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緑の魔女  作者: 猫蓮
おまけ
120/127

エルフの悶着

 甘月彛との戦闘を終え、彼らはアルバを愛でながら休息を取っていた。陽が落ちてきてそろそろ寝床の確保しようと動き出そうとした時、それは来た。


「見つけたぞ大鎖碑! あやつではないか!?」

「五月蠅いぞ炎赤石。そこな大声を出さんでも聞こえておる」


 炎赤石ノ王と大鎖碑が彼らの前に現れた。二人の視線はアルバに向けられていた。獅子狼の四人が警戒して武器を構える。イルザはアルバを庇うように抱えるがその体は震えていた。彼の脳裏には里での惨劇が思い起こされていた。


「イルザ、あのお方はもしかして……」

「……主だ」

「生き残った者がいてくれて良かった!」

「ぬしはちぃとは反省せぬか」


 サニバンの問いにイルザが重々しい表情で答える。その暗い表情に戸惑いが浮かんだがすぐに消えた。主が想像と全く異なる性格だった。もっとこう、冷静というか厳粛なイメージだった。

 笑う彼の頭に大鎖碑が水の斧でぶっ叩く。重鈍い音がしたのに彼は変わらず笑い続けていた。困惑する彼らに気付いて大鎖碑は佇まいを正す。


「警戒せずとも良い。わっちらはそちらと争うつもりなどないさ」

「それを信じろと?」

「うむ!」


 大鎖碑は自信満々に頷く。グラッセの疑いを軽々と返すその姿は年相応の幼さを感じられる。先程の魔術といい気配といい、只者ではないと感じているがなんとも調子が狂う少女だった。


「では、どうしてこちらに来たのですか?」

「手が空いたでな。感じた魔力の正体を確かめに来たのじゃ」


 大鎖碑がゆっくりとイルザの元に歩く。未だに武器を構えている冒険者に気にも止めずに横を通り過ぎる。イルザに抱えられているアルバをじっと見つめ、その後ろにある神の遺物に視線を移す。目を細めて口角を上げる。


「……あの?」


 何かを察した風な少女にイルザが声を掛ける。もしかしたらアルバのことを何か知っているかもしれない。そう思って声を掛けたのだが、少女は扇を広げて微笑む。


「安心せよ。もうそやつが暴れる心配はなかろう。行くぞ炎赤石」

「ああ、承知した」


 それだけ言って少女は妖精の元に戻る。シャランと音が聴こえたと思ったら二人の姿が消えていた。一同は狐につままれたような顔をして見合う。


「なんだったんだ」

「さあ」


 謎が謎を呼んだだけだった。


 気を取り直すようにグラッセが咳き込む。


「これも何かの縁だろう。とりあえず自己紹介といかないか? 俺たちは獅子狼って冒険者パーティーなんだか……知らないか」


 反応のないエルフ族の様子に知らないと察した。獅子狼はSランクパーティーで知名度が高い。ギルドに彼らが訪れればすぐに辺りはざわめき、街中でも注目されることが多かった。顔は知らなくとも名前ぐらいはと思ったがそもそも里から出ないエルフ族が世俗のことなど知る由もない。


「俺はグラッセ。メテリアーナ、イブキ、テンだ」

「イルザと申します」

「私はサニバン、あそこにいるのがマコルだ」

「御三方はこの後の予定はございますか? 良かったら――」

「イブキはアルバと居たいだけでしょう」

「もちろんですとも!」


 イブキはアルバの虜になっていた。離れがたさ故の提案だと丸分かりだ。


「惑いの森に向かおうと」

「里に戻ろうと」


 イルザとサニバンが顔を見合わせる。


「里に行っても何もないぞ」

「どういうことだ?」

「エルフの里は滅びた」

「なっ?! どういうことだイルザ」


 サニバンがイルザの胸ぐらを掴む。けれど彼の表情は皮肉げに笑う。


「里を捨てたくせに、今さら里の心配か?」

「それはっ」

「里は主によって跡形もなく燃やされた。残った者は私だけだ」

「そんな……」


 イルザは絶句しているサニバンから視線を逸らした。もう会うことはないと思っていた。いや、会いたくなかった。絶望の中、サニバンに怨みが芽生えた。どうして彼女は里を捨てたのか。自分だけが絶望の淵にいるのに彼女は知らずにいると思うと怒りが生まれた。だからこそ、考えないようにしていた。仲間にこんな醜い感情を抱きたくなくて封じ込めるように殺した。

