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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
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客人襲来

「シーシーちゃーん!」


 シアノスがちょうど薬草を摘んで戻って来たタイミングで扉が大きな音を立てて開かれた。軽快な声と共に一人の男が家に入って来た。


「遊びに来たよー。いつものやつ飲みたいなー」

「はいはい」


 薬草を置きに行ってから茶の準備をする。その間キラが手伝うと言ってきたが断った。むしろ近付かないように言及した。未だ力の制御ができていない彼が近づけば薬の効能に変化が生じてしまうかもしれない。シアノスが入れるお茶は彼女お手製の薬草茶だ。使用する種類から配合の割合、入れる手順まで決まっている。だから下手に手を出されても困る。


 役に立てないことに落ち込むキラは机に座っている客人と目が合った。にまーっとキラを見て笑っている。依頼者という風には見えないので、彼も魔女なのだろうか。


「飲んだらさっさと帰って」

「わーいありがとー。んー、相変わらず不味い!」


 アハハと笑いながらシアノスが入れたお茶を一気に飲み干す。シアノスの冷たい態度を気にもせず楽しそうである。


「いやーまさか本当にシシーちゃんが誰かと暮らすなんてびっくりだよ。ボクにナイショにするなんてヒドイ!」

「用が済んだなら帰って」

「ンフフー冷たいなーつれないなー。そうだよね、それでこそシシーちゃんだよ。変わってなくて良かった良かった。そうだ、自己紹介がまだだったね。ボクはナルク。よろしくねキラちゃん」

「はい、よろしくお願いいたしますナルクさん」


 差し出された手にキラはなんの躊躇いもなく握手を交わす。キラの行動にナルクの笑みはさらに深まる。シアノスがその様子を見てため息をつく。


「あっシシーちゃん、教会本部にいるラプラスって人物に会いに行くといいよ。それじゃあまたね!」


 ナルクはバイバーイと手を振って家から飛び出していった。嵐のような男だった。


「ナルクさん、元気な方ですね。彼も魔女なんですか」

「あれは情報屋よ。接し方には気を付けることね」


 ナルクは有名な情報屋だ。神出鬼没で今のように遊びに来る。それも決まってシアノスが研究室の外にいるときに。

 情報屋ナルクの顔を知る者は多くないく、『歩く最終兵器』という異名だけが独り歩きしている。ありとあらゆる情報を掌握している。大陸中の人の名前から顔、生活、果ては国の重要機密まで、彼に知らぬものはないと言われている。彼にかかれば国家間の争いの種を撒くのは容易なことだ。故に最終兵器と呼ばれている。いつどこで情報が漏れたのか、どのようにして情報を入手しているのか、全てが謎に包まれている。ただ一つ、どんな隠し事も彼の前では無意味だという事。

 現に今だってキラが聖女だったということも、魔女の家に暮らしていることも知っていた。さらにはシアノスが欲しい情報までも寄越した。何故かは分からないがシアノスはナルクに気に入られていた。あの様子からしてキラも気に入られたようだった。ただ遊びに来るだけの時もあればこうして要らぬアドバイスを投げつけるときもある。ありがた迷惑な客だ。


「そんなすごいお方なんですね、ナルクさん」


 とてもそのようには見えなかった。出て行った扉を見ながら感心したように声を上げる。


「魔女様は教会本部に行かれるのですか? ナルクさんがおっしゃっていたラプラスさんという方に会いに」


 階段を上り始めたシアノスに声を掛ける。


「気が向いたらね」


 気怠そうに答えたシアノスはまた研究室に籠ってしまった。

 そしてシアノスが教会本部に向かったのはナルクが来た日から二十日後のことだった。


 大陸は四つに分かれている。惑いの森や王国がある南大陸フロンターレ。水の魔女の温泉街や東国がある東大陸ディウジス。獣人族が治める大帝国がある西大陸バッセン。三つの大陸に囲まれた教会の所有領、中央大陸アラストル。

 アラストルには初代聖女による結界が張られているため各大陸から架けられている橋を渡って上陸するほかない。これにはさすがのシアノス並びに他の魔女でさえ突破することは不可能だ。結界内では魔術が一切使用できないのは常識だった。

 大陸に入るための入陸証から教会本部への入門証の発行まで正当な手続きを踏む必要があるのだがこれがまた大変なのである。何より厄介なことに、規定基準があるのか発行されない人もいるらしい。


