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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
18/127

今後の生活

 ヒイロにはっきり言われた言葉にキラはキョトンと瞬く。一つ、二つ、三つ瞬きの後首を傾げる。


「無理、ですか?」

「ええはい、どう考えても。キラ様が働き者なのはよぉく知っています。ですがそれはキラ様が絶対的保護下にいるからこそ可能なことなのです」


 教会でよりにもよって聖女に手を出せるものがいようか。しようものなら最悪命が無事じゃすまされない。聖女の仕事中、必ず護衛が側にいた。キラは行ったことはないが慈善事業の一環や出張で聖女が外に出ることはあるがそれも一人の聖女につき何人の護衛がつけられる。よって安全は常に保たれているのだ。


「いいですか、キラ様。外の世界は厳しいんです。平気で他者を蹴落とし利用することしか考えないクソどもが多いんです。そこに純粋無垢なキラ様が一人放り出されたら簡単に利用されちゃいます。奴隷のように扱われるかもしれないんですよ」

「どれい」


 ヒイロが切羽詰まって説明するがキラにはピンと来ていない。キラは生まれたときから閉ざされた世界で生きていた。修道院で育ち、教会に引き取られた。碌に外の世界も触れることなく普通の一般的な生活というものを知らない。なんなら街にだって降り立ったこともないのである。完全な箱入り娘ならぬ箱入り青年。


「だから言ったでしょう。わたしは忠告したわ。そしてあなたはそれを受け入れた」

「うぅ……」


 そう、確かに言った。そしてヒイロはそれを理解した上で依頼した。だからこれは我が儘だ。ただでさえ無理な依頼を引き受けてくれた恩人(魔女)に対して恩を仇で返すようなもの。反対されたって仕方のないこと。

 後悔はしていない。キラが教会に居続けても先は長くないことは目に見えていた。


 唸るヒイロにキラは宥める。大丈夫ですよ励ますがヒイロは渋い顔をする。シアノスは断固として拒否する姿勢は変えない。人情はないのかこの魔女は。だから人嫌いの魔女と呼ばれているのかなんて明後日の考えをし出したころ――


「私は賛成なんですがね。キラさんがシアノスの傍にいてくれると安心できます」


 沈黙を保っていたラトスィーンが意見する。思わぬ助け船にヒイロが目を輝かせる。反対にシアノスはうげっと言うような嫌な顔をした。


「水のには関係ないことでしょう。わざわざ場を提供して何を企んでいるのかと思ったらこのこと?」

「いいではありませんか。人一人ぐらいなんてことないでしょう? シアノス一人では生活が心配なんですよ。お節介と思うのなら生活態度を改めてください」

「はあ? 水のに言われる筋合いはないわ。わたしがどう生きようが関係ないでしょう。これまで問題なかったのだし変える必要を感じないわ」


 シアノスが一に研究二に研究、三四に研究、五も研究の研究バカというのはヘクセ内では周知の事実だ。食事睡眠の優先度はとにかく低い。なんなら食事は彼女自作の丸薬で睡眠は昏倒。これのどこが健康と言えるだろうか。そしてそれを良しとして治そうともしないシアノスもシアノスだ。

 悪いがこれは絶好の機会。シアノスにはぜひ、キラと共に居て欲しい。キラが云々ではなく単にシアノスが健康に生活してほしいと願っているだけ。なんならキラでなくていいのだが、まあ他にいないので。


「魔女は基本不干渉のはずでしょう。あなたがそれを破るのかしら」

「いえいえ、私は単に提案しているだけです。命令でも強要でもありません」

「その提案が干渉していると言っているのだけど?」


 シアノスが噛み付かんばかりに攻撃的だ。ラトスィーンはそれを軽々と受け流している。話し合いは平行でどちらも折れない。


 ……それほど嫌っているのだろうか。それほどにキラを受け入れられないのだろう。

 キラは少し胸を痛める。こんなに自分を否定されたことは初めてだった。シアノスから体力が戻ったら出て行けと言われたことは覚えている。実際、自分もそのつもりだった。

 迷惑をかけたから、厄介者はいない方が無用な心配をせずに済むだろう。初めて見る魔術に興奮した。短い間で大して会話したわけではない。でも彼女に会ってからは知らないことが多くて心が躍った。でも、これ以上彼女の邪魔には重荷になりたくはなかった。自分のせいで彼女たちの中が引き裂くようなことになってほしくなかった。

 ヒイロは無理だと言っていたが大丈夫。どんなことでもやれる。()()なことはない。


「ヒイロも、ラトスィーンさんもありがとうございます。でも私は大丈夫です。これ以上魔女様のご迷惑にはなりません。今までありがとうございました魔女様」


 笑顔で礼をする。そこには悲しいと感情は微塵も感じなかった。

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