 摘み取ったはずの芽が再び存在を主張する。口を開けばどんな罵詈雑言が吐かれるか自分でも分からない。だから口を噤んで彼女を見ないようにした。もう一度感情を殺そうとしているのに上手くいかない。

 二人のエルフの間に微妙な空気が落ちる。


「ハイ、ハイ! 緑の魔女殿の元ならお供致します」


 空気を払拭するような明るい声が響く。イブキが手を挙げて目を輝かせる。因みに相談はしていない。完全に彼女の独断だ。アルバと離れたくない彼女は諦めていなかった。それを察しているパーティーメンバーはため息を吐く。こうなっては何を言っても意思を変えないことはこれまでで十分体験している。


「すまないイルザ。同行の許可をもらえないか?」

「……構いません」


 イルザとアルバ、獅子狼は惑いの森へと足を進めた。


 サニバンは彼らについて行かなかった。別れの挨拶もせずにその背を見送った。イルザと視線を合うことはなかった。それはあの時とは逆だけど、奇しくも似た状況になった。仕返しのようなそれにサニバンの心は深く傷ついた。里の状態にショックを受け、イルザの怒りが追い打ちをかける。


「……ああ、大丈夫だマコル」


 心配するように寄り添うマコルを抱きしめる。その手は声は震えていた。けれど涙だけは流さないと必死に抑えた。涙を流す資格はないと己を諌める。自分は里を捨てたのだから。今の今まで里の状況を知りもせずにマコルと楽しくと居た自分にはイルザの怒りも当然と思った。


「すまない……イルザ」


 その声は静まりかえった森の中に静かに吸い込まれて消えていった。彼女は決意した。もう二度とイルザには会わないと。それが犯した罪の贖罪なのだと、自分を戒めた。




 惑いの森に着いた彼らに待ち受けていたのは何も無い平地だった。記憶ではそこに魔女の家があったはずだ。けれど、目の前には何も無かった。


「あれ?」


 獅子狼が顔を見合わせ首を傾げる。指を差したり、首を横にふる。来たこともないイルザは彼らの様子を見て目を瞬かせる。


「っかしーな。確かにここに家があったのに」


 グラッセが頭を搔く。場所は間違っていない。けれどそこに家はなかった。


 彼らが温泉街に滞在しているキラに会えたのはそれからだいぶ日にちが過ぎた頃だった。



「あの、キラさん。彼女、ダークエルフの方はどこにおられるかご存知ですか?」


 二人になったタイミングでイルザがキラに尋ねる。


「セフィラさんのことですか? 彼女はもう……」


 それ以上キラは言わなかった。けれどそれだけで彼女がもう生きていないことは察するには十分だった。


「そう、ですか。いえ、いいんです。少し……気になることがあっただけですので」


 昔、イルザが住むエルフの里にはダークエルフ(呪いの子)がいたらしい。その時彼は幼く、後になって伝え聞いた話だ。一時、村の作物が育たなかった時があった。その時は呪いの子を追い出したことで再び作物が育つようになった。これは炎赤石ノ王が洗脳される前だと推測される。イルザはもしかすると彼女が件のダークエルフではないかと思った。なぜなら、ダークエルフのほとんどが生まれた瞬間に殺されるから。エルフ族は嘘を嫌う。例えどんなに忌々しく思っても誤魔化すことはしない。だから追い出したということはその時点では死んではいないということだ。


 今思えば彼女は怯えていた。それこそが答えなのではないだろうか。同族のエルフ族から迫害を受けたという過去があるのなら怯えるのも無理はない。イルザは目を閉じた。もし、彼女がそのダークエルフだと分かっても何を言えようか。当事者ではなくとも自分がその状況に目の当たりにしたら同じように行動しないとは言い切れない。イルザが何を言ったところで過去を精算することは出来ないし、彼女が浮かばれることは無い。それは今の自分が一番良く理解している。


「イルザさん?」


 心配そうに顔を伺うキラになんでもないと返す。触れないように別の話題に切り替えた。


 イルザが想像した通り、セフィラはイルザがいた里の出身だった。けれど彼女の境遇は偶然が重なった上の不運だった。当時、炎赤石ノ王はマオにお願いされて惑いの森にいたため不在だった。そしてその時たまたま仙狐が命を落とした。二つの守護がなくなった少しの間不作に陥った。セフィラが追放されてから元に戻ったのは仙狐が蘇り、しばらくして炎赤石ノ王も役目を終えて戻ってきたからだった。この事実は知る由もないことだ。

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