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緑の魔女  作者: 猫蓮
おまけ
125/127

女神キラ

 キラはシアノスが眠ってから水の魔女の温泉街、被害がなかった旅館でしばらく滞在していた。復旧作業を手伝ったり料理を作ったりと毎日が大忙しだった。けれども彼は笑顔を絶やさずにすべてをやってのけた。


「キラ、本当にありがとうぴょん」

「いえ、お役に立てたなら良かったです」

「十分過ぎるほど働いていただきましたのでとても助かりました。他の温泉施設も利用して構いません。いつでもこちらに戻って来てもいいですからね」

「ありがとうございますラトスィーンさん、リーリンさん。それでは失礼します」


 ガルロが羽を生やせるようになってから数日が経過した。ラトスィーンとリーリンに別れの挨拶をしてキラとガルロは旅館を後にした。各地を巡って傷付いた人々を癒す旅に出た。


 最初に訪れたのはガイシェムル帝国。キラが来たという情報をいち早く掴んだルーが彼を出迎えた。


「キラさん久しぶりー! ……ってなんかチビッ子が増えてる!?」

「ルーさんお久しぶりです。この子はガルロです」


 大手を振って走ってきたルーはキラに抱きつく。その後に後ろにいたガルロの存在に気付いて驚く。彼女の後ろからサミムが苦笑しながら近付く。


「ルー殿、はしゃぐ気持ちは分かりますが落ち着いてください。キラ殿、お久しぶりです。お加減変わりないようで安心しました」


 ヘクセの内情ーアルノー、バーン、インデックスの訃報とシアノスの冬眠ーはすでに各国に通達されている。エドライーギスから教えられてそのことを知った二人はキラのことを心配していた。


「お気遣い痛み入ります。ですが、この通り元気ですのでご心配には及びません」


 再会を果たした後、城に招待され歓迎を受けた。厚意で部屋を用意してもらったので城を活動拠点にして帝国の復興支援の助力をした。一、二ヶ月ほど滞在してから彼女たちとは別れ国を出る。


 次は南下してフィニック国へ向かった。キラはちょうど反時計回りにぐるっと大陸を回るつもりだ。


 フロンターレ大陸に入りバッセン大陸から最も近い領地、ヴィーティリプ領にあるギルドでヒイロに出会った。


「キラ様ー!!! お会いしたかったです。どこかお怪我はありませんか!?!?」

「ヒイロ久しぶり。どこも怪我してないよ」


 出会い頭にギューと抱きつく。キラもヒイロ抱き締めて頭を撫でる。少し離れたところから二人の様子を見ていたヒイロのパーティーメンバー、シャルとラーニャはヒイロの心配が晴れて安堵した。それと同時にヒイロの猛突撃を軽々と受け止めたキラに恐れを感じた。経験者は語る。馬鹿力な彼女の突進や抱き着きはとても痛いと。経験者だから分かる。軽々受け止めたキラの凄さを。


 キラから体を離したヒイロは傍らにいるガルロに気付いた。お互い無言で見合う。一触即発の空気が流れ周囲が固唾を飲む。穏やかじゃない空気が流れていること気付いていないキラは笑顔で互いのことを紹介する。野次馬の心は奇しくも一つになった。三人の様子を見てカオスと思った。


 ヒイロとガルロの睨み合いは長く続いた。すると突然両者が同時に動き出す。周りで固唾を飲んで見守っていた人たちが始まる、と緊張感が高まった。そして――

 二人は固く手を握った。


「キラ様を頼みます」

「まかせろ」


 意気投合していた。その様子に周囲の人たちはずっこける。手を握ったまま二人は周りを見渡して転んでいる彼らを見て首を傾げる。何やっているんだろう?と。


 ヒイロとガルロは似通っていた。だからこそ、直感で通じ合った。一目見た時から本能が信頼に足る人物だと認めた。見合っていたのは野生的な動物の習性に近いものとだけ言っておこう。警戒していなくとも相手の出方を窺っていただけだった。


 サーコルの各領地を回っていた二人はラジャ領に近付くと、猛スピードで馬車が向かってきた。目の前で停止し、中から一人のメイド、メリーが出てきた。


「キラ様、ルーザお嬢様がお待ちです」


 馬車に揺られてハウンドッグ家に着くと玄関先でルーザが待ち構えていた。


「お姉さまっ!!! お会いしたかったですわ!!」

「ルーザさん、お久しぶりです」

「ご無事で本っっ当に良かったですわ。ゾルキア様とアレキシオが訪ねて来られた時にお姉さまが各地を回っていると聞いて、お会いする日を今か今かと待ち望んでおりましたの」

「ここ最近のお嬢様と来たら、とても鬱陶しいものでした」

「なっ、メリー?! そんなことありませんわ! ……ありませんわよね?」


 ルーザはメリーの言葉を否定する。けれども心配になっておずおずと問い尋ねる。そんな彼女を無言で数秒見つめ、フッと笑う。


「どっち、どっちですの?! メリー!?!?」


 無情にもメリーは不安そうにするルーザを見捨て、「キラ様ご案内致します」と言って屋敷の中へと招く。離れていく彼女の背に手を伸ばし大声でメリーの名を呼ぶルーザの声が澄み渡る青空に虚しく木霊した。


