抱えていた。この村には老人が多い。若くて別嬪なキラに老婆心が止まらない。魔女の家に住んでいるというのも拍車をかけているのかあれこれ持たせようとしている。


「こんなに頂いてしまって良いのですか?」

「いいのいいの。こうしてババアの愚痴を聞いてくれるってだけでうれしいのさ」


 寒波が来ても変わらずに色々持たせてくれる彼女らに遠慮するキラを押しやる。現在キラは村のおばあさんと外に置いてある机を囲んでいる。机の上には温かいお茶とお菓子が並んでおりさしずめお茶会のようだ。そこからは広場が良く見える。広場では初めての雪に興奮した子供たちによる雪像が次々と造形していた。お城や熊が細かく作られていて今にも動き出しそうなほど精密さだ。


「じいさんたちが猪を狩ってきたそうよ」

「あら、それじゃあ今日は猪鍋ね。キラちゃんも良かったら食べてお行き」


 そう言っておばあさんたちは慣れた手つきで猪を解体し猪鍋をつくっていく。そうして出来上がった鍋を村人全員で美味しくいただいている。


「皆さん怪我はしていませんか?」

「キラちゃんのお陰で絶好調だわい。ほれこの通りピンピンしとるよ」

「足腰治してもらったけぇ昔みたいに動けるよ。ありがとうなキラちゃん」


 この村には老人が多い。それも過去冒険者や傭兵をやっていた強かな老人たちだ。ほのぼのと仲良く団結して生活する彼彼女らはたまに惑いの森で魔物を狩ることだってある。寒波だって「少し肌寒いわね~」程度で済ましている。


 ここは惑いの森に最も近い村。そこには名を馳せた高ランクの冒険者や屈強な傭兵団だった猛者たちが余生にと暮らす村。年老いてもその実力は健在だ。国が保有していない無法地帯を占拠して勝手に集落をつくったのが始まりだ。穏やかに振る舞う裏で血に染まった刃を握る老人が暮らす村。



「キラ様ーお会いしたかったです!」

「ヒイロ! 元気だった? どこも怪我はしていない?」

「はい、この通り元気全開です。今日はキラ様にアタシの仲間を紹介したくって連れてきました。一緒にパーティーを組んでるシャルとラーニャです」

「シャルよおよろしく~。ああん可愛いわあ、どうこの後二人で楽しいコト♡しない?」

「あ、あの、ラーニャ……です。その、見ないで、くださいぃ……」

「キラです。ヒイロがお世話になっています」


 豊満な筋肉を寄せて投げキッスするシャルと長い前髪で目を覆いヒイロの後ろに隠れているラーニャにキラは挨拶する。


「ええ、それはもう全身隈なくお世話して――」

「シャル! キラ様に変なこと言わないでください。誤解ですからねキラ様。ラーニャも弁明するの手伝ってください」

「えっ、いや……恥ずかしいですぅ……」


 仲の良い三人が微笑ましい。ヒイロが楽しそうにやっているのを見て安心した。教会ではあまり笑顔でいることが少なかったら、明るい彼女を見てとても嬉しい気持ちになる。


「おやおやキラちゃんのお友達かい? 良かったらお食べ、猪鍋だよ」

「わあいいんですか! ありがとうございます……んー美味しー!」

「あらホントねえ、精力つきそうだわ。ラーニャも、隠れてないでこっち来なさいよ」

「はわっ、はいぃごめんなさい!」


 鍋を食べた後はみんなで雪合戦をした。広場に造られた雪像を盾に丸めた雪玉を投げ合う。勢い余って家に何回か穴が開いたが終始楽しく遊んだ。寒波に見舞われてもこの村はとても暖かく活気に溢れていた。



「キラちゃんがいてくれて良かったわ。あの娘もいい拾い物をしたじゃない」

「細っせぇナリじゃ頼りにならん! 男ならもっと筋肉をだな」

「これだから脳筋は……キラちゃんはあのままでも十分可愛いのよ」


 少し離れたところで二人の老人がキラたちを眺めながら小さく話している。


「お大事もキラちゃんだと思ったのに残念だわ。彼いいお嫁さんになるのに」

「分かっていたことだろ。まあでも一緒に暮らすだけでも結構な進歩だろうさ」


 そこに一人の若い男性が近づく。


「村長ー森の様子見てきましたよー。雪が降ってる以外変わりはなかったっす」

「すまんな。ったくお大事になって早々こんな事態になって思春期か」

「若いんですもの、女には色々あるのよ」

「いやいやそんな付き合いたてのカップルじゃあるまいし」


 彼らは一方的にシアノスのことを認知し見守っていた。森が魔境になる前、氷に覆われたときからずっと陰で見守っていた。けれど一度も会いに行くことはなかった。ただ一方的に心配しているだけ。だからシアノスはこの村のことは知らない。聖女キラを連れ戻そうと教会と王国が兵士を遣わせたことも森に入る前に全員殺されたこともシアノスは知らない。

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