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緑の魔女  作者: 猫蓮
おまけ
122/127

愉快なサーカス団

 サーカスのクラウンであるフーコ、ヤマト、ソロモンの三人は生身の人族だった。それ以外の人間はみな傀儡、それがサーカスだ。黒幕のパペッティアはサーカスのことはジェスターに任せていたので組織内のことは実は詳しくは知らない。実質サーカスのボスはジェスターというのは間違っていない。パペッティアはソーティリジュスとニー以外の傀儡は知らない。ただ魔力の糸を繋げていただけで実体は把握していない。それは黒き者も同じだった。どこの誰かも分からない人物を操っている。ジェスターが持って来た死体を。


 魔女狩りはジェスターが煽っているだけで今を生きる人種だ。サーカスとは関係ない。プロメテウスの不老不死の実験体と傀儡人形は別物で、彼に派遣していたオドバルも生者だった。実験体も傀儡も生者も実際に自我があって生きているようなものなので区別のつけようもないというのが正直な話だった。


 彼らの潜伏場所は大迷宮の二階層目だ。盲喰を支配していたためこのフロアに危険なものはなく、各々思い思いに過ごしていた。


 ソーティリジュスと二ーは旧知の仲でよく二人でお茶会を開いていた。と言ってもジェスターが居ぬ間という極めて限定的なタイミングでしか催すことは出来ないが。


「ジェスターったらずっと離してくれないの。監禁しておきながら男の気配がって疑うのよ?」

「相変わらず執着心が強いね。けれどソーティリジュスだって嫌とは思っていないんだろう?」

「うぅ……そ、うだけど、でもでも疑うってことは信用していないってことでしょう。そもそもそんな気さえ起こさせない起こらせないようにしている張本人が何を疑っているの?って思うのよ」


 ジェスターはソーティリジュスに今いる部屋から出ないように意思を縛っていた。この部屋から出ようとする思考すらも奪っていた。さらには二階層に留まっている全員にソーティリジュスに近付くなと命令している。彼をボスと慕っている三人衆は命令に従い部屋に近付くことすらしなかった。オドバルは基本的に研究施設に篭っているがたまにここに足を踏み入れている。けれども彼は魔物にしか興味がないのでただの人族である彼女に意識すら向かない。オルガも概ね似たようなものだ。二ーだけが唯一の交流相手だった。

 彼女もジェスターの命令を聞いてはいたが同時にソーティリジュスにお願いされた。折衷案として彼がいない間だけ相手をすることにしている。


「それにしてもここって他力本願な人しかいないわよね」

「……言われて見ればそうだね」


 ジェスターは精神操作と死霊術。フーコは蟲。ヤマトは言霊。ソロモンは隷属。オルガは機械人形でプロメテウスとオドバルは実験体。ソーティリジュスは戦えないし、唯一戦闘能力がある二ーも好戦的な方ではない。争い事は避けるに越したことはない他力本願とは的を射ているなと二ーは感心していた。


 一方その頃クラウンの生者三銃士もまた集まって膝を突き合わせて談話していた。


「つまんないつまんないつまんなぁい。何か面白いことが起きないかしらぁ」

「フーコ、駄々をこねるのははしたないですよ。ボスのショーはまだまだ先なのですから。今は抑えてください」

「分かってるわよぉ。それでもぉ退屈なのは退屈なのぉ」

「確かにー。ただ待ってるってのも退屈かもね」

「ヤマトもそぉ思うわよねぇ」


 キャッキャと笑う少年少女にソロモンが頭を押さえる。能力は買っているが頭脳に難があるようだ。見た目相応のと言えば否定できないが、いささかクラウンであることの尊厳を感じない。


「少し表に出て遊んじゃう?」

「少しぐらいなら許容範囲よねぇ」


 顔を見合わせてほくそ笑み二人の頭を叩く。


「軽率な行動は慎みなさい。仮に我々の存在が勘づかれることになってはこれまでの努力がすべて水の泡になります。ボスに見放されてもよろしいのなら止めはしませんが?」

「「はーい……」」


 つまんなーいという気持ちは隠しもせずに反省している風を装う。ボスに捨てられるのは嫌だけれど、それとこれは別だ。だからと言って退屈なのは変わらない。グチグチと文句を垂れる二人にソロモンの気苦労は絶えなかった。


 ーー◇ーー◇ーー


 魔女審判が始まる少しの前の話


 オドバルが興奮気味に大迷宮に帰ってきていた。彼は真っ先に二ーの元に向かう。足音の大きさから彼の様子がうかがい知れる。


「二ーなんてことをしてくれたんだ!」


 来て早々怒り出したオドバルに二―は首を傾げる。彼女は今フーコにお願いされてケーキを作っていた。怒っている彼のことは特に気にせずに完成したそれをフーコに配膳していた。ケーキに合う紅茶も用意済みだ。オドバルの分も用意すれば彼は怒りながらも席に座る。

 二ーのケーキに舌鼓を打つ二人を満足気に頷いているとハッと思い直したオドバルが再び二ーに視線を向ける。


「どうして彼女のことを教えてくれなかったんです!?」

「彼女?」


 誰のことだろうと頭を悩ませる。彼女と言うからには人間の女性だろう。魔物にしか興味のないオドバルが気にする女性が果たしてこの世界に存在しただろうか。


「緑の魔女だ!」

「シアノス……?」

「そうさ彼女だ。ああ、今思い出しても身体が歓喜に打ち震える。あれほど美しいものが存在していたとは……! 欲しい。体の隅々まで研究したい」

「なっ、毒の魔女はあたくしのものですわぁ。お前はそこら辺の魔物で満足していなさい!」

「何を言うかと思えば……あなたこそ蟲がいれば十分でしょう」


 本人の預かり知らぬところで熾烈な取り合いが行われていた。もちろん当の本人からすれば身の毛もよだつような話であろう。彼女がもしこの場面を見ていたら死んだような目をしていただろうなと二ーは思った。いや、嫌悪感を露わにした顔だろうかと思考が逸れる。


 フーコは同じ毒使いとしてシアノスを気に入っていた。オドバルは魔物になろうとしているシアノスに一目惚れした。ちなみにシアノスはどちらも嫌っている。好感度で言えば両人ともゼロを下回っているがとりわけ気味悪がったオドバルの方がフーコよりさらに下だ。


「シアノスは人気者だね」


 二人の様子を見ながら微笑ましく感じながら紅茶を飲む。シアノスの話を聞いていたら彼女のことを思い浮かんでしまった。

 久しぶりに会った彼女は最後に見た時より大きくなっていた。肩肘張って務めて気丈に振る舞っていたのが懐かしい。人を嫌い、嫌われるように振る舞っても困っている人を見過ごせない優しい子。魔女として侮られないように必死に演じている可愛い子。不器用な彼女のことを愛しいと感じていた。だからなのかシアノスのことを過剰に構ってしまっていた。


 二ーは思い出さないようにしていた。シアノスのことを思うと会いたくなってしまう。けれど自分はもう死んでいて、他でもない彼女の敵になっている。会ったところで以前のように接することはもう叶うことはない。瞼を閉じて少しの寂しさと共に想いを捨てる。目を開ければ元通り。二ーは二人の話を笑って聞いていた。


 そんな言い合いがされているとは露ほどにも思っていないシアノスだが、急に嫌な予感を感じて悪寒に身を震わせていた。

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