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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
37/127

ギムノスパーム再び

「……」

「……」

「出来ました、出来ましたよシアノスさん!」


 ぱぁぁと喜びながら振り返るキラ。彼の手はギムノスパームの葉に触れていた。それが意味するのはキラが神聖力を体内に留まらせていることの証明だった。

 長かった。何度、何度あの光景(踊り)を目にしたことか。到底慣れることはなかった。目の前で蠢いた時なんかは肝が冷えた。無数の歯が視界を埋め尽くしたときは食べられるんじゃないかと生きた心地がしなかった。それもようやく終わる。


「おめでとう、良かったわね」


 あっさりと返された。それでも褒め言葉をもらえたことで一層喜ぶ。

 しかしこれはあくまでもスタート時点。本来なら意識しなくてもできることだった。垂れ流すほどに莫大な量を有している者は多くはない。努力では覆せない絶対の差。生まれ持っての素質。


「なんとなくですが神聖力が感じれるようになった気がします」

「なら次は操作ね。下がっていなさい」


 シアノスが手をかざすとギムノスパームがフルフルと震え出す。ゆっくりと一枚ずつ花弁が開いていく。一つ違うのは生え並んでいた歯がないこと。全ての花弁が開くと付け根の部分が膨れ上がる。花弁の中央の穴と同じ大きさになると勢いよく花弁が閉じる。ぐねんぐねんと大きく揺れ動くこと数回。一旦静止したと思えば大きく振りかぶる。その際に蕾から吐き出すように何かが飛び出た。そしてギムノスパームは元に戻った。


「え、な、え?」


 何が起きたのか理解が追いつかなかった。花が開くまではとても美しかった。問題はその後だ。急に激しく動き出した様はどこか恐怖を彷彿とさせるものがあった。

 固まるキラを余所にシアノスはギムノスパームが吐き出した何かを拾い上げる。それは丸い玉のようなものだった。


 ギムノスパームは魔力に反応して襲う植物の魔物だった。普段は擬態しているため発見は難しい。森で魔術を使うと急に現れ襲い掛かる危険な魔物だった。些細な魔力でも察知することから魔術師殺しなんて呼ばれている。

 魔力を察知する特性ともう一つ、特徴があった。

 それが今しがたシアノスが実践した、実を作る手順。元来ギムノスパームが実を作ることは知られていなかった。発見したのはシアノス自身だ。そしてその実は妙薬の素材としてとても有用性のあるものだった。これには薬師たちが我先にと採取を依頼する。ギムノスパームの実の効能と一緒に採取方法も伝えられた。

 書いてある内容はとても簡単だった。がくに一定時間魔力を注ぐ。丁寧に絵も載せられていた。依頼もそこそこいい値段ということもあり、魔術師の多くは早速採取に向かった。初日、採取できた者はいなかった。そこから一週間が経過して集まったのは合計五つ。とても少なかった。

 まずギムノスパームを見つけるのが非常に困難だった。姿絵が描かれた紙を手に森で捜索しても森に擬態しているのか見つけられない。魔術を用いて探すと見つけれるが襲ってくるので対処せざるを得ない。蕾の状態で運よく見つけれるか、遠くに離れて蕾に戻ったところで近付くかでようやく第一関門突破だ。

 後は魔力を流すだけと気楽に考えたらこれまたとても難しかった。予想外に繊細な魔力操作と集中力を要するのだ。がくの部分の範囲はとても狭く、少しでも揺らいだりずれたりしたらたちまち襲ってくる。何よりギムノスパームの生息地は森だ。もちろん他の魔物だってうろついている。一か所にとどまっていても遭遇してしまう。撃退しようにも魔術や魔道具を使えばギムノスパームが反応する。純粋な技量で対処しなくてはならない。何より魔術師は集中力を途切れさせてはいけない。長丁場になればそれだけ魔力も消耗していく。守ってくれる仲間を信頼し、決して恐怖や焦りを抱いて揺らいではいけないのだ。パーティー全員の技量と信頼関係も試される。

 ギルドで定められた採取難易度はB。冒険者間ではA並みだと忌避され、割に合わないという理由でハズレクエストとなっている。


 妙薬を欲しがる者もいたが何分素材が揃えられない。

 あまりの入手困難さに薬師がシアノスに泣きついて素材を分けて欲しいと頼み込んだことがあったが、「欲しいのなら自分で調達しなさい」と一蹴した。



 そう言った経緯があるギムノスパームの実だがシアノスは簡単に採取してみせた。森はシアノスにとって庭みたいなもの。ギムノスパームを探すのだって簡単だし魔力操作だってお手の物。精密な魔力操作は調合にも古代魔法にも通ずる。


「がくの一点にだけ魔力、神聖力を注ぐの。針に糸を通すようなものよ。花弁が閉じたら注ぐのをやめて実を吐き出すのを待つ」

「わ、分かりました。やってみます」


 キラは目を閉じて集中する。人差し指の先から一本の細い線が出ているイメージ。真っ直ぐがくに向かう。ギムノスパームが震え出す。良しっと喜んだのも束の間、ガツンと大きな音がした。

 目の前にはある意味見慣れた夥しい数の歯。ギムノスパームは臨戦態勢に入っていた。


「がく以外に神聖力が触れたら襲われるわよ」

「さきに教えて欲しかったです」


 今回もできるまで先が長そうだ。


「他に安全な方法はないのですか」

「これが一番効率がいいのよ。人間は死を目の前にするといつもより実力が発揮できるようになっているの。だから死ぬ気で鍛えた方が上達も早い」


 訓練より実践の方が上達が早くなるのはこのためだ。死を感じ、生きたいという意思が力になる。それで実際に死んでは元の子もないのだが……


「喰われないのだから遠慮することはないわ」


 そう、キラは襲われても危害が与えられたことはなかった。いつも目の前に壁があるかのようにビタッと止まる。自動防御壁が発動していた。


 だからと言って安心できるものではない。怖いものは怖い。それでもキラは頑張る。シアノスの役に立ちたい一心で勇気を奮い立たせる。

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