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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
33/127

異常気象

「お疲れ様です魔女様」


 別室で待機していたキラはシアノスを見て満開の花が咲いたかのように嬉しそうに笑う。元々はキラを連れてくるつもりはなかった。

 というよりもシアノスはキラの扱いに困っていた。キラの立場は不明瞭だ。弟子でもなく補佐にもなりえない。下人というのが働き的に会っていた。まあ、好きにさせればいいかと楽観的に考えていたシアノスだが学会の後、お大事たちに詰められた。


「キラさんをたくさん連れ出してあげてください」

「経験して知るのは大切なことよ」

「美味しい物をたらふく食べさせるぴょん」


 彼らの助言とキラの希望もあり、シアノスと同行するようになった。戸惑いこそはあるが慣れてしまえば気にすることはない。察しは良いし、あくまで同行人として範疇をわきまえている。本当にほだされてしまっているのか、シアノスも悪くないと思い始めていた。


 帰ろうと廊下に出ると階下が騒がしかった。バタバタと慌ただしく怒号も聞こえてくる。


「何かあったのでしょうか?」


 キラが心配そうにつぶやいた時だった。一人のギルド職員がシアノスの元に走ってきた。


「魔女様! 良かったまだこちらにいらしたのですね。どうか魔女様のお力をお貸しください!!」


 職員に連れられた部屋には何人もの冒険者が横たわっていた。肌は紫色に変色していて呼吸が荒い。毒に侵されていた。

 すぐさまシアノスは調合に取り掛かる。症状から毒の種類は特定できる。解毒薬も手持ちの素材で足りていた。調合は集中力が肝心だ。だからすぐ近くで起きていたそれに気づいた時には手遅れになっていた。



「勝手なことをしないで!」


 治療が終わり、患者は皆安静に眠っている。その隣室でシアノスはキラに怒っていた。


「申し訳、ありません。助けなければと気が急いていました」

「あなたの力は強大よ、それは認めるわ。でもね、神聖力だって万能じゃないの」


 シアノスが調合を終えて振り返ったとき事態は変貌していた。肌の色は元通りに、顔色は多少は良くなっていた。その理由にすぐに察しがいった。キラだ。キラが癒したのだ。だがここで問題があった。毒の症状はなくなって一見完治したかのように見えるが、未だ意識は朧げで苦しそうだった。


「なんのために薬師がいると思う? あなたたち聖女では病を治すことは出来ないからよ。それぞれの役割があるの。領分があって棲み分けているの。自分の力も理解できていないくせに自惚れんじゃないわよ」


 コンコンとノック音が響く。


「言い争ってる最中で悪いが緊急だ。緑の魔女に依頼を頼みたい」


 そう言ったのは冒険者ギルドのギルド長ライオンだった。


「先ずは冒険者を助けてくれたこと感謝する」

「ジャイアントフローグ、ただの傲りじゃなくて?」


 彼らが受けた毒はジャイアントフローグ、巨大蛙の吐く毒の症状だった。身なりからして駆け出し。ジャイアントフローグが生息している沼地は初心者向けではあるが奥に入らなければ遭遇することはないはずだ。


「ああ、オレもそう思ったんだが一応調査隊を派遣したところ異常気象が観測された。沼地に毒雨が降り注いでいるとな。それ以上は近付けなくて調査は不能。それで――」

「わたしに依頼した」

「そういう事だ。毒雨を攻略できるのはあんたしかいない」

「わかったわ。その依頼、緑の魔女が引き受ける。明日の朝見に行ってみるわ」

「助かる。宿と馬の手配は任せてくれ。他にも必要な物があるのなら遠慮なく言ってくれ」


 その夜、シアノスとキラが顔を合わせることはなかった。朝シアノスはキラを置いて一人で沼地に向かった。


 目の前に降る毒雨にシアノスは言葉を失う。やはり人伝の情報じゃあ分からないことが多い。

 確かに毒雨は降っている。だがこんな豪雨とは思ってもみなかった。なるほどだから降り注ぐだったのか。一寸先も見えないほどに大粒の毒雨が絶えず

 落ちる。範囲はちょうど沼地内に収まっているようだ。外から内部を探ろうにも毒雨のせいか魔力が張り巡らせれない。シアノスが取った手段は強行突破だった。


 足の取られる沼も視界の悪さも関係なかった。ふわりと空に浮かんだシアノスはそのまま沼地に入っていた。風を操り自分を浮かす。このとき自分の周りを風で包んでいるので雨は自ずと弾く。大きな魔力が感じる方へ一直線に進む。


 学会でのことが思い起こされる。魔物の凶暴化。環境の変化。正体不明の魔道具。

 通常より遥かに巨大化しているジャイアントフローグの姿。額に鈍く光る赤い宝石。周りを漂う数多の黒い物体。良く見るとサイズは明らかに違うもののそれらはジャイアントフローグの幼体だった。

 原理は分からないがこの雨は恐らくこれらの魔物によるものだろう。であれば討伐すれば雨も止むはずだ。



 太陽の光が差す。雨は止み空が顔を出す。風が吹き込み毒の残滓も晴れていく。地面に吸収されなかった毒が水たまりをつくる。紫色の水が沼地一帯を浸水していた。

 空を見上げるシアノスの周りには動かぬ魔物の屍骸がゴロゴロと転がっていた。ジャイアントフローグの額にあった宝石はどこにも見当たらなかった。


 沼地は暫くの間ギルドによって立ち入り禁止になっていた。毒たまりがはけたそこには何もなかった。魔物も植物も全て毒によって溶かされなくなっていた。


 怪我した様子もなく無事に帰ってきたシアノスにほっとしたキラだが話し掛けることはできなかった。一晩中反省した。朝一番に謝ろうとしたがその時すでにシアノスは出立していた。帰って来てからも忙しそうでとても話掛けれる雰囲気ではなかった。

 結局キラがシアノスに謝れたのは魔女の家に戻ってからだった。それでも二人の間には軋轢が生じた。明らかに態度が変わったのはキラの方だった。怒ったのはシアノスだが終わったことをいつまでに気にするほど繊細ではない。失敗を引き摺っているのはキラで、生活習慣は変えてないまでも気まずいのか会話はなくなった。シアノスの顔色を窺い一つ一つの行動に神経質になっていた。

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