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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
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災難は続く

「魔女様方、この度はテンサイから街をお守りくださり誠にありがとうございました。被害が最小限にとどめられたのは他でもない魔女様方のお力故。なんとお礼申し上げればよいことか」


 テンサイの翌日、領主に呼ばれた。会うや否やすぐに感謝の言葉を述べる。頭が上がらないのは単に感謝の意だけではない。テンサイを凌ぐほどの力、それが敵に回ったらと考えれば恐れるのは無理もない。絶対の味方ではない。助けることも牙を剝くこともあるのが魔女、ヘクセだ。


「――では謝礼はそのようにさせていただきます。それと、その……魔女様にお会いしたいという方がおられるのですが」


 事務的な話は済んで帰ろうとしたことろ、申し訳なさそうに領主が言う。扉が開いてローブで顔を隠した怪しい人が部屋に入ってくる。その人物と入れ替わるように領主は逃げるように退室した。その人物はローブを外し、顔を露わにする。


 一気に緊張感が走る。ポンは怯えてディルゴの影に隠れる。アルノーは顔を強張らせたセフィラを庇うように立つ。


 その反応に少し寂しそうに顔を曇らせるも、すぐに気を取り直す。


「お願いします。我が里をお救いください」


 エルフの青年はそう言って頭を下げた。




 エルフ族とは長寿で魔力操作の得意な種族。長く尖った耳と中性的な顔立ちが特徴だ。透き通るような白い肌と麗しい顔が目を引く。森に隠れ住み、滅多に姿を見せることはない。排他的思考が強固で他種族を見下し高慢で自尊心の塊。


 ポンはエルフ族と人族の子、ハーフエルフ。セフィラは褐色肌で魔力操作ではなく身体能力が秀でたダークエルフ。

 同種族ではあるものの純エルフ族からすれば異質であり排他の対象だ。そして二人には迫害されていた過去がある。苦い過去から蟠りが消えていない。特定の誰かではなく種族全員がそうなのだ。だからエルフ族に警戒する。


 依頼したいのは緑の魔女ということでシアノスとキラが残り、後の面々は帰った。


「依頼の前に一つ聞くわ。これはあなたの依頼? それとも里の依頼?」

「今はまだ私の独断です。ですが、困っているのは本当なんです。里内では解決できないのはみな理解しています。それでもプライドが邪魔をして頼ること出来ずにいるのです」

「エルフの里は門外不出と聞くわ。仮に依頼を受けたとして、妨害されたらたまったもんじゃないわ」

「心配なされるのはごもっともです。お恥ずかしい限りですが、頭が固いご老人が多いのが事実です。ですが彼らも悪気はないのです。頭では理解していても古来の慣習が邪魔をする。素直になれないだけなのです」

「それで殺されそうになるなんて御免だけど」


 エルフの男性が視線を逸らす。口では良いように言ってはいるが実態を知らぬバカでは無いようだ。


「総意決定してから依頼して来なさい」

「それでは時間がないのです! 今は一刻の猶予も惜しい瀬戸際なんです」

「それはあなたたちの問題でわたしには関係ないわ。魔女は慈善事業じゃないの。わたしにはわたしの生活があるし暇ではないの。それとも他の魔女にでも掛け持ってみれば? 誰かは受けてくれるかもしれないわよ」


 水、爆壊、獣の魔女はへクセの中でも良く依頼を受ける魔女だ。へクセに来た依頼は適材適所で割り振られるが個人的にではこの三人に集中している。


「あなたでないと、緑の魔女にしかお願いできません」


 やけにはっきりと断定する言い方に引っかかる。


「テンサイと対峙しているところを見ていました。あなたは我らの主と共にいました。加えて古代魔法をお使いになられる。エルフ族に取ってあなたは唯一の光なのです」


 古代魔法は元来エルフ族に伝わる秘術。魔術が普及するまでは魔法はエルフ族のみが扱えるものだった。

 そしてエルフ族は自然と共に生きる種族。良き隣人として妖精と共存していた。故にエルフ族は妖精を崇めている。


「エルフ族が仕えているのは氷薔薇ノ王(ヒバラノヒメ)ではなく炎赤石ノ王(エンセキノオウ)でしょう。彼女は関係ないわ」

「妖精との交流が途絶えて久しく、今では妖精のお姿を見ることも出来ずにおります。もはや伝承の中の生物。偉大なる王の御姿を拝見賜ること、至高の名誉であります。ですが、緑の魔女に依頼する決め手となったのは、御方ではありません。あなたが古代魔法を使えるそのことが重要なのです。改めて、依頼内容はエルフ族に伝わる秘宝の捜索」


 流れるように依頼を伝えた男に苛立つ。止める暇もなかった。このまま聞かず知らずで終えようとした魂胆を察したのか。

 何より、これ以上関わるのは危険だ。


「秘宝だなんて、断るわ。それこそエルフ族で終始完結すべきよ。部外者を安易に誘い入れていい内容じゃない」

「秘宝の在処は迷宮にあります。ですが、古代魔法がなければ迷宮に入ることすら出来ないのです。どうかお願いします。里を救うにはもう、先祖の御力を借りる他ありません。主に見放され、作物は実らず、エルフ族は絶命の危機に瀕死ているのです。どうか、緑の魔女……このとおり」

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