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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
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依頼完了

「ほら、本人もこう言っていることだし部外者は黙っていなさい」


 当人であるシアノスとキラの意見は一致した。一緒に住めと言っているヒイロとラトスィーンは正しく部外者なのだ。

 勝ち誇ったように笑みを見せつけるシアノスにラトスィーンは嘆息する。やはりダメだったかと簡単に諦め、事実を受け入れる。彼女は言葉通り、提案しているだけだ。そうなればいいと思っているのは事実で、ダメなら仕方ないと諦めがつく。特に期待もしていないく、この結果になるのも想像通りだった。


 シアノス自身、想像すらしたことがなかった。誰かと暮らすことを一片たりとも。たまに街へ出るとき、ヘクセで他の魔女と話すとき、誰かの仲睦まじい様子を羨ましいと感じたことはない。一人で家にいても寂しいと感じたとこはない。不便だと感じたことはない。他人の必要性を感じたことはない。

 自分にとって他人は不要な存在。関わりがなければそれが一番。誰になんと言われようが構わない。考えを変える気は毛頭ない。


「それじゃあ話もついたことだし決まりね。ああ、忘れていた依頼の報酬を受け取っていなかったわ」


 天秤は傾いた。もう何を言っても無駄だとなのだと諦める他ない。諦めなければならないのにヒイロの顔色は優れない。頭では分かっていてもすぐに切り替えることは出来なかった。そんなヒイロを置いて会話は進んでいく。


「じゃあこれ。ここに聖水を注ぎ入れて」


 これとシアノスはどこからともなく出した樽は実に三つ。大きさも腰ぐらいの高さがある大樽。それを見たラトスィーンが強欲と呟いたのは無視だ。

 聖水は教会でしか購入できない神聖力が込められた特別な水。飲めばどんな怪我も病気も治ると謳い文句の品。小さな瓶それだけで途轍もなく高価な価格が設定されている。基本的に金銭的に余裕のある王族貴族しか買わない、買うことが出来ない代物だ。

 実を言うとシアノスは少し気になっていた。そして持ち手は余るほどあり、買えなくはない。買わなかったのはそうするだけの理由がなかったから。どれほどの効果があるのか試してみたいがわざわざ買ってまで欲しいかと言えば否だ。興味はあるがそれだけ。それくらいのどうでもいい物だった。

 しかし都合がいいことに目の前には聖女がいる。それならと少し欲をかいた。薬にも使えるかもしれないと多めにもらっておこうと。シアノス自身も三樽はさすがに無理があるかと思わなくはなかった。無理なら一樽でもいいかと言おうとしたとき――


「分かりました。えっと水を満たしていただいてもいいですか」


 なんてことないようにキラが了承した。目を瞬かせたシアノスは彼の言う通りに魔術で三樽分、なみなみと満たす。キラは樽に近付いて両手を翳す。手から光を発し、樽を包み込む。しかも三樽同時に。光が収束した後、キラは樽の中を確認して笑顔で頷く。


「はい、終わりました。魔女様、これだけでよろしかったでしょうか?」


 今度はシアノスが呆気にとられる番だった。教会が情報を漏洩しないようにしているせいで聖女の、神聖力についての情報が一切入手できない。故に聖水の作成方法だって知らないし、どれほどの労力を要するのかも分からなかった。樽は冗談半分、というか加減が分からず取り敢えずと言っただけ。実際のところ、少し手に入れればそれでよかったのだ。

 だからこんなに簡単なものなのかと驚きが隠せない。近付いて樽の中を見るに中身は正しく聖水だった。シアノスが出した水ではない。透き通るようなそして僅かに輝いていた。エリクサーとも妖精の雫とも異なったそれは紛れもなく聖水と言えるだろう。


 キラを見遣ればなんてことない様に笑む。思わずラトスィーンを見れば彼女も珍しく気の抜けた顔をしていた。気を取り直して聖水の入った三樽をしっかり空間魔術でしまう。

 こんなに簡単に出来るのにあれっぽっちの量で高額に吹っ掛けるなんてやはり教会は守銭奴だなと改めて思う。


「いえ、こんなことできるのキラ様ぐらいですからね!? 他の聖女は無理ですよ! 一日かけてコップ一杯出来るかどうかですから!!!」

「えっ、そうなの?」


 ヒイロの叫びに納得しかけた聖水事業に待ったをかける。そういえばこの男は力が強いと言っていたな。思えば妖精を興奮させるほどにまき散らしていた奴だ。しかも本人は無自覚ときた。

 なるほどね、これだけの力だ、教会が気付いているとしたら黙ってはいないだろう。大方、わたしの庇護下から外れた瞬間を狙って連れ去るだろう。そして一生逃げられないように頑丈に囲って死ぬまでこき使うのだろうな。


 想像は難しくない。哀れに思う。可哀そうだなと思う。しかし、ただそれだけだった。だからと言ってじゃあ助けようなんて露にも思わない。どんな顛末を迎えようとそれがこの男の人生でわたしには関係ない。少し関わったことのある他人。その人生を幸福と捉えるか不幸と呪うかは本人次第。


「それじゃあ用は済んだし、もういいわよね水の」

「折角ですし温泉に浸かっていきませんか? 陽も暮れ始めていますから帰るのは明日にして、食事の用意もしますよ」

「じゃあ帰るわ」


 帰る前にそうだ、こっちまで来ているのだし東国に行くか。あの薬についても問い質さないといけないし……。

 そう考えてあっ、と声が漏れる。後ろを、キラを振り返る。完全に忘れていた。ヒイロが来たからこれ幸いにと依頼を優先した。それは良い。

 何故今になって思い出したのだろうと悔やむが後々になって見つけてしまってもそれはそれで後悔してしまう。寸でで気付けた自分を褒めるべきか悩ましいところだが気付いてしまったのなら仕方ない。立つ鳥跡を濁さずだ。


「荷物……」

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