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緑の魔女  作者: 猫蓮
本編
102/127

お大事大事

「それじゃあギルドに戻ろうか」

「うん。その後はシャカア領に行かない?」


 迷宮を攻略し終えたゾルキアとアレキシオは次の予定を話しながら外に出る。二人は各地を旅しながら冒険者まがいの活動をしていた。迷宮は定期的に攻略しないと魔力がこもりすぎて氾濫してしまう。それを抑えるために不人気や難易度が高い迷宮を中心に攻略していた。


 迷宮を出た先に緑色の伝書鳥が止まっていた。


「シアノスからか」

「彼女が送るなんて珍しいね。……ルキ?」


 険しい顔をしたゾルキアに不安が過る。伝書鳥の内容は他人が盗み見ることは出来ない。なにが書かれていたのかは本人の口から聞くしかなかった。ゾルキアは一人で抱えてしまうきらいがある。魔女として言えないことが多いだろうから仕方なく思っているけれど、それでもやっぱり寂しいと思ってしまう。お大事だからといっても魔女ではない。それとは別にアレキシオに不安にさせないように気を遣っているというのを感じている。心配させないようにしてくれるのは嬉しいが、頼りないと思われているようで寂しい。言ったところで頼りにしていると返されるのは目に見えている。


「ヘクセが襲われた」

「……え!?」


 教えてくれたことに驚いて、その内容にも驚愕した。ヘクセがある離島は魔境になっていて、建物自体巧妙に隠されている。見つけるのですら難しいことだった。それにわざわざヘクセに喧嘩を売ろうだなんて人がいるだなんて思いもしなかった。魔女個人に対する多少の攻撃は過去あったけれど拠点であるヘクセに対してはいままでなかった。


「誰が……ッ?!」

「大丈夫かアレク」

「う、うん。ありがとうルキ」


 突然二人を狙った攻撃が飛んできた。ゾルキアがアレキシオを庇って避ける。二人がいたところには魔術が着弾した跡が残っていた。


 ゾルキアが前に出て警戒する。守られているアレキシオも戦闘に備える。ゾルキアの実力は次元が違い、彼にばかり注目がいくがアレキシオも戦えないわけではない。ただゾルキア一人で完結してしまっているせいで出番があまりないが。アレキシオ自身も謙遜しているがその実力は冒険者のSランクに相当する。なぜならゾルキアによって鍛えられているから。知らぬ間に着々と実力をつけさせられていた。

 生家から出た後、護身術を乞うたのが始まりだ。現在まででもあまり実践経験を積ませてくれなかったから本人は自信を持っていない。それでも過去にAランクの魔物を難なく倒したことがある。そのことすら本人には知らされていないが。ゾルキア曰く、戦わせるつもりはないけどあって損はないとの事だ。護身術の枠を超えているのは確信犯だった。


「どういうつもりだアルノー」

「……アルノーさん、セフィラさんも」


 ゾルキアの声にアルノーが姿を現す。その後ろには彼のお大事であるセフィラの姿もあった。そして、二人とも武装状態だった。

 アルノーは何も言わずに魔道具を構え発動する。銃の魔道具だ。ゾルキアは弾を剣で斬る。


「もう、死んでるんだな」


 一瞬だけ悲しい顔をしてすぐに戻る。その眼差しはもう仲間に向けるようなものじゃなかった。本気で殺そうとしている眼だった。


「アレク、二人はもう殺されて敵に操られている」

「そっ……じゃあ」

「ああ。もう元の二人じゃない」


 視線を外さず話し合う。そしてゾルキアは駆け出した。時同じくしてアルノーも魔道具を構える。両手には異なる見た目の銃。さらに彼の周りにも三つの砲台が浮かんでいる。迫りくるゾルキアに向かって一斉射撃した。五つの弾を躱し弾き避けながら接近する。ゾルキアは初めから二刀で交戦していた。


 魔女同士がぶつかり合う中、お大事同士もまた戦闘していた。


「セフィラさん正気に戻って、くッ」


 矢を躱した先にセフィラが急接近して切りかかる。それを剣で防ぐ。


 ダークエルフは身体能力が高い。エルフ族の得意とする弓術に加えて接近戦の心得も習得している。それはセフィラにも当てはまることだ。弓とナイフを素早く切り替えながら攻撃してくる。

 対するアレキシオは死んでると分かっていても傷付けまいと防戦一方だ。正気に戻るよう訴えかけている。それでも攻撃を食らわずにいなしていた。


「どうしてですか……セフィラさん!」


 必死に語りかけるアレキシオにセフィラは何も答えない。けれどアレキシオは目を見開く。セフィラが涙を流していた。泣いていた。そして声に出さずに「ころして」と言った。


 アレキシオの心は葛藤している。セフィラとは同じお大事として仲が良かった。彼には仲間を傷つけることが出来なかった。アレキシオは優しい性格だ。魔女のように無情にはなれなかった。なにより、セフィラが死んでいるようには見えなかった。ゾルキアが嘘をついているとは考えないがどう見ても生きているように思える。それが彼の心を惑わせる。


 ゾルキアはアレキシオを心配するも気にかける余裕がなかった。アルノーとの相手で手一杯だった。被害が及ばないように離れた場所に誘導したものの拮抗状態だ。アルノーの戦闘手段は自作の魔道具。それも世に出ていない、情報も共有していない物ばかりだった。多彩な魔道具に翻弄されていた。


 ゾルキアは他の魔女と模擬戦をしていた。インデックス以外は戦闘経験はある。けれどそれはあくまで模擬戦という決められたルールの中だ。お互い手の内はある程度隠していた。あくまで遊びの一環としての対戦だった。今は楽しむ余裕はない。これは遊びではなく生死を掛けた本気の殺し合いなのだ。少しの油断が命取りになる。


「守レナカッタノ」


 不意にアルノーが声を発する。それでも攻撃の手が止んでいない。


「セフィラヲ守レナカッタノ」


 それはアルノーの後悔だった。アルノーが殺された背景にセフィラの死があった。つまりお大事を守り通せなかった。お大事を亡くした魔女は死ぬ未来しか残されない。基本的に自害するが死を拒否した場合は他の魔女によって粛清される。これはヘクセの掟だ。


「そうか」


 ゾルキアはそれだけ言って反撃に出る。愛する人を失い、命を絶ってなお死ぬことを許されない。操られているが僅かに自我が残っているようだった。果たしてどんな心境なのだろうか。どれほどの苦痛だろうか。あまりに惨たらしい非道な行為だ。想像するだけでゾッとする。こんな哀しい戦いはあんまりだ。アルノーのためにも早く終わらせるべきだ。その一心で剣を振るい魔術を放つ。


 これ以上、彼が苦しむことがないよう安らかな死を。

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