「お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ。ごめんなさい」

「そんなことありませんよ。仲の良いお二人の姿を見れてとても嬉しく思います」

「それは良かったですわ?」


 喜んでいいことなのか分からなくて疑問形になってしまった。けれどもクスクスと楽しそうに笑うキラを見てまあいいかと気持ちを新たにする。それから楽しいお茶会をして笑い合った。


 ラジャ領を後にした彼らは惑いの森に足を踏み入れる。シアノスが目覚めていないことを確認した後、いつもの村を訪れた。村の老人たちはシアノスが眠っていることを知っている。けれどそのことには触れずに、キラとガルロを温かく迎え入れた。


 それからダレンザーン国、ディウジス大陸に入り、ツェンフェンと回って温泉街に戻ってきた。復興の手伝いやキズの治療をしながらの大陸一周はとても時間がかかった。各地に短くとも数週間から滞在し、徒歩でのんびり回っていたから当然と言えば当然だ。


 そしてラトスィーンから学び舎の話を聞かされた。


「学び舎……ですか」

「はい。教会本部の跡地に設立する予定です。そこでキラさんにお願いしたいのですが……」

「分かりました。私に出来ることであれば何でも言ってください」

「ありがとうございますキラさん」


 二人のやり取りを聞いていたリーリンは心中穏やかではいられなかった。二人はとても笑顔だった。しかし、同じ笑みでもこうも違ってしまうものなのかと恐々としていた。キラは慈愛の笑み、対するラトスィーンは狡猾な笑みを浮かべていた。


 リーリンの心配を他所にキラはラトスィーンに言われるがまま働いた。と言っても誰彼の弱みを握れとか体で懐柔しろだとか薄汚れたあくどい行為は全くない。言ったところで純粋無垢なキラが実行出来るとは到底思えない……思いたくない。


「リーリン?」


 ニコリと笑みを張り付けて睨めつける彼女から目を逸らす。兎にも角にもラトスィーンの思惑通りにことが運ぶようにキラの天性の慈愛で主に教会の人員の()を懐柔していった。さらには自主的に行った救済活動が功を奏し、彼は大陸中から女神と崇められていた。学び舎の顔になった彼の集客力には目を見張るものがあった。初めての教育施設というものは未知の存在だ。気にはなるが同時に恐れもある。けれどキラが安全だと言えば不安は和らぎ、戸を叩くものが増えていった。


 学び舎でのキラの役割は二つ。一つは聖女に対して神聖力の指南役。どうしても感覚頼りになってしまう部分が多いが、鼓舞と励ましによって上手くいっていた。もう一つは定期的な巡回。特に制約は設けずに学び舎内を好きに見て回るように言付けられていた。これは生徒たちのやる気を奮い立たせる要因になっていた。順路も時間も定まっていないからいつどこで会えるかは運次第。頻繁に通えば女神の姿を拝める可能性が高まる。そして良いところを見て欲しくて真面目に熱心に取り組むというわけだ。使えるものはなんでも使うのがラトスィーンだ。本人も楽しそうにしているので一石二鳥、いや一石三鳥である。


 その日キラは牧場を訪れていた。飼育されている動物たちを撫でて回っていた。見学者や飼育担当者は気もそぞろでチラチラと頻りにキラに視線を向けていた。何となく、凝視するのは憚られた。けれど気付いたら女神の姿は居なくなっていた。ガッカリと肩を落とした彼らは各々の本来の目的に戻って行った。


 一人の飼育担当が動物の数が少ないことに気付いた。厩舎にも牧場内の見える範囲にも確認しに行ったが圧倒的に数が少なかった。首を傾げた彼女は牧場内をくまなく探索していた。とある茂みに入ると動物たちの姿を見つけた。そして集まっていた理由も判明した。


「女神さ……ッ!」


 驚いた拍子に思わず大きな声が出てしまったのを慌てて両手で押さえる。


 茂みの中には木に背を預けて寛いでいるキラがいた。その周りを動物たちが穏やかに眠っている。そして、キラに膝枕されて気持ちよさそうに眠るガルロの姿があった。ガルロの頭を撫でながら微笑む姿はまさに女神のようだった。


 女生徒に気付いたキラは静かに口に指を当てる。みんなを起こさないように配慮しての行動だ。それを見た彼女は両手で口を押さえながら高速で首を縦に振る。声に出さずに感謝を告げて笑う女神を見て女生徒は堪え切れずに卒倒した。彼女は幸せそうな顔をして尊死した。


 その女生徒は絵心があった。画才があり風景画を描くのが趣味だった。彼女は持てる画力の限りを尽くし記憶にある『女神の安らぎ』を描ききった。その絵の存在がラトスィーンの耳に入り、学び舎の一室に額縁で飾られることになった。その絵を皮切りに学び舎に女神キラのギャラリーが作られたのはまた別の話だ。

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