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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
43/127

テンサイ襲来

 空から降り注ぐ光の中、テンサイもまた現れ落ちる。その数はとうに十を超えていた。次々と現れ出でるテンサイはまさに世界の終焉。


 立ち向かう三人の魔女は静かに空を、テンサイを見つめる。その顔に絶望の色はなく、自信の表れ、笑みが浮かぶ。


「ほぉ、あれがテンサイ……デカいのぉ」

「何百年ブリカ。手出シハサセナイノ」

「あれを落とせばよいのかえ」

「ええ、お願いロサ」


 空に近い上空で魔女は構える。一番最初に動いたのはディルゴだった。高度を上げて真正面に突撃していく。


「サイクロン」


 無数の風の刃が回転しながらテンサイに向かう。風の刃はそれに傷をつけることなく消える。


「硬いのぉ、やはり正面からは無理か」


 呟く声に落胆の色はない。それどころか楽しそうに笑っていた。迫るテンサイはもう頭上のすぐそばまで来ていた。影で覆われ、視界が黒に塗りつぶされる。潰されたかのように見えた次の瞬間、ディルゴはテンサイの上にいた。それと同時にテンサイはバラバラに切り離されていた。



 アルノーは大きな袋を取り出す。中から九つの大きな砲台が出てきた。空中に投げ出されたそれらは固定されたように止まり、一点に照準を定めた。


「特別大サービスダ、コレデモクラッテナ」


 轟音を響かせ一斉に放たれる。全弾命中し、テンサイを包むほどの大量の爆煙が発生し、テンサイが落ちる。撃ち落とされて真下に落下する。



 シアノスは、氷薔薇ノ王に見つめられていた。


「……ロサ」

「わらわは嬉しいぞ。シアがわらわを頼ってくれたのじゃからな。いつでも力になると言うになかなか呼んでくれなくて寂しかったのじゃ」


 口を尖らせて拗ねたように言う氷薔薇ノ王(ロサ)には悪いが呼べるはずがなかった。迂闊に呼べば被害は目に見えている。強大な魔物はいるだけで影響を及ぼす。大気が凍り大地が凍り、人は呼吸もままならない。極寒の氷の世界が出来上がる。抑えるという概念はない。手加減なんて真似はしない。そんな人間の思考が魔物に期待するだけ無駄だ。だからシアノスが調整するしかなかった。魔力を威力を影響を、契約という繋がりを通じて抑え込むしかなかった。それが途轍もなく疲れる、逆に言えばそれほどの力を必要とする場面はそれほどない。シアノスにとっては有難いことこの上ないがロサは不服だった。


 迫る危機におくびにも出さずにロサはシアノスを構う。そんな場合ではないと思っていながらもシアノスはまんざらでもなかった。黄金の光も相まって後光が差しているロサはとても美しい。


 そんな二人の横をテンサイが通り過ぎる。早速取り逃してしまった。否。このまま地上に落ちて惨事になる。否。ディルゴに馬鹿にされる。否だ。

 通り過ぎたと同時にテンサイは凍り付いた。カチコチの巨大な氷の塊となって地に落ち、砕ける。


 相手は災害(テンサイ)で、気にするもの一つない上空。制限を掛ける(力を抑える)必要はどこにもない。




 空では魔女が猛威を振るってテンサイを蹂躙する。災害すらものともしない魔女の力に人々は希望を見い出す。魔女が戦う上空の足元、地上では別の戦いが起こっていた。


「うえーん怖いよーママ―」


 逃げ遅れて転ぶ子供が泣く。空から落ちるテンサイの影が覆う。このままでは子供が潰される。幾つもの魔術がテンサイに向かう。そして、轟音と地震と共に地上に落下した。


「ふぅ、怪我はないかぼうず」

「ありがとうおじさん」

「おじ……!」


 おじさんと呼ばれたことにショックを受けるものの迎えに来た母親と共に手を振って離れる少年に手を振り返す。そして、落ちたテンサイを見遣る。

 落下の勢いを少しでも抑えるために魔術を当てて尚、地面に大きな穴をあける。下敷きになった建物は見る影もなく、巨体のテンサイだが地面に盛りでないほど底に埋まっている。魔女が撃ち落としたから動くことはない。それでもこれだけの被害は免れない。休んでいる暇はない。すぐにでも次の落下地点に急いで向かう。


 魔女が撃ち落ちしたテンサイの落下地点の安全確認、それが地上組の役割だった。


「こんな化け物を倒すとか魔女も恐ろしいな」


 何人もの冒険者が放った魔術はテンサイには傷一つつけれなかった。試しに刺したナイフは刃が通ることなく折れた。硬すぎる装甲。


「これが……テンサイ」


 ゴクリと唾を飲む。もし魔女がいなかったらきっと、いや確実に無事ではない。この街は瞬く間に崩壊し、被害は周辺に及ぶだろう。


 テンサイ、それはサイの形をした魔物の名称だった。

 テンサイは地上のどこにも存在しない。災害(テンサイ)として地上に降り落ち、三日間地を踏み壊すだけの魔物。巨大な図体と強固な装甲によって鉄壁とも言える防御力を有すだけの魔物だった。それに意思はない。消滅する三日の間中、地を駆け続けるだけ。人も建物も魔物も認識しない。道にいるから潰されて壊される。認識しないというのは以前テンサイ同士が衝突したことから判明したことだ。

 三日経過すれば跡形も残さず消滅する。素材となる部位が存在しない、唯一の魔物。獣の魔女曰く、テンサイは魔力が物体を形成しているだけの魔物のなりそこない。核は絶えず消耗されているから形を保てるのが三日というだけのこと。魔物に括られているけれど魔物ではない歪な生物。だから自然災害。


 十八頭のテンサイが顕現して黄金の光が雲に隠れる。それ以降、新たに現れることはなかった。三人の魔女が撃ち落とした数は十六頭だった。残る二頭は着弾点が街より離れていたためやむを得ずスルーするしかなかった。探すのはとても簡単だった。それぞれ近いのはシアノスとアルノーだった。上空から降る最後の一頭をディルゴに任せて二人は急いで地上を駆けるテンサイの元に向かった。


 一足早く役目を終えたディルゴは最後の一頭と共に地上に降りる。落下地点を調整して街の外にゆっくりと舞い降りた。


「ふぅ、老体に響くわい」


 テンサイに乗って地上に降りたディルゴは溜息をつく。横たわったテンサイの高さはちょうど街の外壁と同じぐらいでそこから街の中を見渡すことが可能だった。

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