 そんなわけだが魔女の家にはその入陸証と入門証がある。もちろんナルクの置き土産だ。いつの間にか机の上に置かれていた。ご丁寧なことに二枚ずつ。据え膳だった。


「魔女様、いつものローブではないのですね」


 シアノスが出掛ける時はいつもローブを纏っていた。全身を覆うほどの丈の黒いローブで赤い刺繍が編み込まれている。胸には植物の葉を模ったバッジをつけている。ローブは魔女の証であり、バッジは魔女の識別だ。それぞれの名前に由来する形をしている。


「教会は一方的に魔女を毛嫌いしているの。わざわざ争いの火種を持ち込む必要(バカ)はないわ」


 入陸証並びに入門証のお陰ですんなり教会本部に入ることができた。伝達が言っているのかすぐにラプラスに対面することができた。


「初めまして私は枢機卿を務めておりますラプラスと申します。本日はどのようなご用件でしょうか、緑の魔女様」

「挨拶に来ただけよ、これのね」


 これ、と隣に座るキラを指す。目の前の男、ラプラスが意外だとばかりに眼鏡を上げて目を細める。じっくりとキラを観察する。

 見られているキラはカチンと固まったように微動だにしない。まさか枢機卿が出てくるとは思わなかったのだ。枢機卿は教会の最高位階級の教皇を支える役職だ。実質教会の二番目に偉い貴き身分の方。


「失礼ですがこの方はどなたですか?」

「は、はい、私はダレンザーン支部にて聖女を務めさせていただいておりましたキラと申します」

「…………おかしいですね。ダレンザーン支部含めどの教会にもキラという名前の聖女は記録にありません」

「えっ」


 ラプラスは聖女統括枢機卿。教会にいる全ての聖女の情報を把握している。聖女の配属先の決定権はラプラスが握っている。


「失礼ですがキラさん、ここ本部に来たのはいつですか?」

「今日が初めてです」

「なんと……?!」

「モグリか、してやられたなぁラプラス」

「猊下……何故ここに」


 尊大な態度の男が断りもなく部屋に入って来た。ラプラスは男の入室に咎めることはなく、逆に畏まる。男は気にも留めず上座に座る。


「なぜって、面白そうな客人が来てるってんで合わない理由はねえだろ」

「全くあなたというお人は……。ご紹介いたします。この御仁は教皇猊下、聖女教会の現トップにございます」

「よろー♪」


 思わぬ大物にキラは慌てて畏まる。枢機卿もそうだが、それより上の教皇猊下は雲の上の存在だ。緊張して冷や汗も止まらない。


「教会の上層部は大層身分がいいことで。いったいどれだけの鳥を愛でているのかしら」

「いやぁ慈善家な魔女には劣るねぇ。わざわざ褒め言葉をもらえるなんてもったいない」


 笑顔の応酬に部屋の空気は冷えていく。二人の間に火花が散っているようだった。それに待ったを掛けたのはラプラスだ。手を叩いて注目を集める。


「もうよろしいでしょうか?」


 有無を言わさぬ圧力にシアノスと教皇はすっと視線を逸らす。

 事のあらましを聞いたラプラスは一旦眼鏡をはずし目頭を押さえる。頭が痛い問題に苦労が絶えないのだろう。トップもこれだからなとラプラスに憐れみの目を向ける。同情はしないが。


「そうでしたか……。キラさんには一つお詫び申し上げます。管理不足によりあなたに苦労をかけました」

「い、いえ! 頭をお上げください。聖女としての日々は私にとってかけがえのないものです。むしろお礼申し上げます」

「そのように思っていただけるのなら嬉しい限りです。聖女教会は聖女キラはダレンザーン支部の司教が創り上げた虚像だったこと、ここに宣言します。よろしいですね、猊下」

「ん-オッケオッケー! その力も好きに使っちゃっていーよー」

「あ、ありがとうございます……!」


 ようやく終わったとシアノスがさっさと帰路に着く。その後をキラが追いかける。


「そーだキラくん。手向けに一つアドバイスしよう。神聖力は神の慈愛と純心な祈りによる御業(奇跡)だ。ま、精進するこった」


 ひらひらと手を振って見送る教皇と枢機卿に再び深く頭を下げて魔女の元に向かう。扉が閉まり周囲に人の気配がないのを確認して、ラプラスが口を開く。


「どうでしたか」

「いやー惜しいね~。下手しちゃ俺以上よ。若いって羨ましいねー」

「直ちに教会内部を改めます。これ以上聖女の器が壊されぬよう徹底します」

「よろー。……全く、先入観ってのは嫌だねえ。聖女は女だけ、なんて明言していないのにさ。あーあ残念」

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