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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
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薬師としての技量

 キラは誰かに怒られたことがなかった。気の利く働き者だった彼は嫌な顔一つせずに命じられたままに動くのだ。加えて、彼自身も人の役に立ちたいという意思があり、どんな仕事も言われた通りに、それ以上の仕事をこなしてきた。故に、感謝こそされてきたが怒り叱られることはなかったのだ。


 シアノスの様子から只事では無い事をしてしまったと感じ取ったキラは懇親丁寧に謝罪する。自分の行動、または原因となり得る要素を思いつくだけ全て伝える。必死なのか無意識なのか身振り手振りで説明して何とも騒がしい。

 対するシアノスは問うていながら説明を聞いているのか。視線がキラに向いたのは数秒のことで今では畑に生えている薬草を順に観察している。


「この子たちが育つのにまだ一ヶ月はかかったはず。状態は悪くない、むしろ極上と言っていい質。でも育っているのもあれば変わっていない子もいる。ちょうど水が与えられた子が成長している。水は……特に変わった様子はない」


 畑を歩き回ってはキラの足元に置かれたジョウロに手を突っ込む。思考していると目の前を妖精が通り過ぎる。それにハッと気づいて周囲を見渡す。森の妖精らは頻りにキラの周りを飛んでは方々に散っていく。キラはシアノスに凝視され固まる。良くは分からないがとりあえず動かないように静止していた。


「妖精との親和性、それだけだとこんなに騒がしくはしない。興奮するほどの魅力的な何か、人とは違う特別な……神聖力!!」


 答えに辿り着いたシアノスは大きく瞳を開けてキラを見遣る。果たしてその解は正しいのかはまだ分からない。しかしそれが一番の有力解であることに違いないと自信を持って言える。

 一先ず原因が分かった。だが原因を判明したところで現状何かが変わるかと言えばそうとは限らない。というよりこれはもう事後と言っていい。だからと言ってこの状況を野放しにしていいかと言えば即刻反対だ。


「神聖力を放出しているのはなにか……いえ、もしかしてだけど神聖力の制御が出来ていないんじゃないかしら?」

「神聖力を制御、ですか?」

「やっぱり無意識に放出しているのね。多すぎる力を抑えきれないんだわ。それで薬草も妖精も影響を受けて……」


 シアノスは大きなため息を吐く。再びキラを見れば意味が分からないと言わんばかりに首を傾げている。頭に疑問視を浮かび上がらせてながら困ったように苦笑する彼にシアノスはもう一度ため息を吐く。


「最悪だ」

「え、ええと? あの、私がなにかしてしまった、ようで?」

「ええ、ええ、ええ盛大にやりやがってくれたわ。あなたのせいで薬草が育ち過ぎてしまったわ」

「薬草が良く育ったのは良いことではないのですか?」

「質がいいのはいいことよ。良質であればあるほど、薬の効力も高くなるもの。回復薬なら回復量が上昇するし内包量を減らしても同じ効力を得ることも一段階上の回復薬と同等の効果にすることも可能よ」

「それなら喜ばしいことではないですか」

「回復薬を例にした話よ。それが毒薬なら? 毒の威力は増し既存の解毒薬では治せない毒薬を製薬することが出来る。少量でも効果が出せるなら服薬させるリスクは大幅に減らせるし確実性が上がる。死に至らせるものではなくとも依存性が増すかもしれないし廃人になる可能性だってある。そもそも薬っていうのは良くも悪くも人体に影響を与えるものよ。効きやすさや副作用は人それぞれだし、許容量だってある。残念だけど質が上がればいいことずくめとはならないの」


 薬も毒も表裏一体。使い方次第でどちらにでもなる危険な代物。故に扱いには過剰なほど慎重に行ったって足りないぐらいだ。

 物事には良し悪しが必ず伴う。完璧なものなど存在しないのだから。物の見方や人の感性、要素は様々だが物事は一面だけで判断しては足元をすくわれる。誰かにとっての薬は誰かにとっては毒になりえる。その逆もしかりだ。


 シアノスの説明によりようやく状況を理解したキラの顔が青ざめていく。

 ただ水を与えただけだった。

 いい天気で体調も良くなって散歩に出向いただけ。それで畑が見えたものだから世話になっているお礼も兼ねて水を撒いた。勝手な行動ではあるがそこに悪気はない。本当に、良かれと思ってしたことだった。それが、まさか想像もしない事態を引き起こすとは考えられなかった。考えられるはずがなかった。

 実際のところ、彼は悪くない。

 悪くはないが、反対に良いとも言えない。

 ただ無知だった。己の力に、付随する効果を、知らなかっただけ。


「そんな、私なんてことを……も、申し訳ございません! どのような処罰も甘んじて受けます」

「いいわよ、そんなの。くだらない」


 キラの謝罪をバッサリ断ち切る。それはもう容赦なく軽々しく。


「わたしは緑の魔女、植物を専門にする魔女よ。さっき挙げた例は能無しの三流がやること。質の良し悪しなど瑣末なこと。植物は自然のものだもの、場所や環境によって差異があるのは当然よ」


 シアノスが不敵に笑う。驚きはしたが大して問題には捉えなかった。問いただしたのだって突然変異の起因が知りたかっただけでそれ以外の理由はない。

 強いて面倒なことといえば調合の割合を算出しなければいけないことぐらいだ。それもシアノスにかかればさほど難しいものでは無い。どんな質の薬草を用いてもほぼ均一に同じ薬を生成することが出来る彼女だからそう思っているだけで実際問題とても高難易度の技術を要する。普通の薬師であるならば、人の手で調薬されるそれらはどうしてもばらつきが出てしまう。薬草の質、魔力操作、集中力や環境など幾つかもの要因が重なる。全く同じ物を作るのは相当な実践を積んでもやっと出来ることなのだ。

 これ、本業の薬師での話である。一人前に認められる基準がまさにそれなのだが、片手間に薬師まがいなことをしているシアノスは当たり前にできてしまっている。シアノスの製薬した魔女印の薬は高品質故に一般的に流用はしておらず価格も市場価格の倍以上。

 そんな緑の魔女を薬師は尊敬し、目標にしているのをシアノスは知らない。もちろん、あまりの精密さから畏怖の念すらもたれていることも彼女は知る由もない。

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